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国家滅亡 ―side ライナー―

 苦笑いがこみ上げるが、もう文官にも先生にも未練はない。


(そうなると……彼なら入れたはずだ。

 もう一つのキーワード”凄惨な光景”を。

 何処だ?)


 …………

 …………


(……あった。12月28日だ!)



 “サーシャお姉ちゃんは笑いながら走ってお城に向かっていきました。

 すごく()()()()()でした”



 最初は、サーシャの奇怪な行動の末路について凄惨な光景だと言及したのだと思っていた。


(最後の最後まで取るに足らない日記として切り捨てる選択肢を残してくれたようだが、生憎もう俺は”先生”ではないからな……)


 おそるおそる()()の”凄惨な光景”に指を押し当てた。

 うっ……禍々しさが脳裏に込み上げてきた……



 ――ここは地下牢獄だろう。

 今はほとんど使われていないはずだ。

 その一番奥の独房だ。分かりにくいが、石壁のボタンを押すと人1人通り抜けられるくらいの下り階段が現れた。

 これは言うまでもなくルーク王子の記憶。

 そして、下ったすぐ先に全裸の10代とみられる女性がうつ伏せに倒れていた。


(……遺書にあったルーク王子の聴いた声の主だろう。発声がここだったから、何とか悲鳴として聴こえたのだろうな)


 既に事切れていた。


 その先は、うす暗いがところどころ、松明に火が灯り、奥に続く。

 昔使われた脱出経路だろうか、記憶映像だけでもきな臭さが分かる。


 やがて、広間に差し掛かり、2人の男性、それに……なんと15人はいるであろう15歳~20歳と思われる女性が眼に入った。広間を呼称するならば、地下監獄だろう。

 ここでルークは岩陰に隠れたようで、気付かれないよう細心の注意を払っているのが分かる。

 分からないくらいではないが、映像がとぎれとぎれになるのだ。

 見つかったら、おそらく家族といえど亡き者にされるだろう。それぐらいの光景だ。


 そう、全裸の女性達を2人で凌辱し、廻しているのだ。


 直に見てしまったルーク王子は吐き気すら催すであろう光景だった。

 見るに耐えない光景だ。

 まさしく”凄惨な光景”だった。


 方向的には、修道院の方角へ地下通路が続くため、おそらくは修道院からアクセスも出来るのだろう。


(……悪いお嬢様は修道院でお仕置きってことなのか?)


 だが、これはお仕置きというレベルではなかった。

 正しく拷問であり、性奴隷なだけだ。



(何てことだ……)


 ライナーがもしこの遺書を知らずに陛下にエリシアの冤罪を申し出たとしたら、エリシアは保護出来るが、代わりに修道院行きとなるのは……罠を仕掛けたサーシャとなるだろう。自業自得と言ってしまえばそれまでだが……


 果たして、苦しくも親友であったというサーシャが陵辱される事をエリシアは望むだろうか?


 これが何を意味するか……

 全てを解決させるには、国家の闇に立ち向かう必要があるという事だ。

 これは賭けだ。自分の地位立場、命まで全て投げ出す覚悟が必要なのだ。


(ふぅ……俺にとって、これは不運なのか、あるいは幸運なのか……腹を決めるか……)


 ただし、リオンは確信していたらしい。エリシアを助けると決めたならば、ライナーが最後まで日記のメッセージを読み解いてくれることを。


(逃げ道を与えながらも、思い通りに誘導するとは……やられたよ……やれやれだな。

 ――リオン! こうなってしまったからには、俺に任せておけ!)


 確かに時間はない。エリシアが修道院行きになれば、2人の毒牙が襲い掛かるだろう。

 ライナーは、信頼のおける傘下の貴族達にこの腐った国家の黒い真実を告げた。

 急の事態である事を認識した当主たちは、領民、国民に直ちに公表。

 国家に武力による抵抗力はない。日々平和ボケした練度の低い兵士たちだ。

 領主達の必死に整えた豪華な兵種の敵ではない。


 ――必死だった。

 ただし、ライナーの律儀な文官生命は、決して無駄ではなかった。彼は、自分が思う以上の信頼を、貴族のみならず民衆からも勝ちとっていた。


 世論は国王、及びカイル王太子の許されぬ悪行の断罪を支持した。

 そこに情状酌量は微塵もない。


 そして、ついに正式なる国家裁判が開廷され、揺るがぬ証拠をつきつけられた陛下たちに、抵抗する術はなかった。


 地下監獄からは速やかに、恥辱を味わってしまった女性たちが助け出された。

 カウンセリングは必要なものの城の牢獄の出口付近で息絶えた女性以外、全員の命が救われた。


 国王、及びカイル王太子は斬首。

 その首は公然にさらされる事になった。

 これを目の当たりにした元来傀儡同然だった王妃は、たちまち体調を崩し、ショック死したという。

 サーシャは、心身を喪失し、改めて修道院に幽閉された。


 これを以って、ルシェ国家は滅亡した。


 ――議論は、亡き王国を今後どうするか?

 だったが、眼の肥えた貴族達も、世論も一番の立役者であるライナーを次期国王に推挙した。

 だが、元々ライナーは平和主義者。

 力推しの王国制度は好きではなかった。


 そこで、ライナーは信頼できる貴族領主と協定を結び、王制を廃し、ルシェ王国をルシェ連邦国へ改名することで合意した。

 初代連邦国盟主は、もちろん正義のヒーロー、ライナーだった。


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