ライナーの憂鬱 ―side ライナー―
――クロードへの王命伝達を終えたアルフレッド子爵家から帰還したライナーだったが、仕事で忙殺されていた。
新年早々めでたい年であるのに……頭を抱えていた。
1000年に一度という新年を祝うミレニアムパーティーで、事件が起きたのだ。
陛下が外遊中で不在の今、どうにか穏便にイベントは済ませておきたい。
そう思っていた最中、王太子殿下であるカイルが、伯爵令嬢のフィアンセ『エリシア』に対して”婚約破棄”を告げたのだ。
この令嬢は、非常に生真面目で、その美貌にも定評がある。穏やかな所作でいつも優しい印象だ。
婚約破棄されるような性向はないはず。
第1王子だったルディーの廃嫡があったばかりだと言うのに……
そう思いながらも、終始殿下に寄り添っていた、ブルーの巻き髪の令嬢サーシャを思い出した。
明らかに女性に手癖の悪い殿下に取り入った感じだが、なんでもエリシアに執拗なまでの嫌がらせを受けていたというのだ。
昨年クリスマスイブに行われたクリスマスパーティーには招待こそされてはいなかったが、エリシアの親友と言う事で同席し、その際初めて会ったというのに、殿下の彼女への熱の入れようはすさまじかった。
そこに嫉妬を覚えたエリシアが、親友といえど逆上し、度重なる虐めに走ったということだった。
――そして、ついに雪の積もるある日、サーシャがひどい有様で城門に現れた。
冬休み中であったがエリシアに公園に呼び出され、ナイフで脅され、可愛く着飾ったワンピースを切り刻まれたあげく、近くの畑に連れていかれ、備え付けの肥溜めに突き落とされたというのだ。
直接彼女から、このあり得ない所業を聞いた殿下の怒りは最高潮に達し、新年早々皆が集う中で、エリシアを公開断罪した。おめでたいはずの新年ミレニアムパーティーという場にもかからわずだ。
陛下が不在である今、こんな事があってはならないのに。
文官であるライナーは状況報告と、傘下の貴族達に速やかな通達の任がある。
この先考えるだけで、憂鬱なのだ。
しかも彼は今、国立貴族学園初等部五回生の冬季休業の課題チェック中だった。
これは公務の一つであり、職員不足解消にも繋がるのだ。子供の課題の添削だからと言って手は抜けない。長期休暇の課題添削はライナーの重要な仕事になっていた。
その中でも今は、もっとも子供たちの冬休みの生活を、垣間見れる日記を読んでいる最中だった。
そして……じっと見つめる先はある男子生徒の日記だった。
婚約破棄だけで、神経がすり減らされるのに、まさか子供の日記で背筋を凍らされることになるとは……
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氏名:リオン・ミグレット
・12月24日(土)
――僕にはとっても優しいお姉ちゃんがいます。
16歳のエリシアお姉ちゃんは僕の宿題をいつもやってくれるので、とっても頼りになって大好きです。
なんでもうちは”伯爵”という結構えらいお家だそうで、エリシアお姉ちゃんは、王国王子様のお嫁さんに行くことが決まっています。
そんなエリシアお姉ちゃんには、すごく仲良しのお友達がいます。
サーシャ・ノワールというブルーの巻き髪のとっても美人のお姉ちゃんです。
サーシャお姉ちゃんは、”男爵”という家柄ですが、いっつも綺麗な恰好で、僕ともよく遊んでくれます。とっても器用でなんと魔法が使えるそうです。
今日はお城でクリスマスパーティーがありました。僕もエリシアお姉ちゃんの弟として同席することになりました。
それを知ったサーシャお姉ちゃんに、お礼に一つ魔法を教えるから、わたしも連れて行ってとお願いされ、エリシアお姉ちゃんに相談して、一緒に行くことになりました。
サーシャお姉ちゃんはすごく綺麗なドレスを着ていつも以上に可愛らしく見えて、王子様も目をハートにして喜んでいました。
二人はバルコニーへ出ていっていい雰囲気になっていました。
お嫁に行くのはエリシアお姉ちゃんなのになぁ……
でも約束通り、帰りにしっかりサーシャお姉ちゃんには魔法を教えてもらいました。
なんでも決定的瞬間を押さえられるすごい魔法みたいです。
すごくわくわくするので、冬休みの間、毎日練習することにしました。
サーシャお姉ちゃん、便利な魔法教えてくれてありがとー!
・12月25日(日)
今日は、朝からお外に雪が積もっています。
とっても綺麗で、エリシアお姉ちゃんと、雪だるまを作りました。
何だか、よく学園に授業を教えにきてくれるいつも怖顔の文官様にそっくりになってしまいました。
でも僕にとっては正義のヒーローみたいにかっこいいです。
そして、昨日ドキドキして開けられなかったクリスマスパーティーのプレゼント交換で、もらったプレゼントを開ける事にしました。
初等部以下の子供達だけでのプレゼント交換でした。
僕は大好きなウサギのぬいぐるみをプレゼントに持って行ったのだけど、誰がうけとってくれたのだろう。
あとおかしな事に、プレゼントだけ1つ余っていました。
僕がもらったのは、ピンクのリボンがついた青い小さな箱でした。
ドキドキしながら開けると……
1枚のクリスマスカードだけポツンと入っていただけでした。
たったこれだけで何だか気持ちが悪い気がしたけれど、折角のプレゼントなので取っておくことにしました。
ゲームとかが欲しかったなぁ……
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――ここまでは何の変哲もないような内容だった。
問題はこの先だ……