優しい騎士との再会
馬車から降りてきたのは、気分よさそうな表情のライナー。
それにあれは……こちらを振り向き会釈した清楚な中性的な顔の騎士。
そう、あれはかつてリーシャ断罪時の馬車で見張りをしたあの心優しい騎士だった。
エミリーを呼び、二人を邸内にあげてもらおうとしたが、どうも緊急のようで外で大丈夫だと言われたらしい。
俺と、マール、リーシャは外へ挨拶に出た。
ライナーから出た言葉は、表情とは裏腹に、意外なものだった。
「これはこれはクロード君、先日は良い返事をありがとう。
今日は予定であれば、是非ルシェ王国国王陛下への謁見をお願いして、よりよい関係を築いてもらう機会を設けるつもりだったのだけど、急遽出立をお願いしたい事案が発生致したんだ。陛下自身も外遊に出る事になってね。今不在なんだ。詳しくはこちらの近衛騎士エドワードから聞いてくれたまえ」
「ただ今、ご紹介にあずかりました、王国近衛騎士エドワードにございます。勇者様を目の前にしながら僭越でございますが、2年前に国家追放とされました元王太子ルディーと、元伯爵令嬢のメルの2名の動向が芳しくなく、この度確実に海賊団『赤眼』の一員になったと探っていた斥候より報告がありました。アジトが国外領域の為、現在は監視出来ない状態だそうです。
我が陛下も非常にお嘆きの上、生き恥を晒すなと言う事で、この度勇者様に確実に処罰を下して頂きたいというお申し出がございました。つらいお役目を押し付けてしまい申し訳ないとの事でございますが、お引き受け頂きたく存じ上げます」
「2年前のあの時、あなたは俺に気付いていながら、見逃してくれました。またリーシャを精神的ショックから救って頂き感謝しています」
「――あの時は本当にあなたの一言で救われた気が致します。あの別れ際の一言でわたしが、どれほど救われた事でしょうか」
「まさかわたしのような者を覚えておいて頂いて恐縮にございます。わたしこそあの場にクロード様がいて頂いたおかげで、国家反逆罪を背負わずに済んだのでございます。あなたがいなければ、確実にリーシャ様を連れ去ってしまっていたでしょうから。しかしクロード様の尾行が完璧で、察知するのは本当に難儀でした。お見事です」
俺の尾行未熟じゃなかったのか?
それに俺がいなかったら、この人が結局はリーシャを保護する手はずだったのか?
意味深な感じだ。
「わたしは、今回の事案に関しまして、陛下より勇者様ご一行の護衛と、案内の任務を頂いております。なんなりと所用をお申し付けください」
地面に膝を立て、敬礼するエドワード。
「――屋敷にも、上がらないと言う事は、相当な緊急事態なんじゃないか?」
「すみません。おっしゃる通りでございます。実はわたしには生まれ持っての『千里眼』がございます。一族の末裔と言う事になりますが、あのリーシャ様追放時の、クロード様の尾行を察知できたのもその権能でございます。今、国外追放者2名に異変が起ころうとしているのを感じます。海賊団に加わり生きながらえているのは、間違いございませんが、生かすも殺すも海賊の騙し討ちで終わらすわけにはいかないでしょう」
確かにあのバカ殿下なら、海賊王になれるからと言われれば、ホイホイついてくだろう。騙し討ちされようが、知ったこっちゃないが、せめて人に害をなす前に、己の罪を受け入れて自害せよと言いたいのだろう。
「エドワードさんの『千里眼』は真実の眼、先を見通す眼とも呼ばれますわね。それで、あの二人の異変に気が付いたわけですね。現在の居場所も見当がつくのでしょうか?」
「はい、リーシャ様、血縁はもう薄く『千里眼』とは言っても未来を予知できるような高貴な能力はございません。ただ意識を飛ばした者の現在または直近の状況を推し量る事は出来ます。
居所の察知が確実に出来るため、わたしが同行する事になりました」
「――では早速行ってみようか。あの二人が悪行を働く前になんとかしろって事だよな。場所の当たりは着くんだけど、おそらくコーネリアダンジョンの入り口から崖沿いに進むと、海へ出る抜け道があるんだ。その先には、無国籍の人たちが作ったスラム街があるんだ。そこであれば、元王太子であっても気付かれやしないし、他人に無関心だ。最低限の生活をそこで続け、海賊の儲け話でも耳にしたんじゃないのかな」
「クロード様のおっしゃる通り、場所はおそらくそこでしょう。あの森は危険な魔物がいて誰も近寄りませんから。海沿いへ続く道は断崖沿いで狭く魔物も近寄りづらいですから。空の主スカイドラゴンは何故か、もういないようですし」
「ライナーさんは、陛下へご報告があるでしょうが、屋敷でゆっくりお休みなさってから出立してください」
「――気遣いに感謝するけど、ちょっと仕事がたまっちゃっていてね。
子供達が待ってるんだよ……」
頭を掻きながら照れ笑いするライナーさん。
こういう笑顔出来る人なんだな。
子供ってなんだろ?
「ではエドワードさん、俺はコーネリアダンジョンに瞬時に移動出来るんだ。早速で悪いけど状況把握に向かおうと思う。いいですか?」
「もちろんでございます!」
皆に挨拶と、指示を出し、俺は【空間連結】を出し現場を目指した。