勇者との出会い ―side マール―
扉の先には……
何ここ? わたくしは見た事があります。
よく教会にある懺悔部屋というところです。
何故シェルターから直通なのでしょう?
あまり深く考えないように努力します。
「こんにちは、お若いお嬢さん、恋人と喧嘩されたのですね? わかります」
若い男性の声がします。
へ? もしかしてのぞき見されてました?
おかしな人だったらと警戒は怠りません。
「失礼します。わたし牧瀬……いえマールと申します。あの……恋人はいません。今日ここに来たのは……」
ここが異世界領域だとしたら、ユリの考えたニックネームの方がきっと現地人に馴染めると考えました。
「なるほど。あなたはご両親、ご兄弟と喧嘩をしていらっしゃるのですね」
これも見当違いなのですが。もういません。すごくつらいです。どうしてこうもづかづかと……
随分若い男性の声ですが、トーンが落ち着いているせいか、結構失礼な事ぐいぐい聞かれていますが素直に答えてしまいました。
「あの、わたしはとある事情で児童養護施設から、聖女を目指して参りました」
「……合格、いえ、失礼、それははるばる大変だったでしょう。児童養護施設とは、孤児院のようなものでしょうか?」
ん? 合格? 何でしょうか?
「孤児院のようですが、わたくしの世界では法律に遵守したもので最低限の生活が出来るものです」
扉を超えたら、フキさんは違う世界に繋がると言っていました。もう既に異世界かと思ったので、なるべく伝わるように話します。
「あなたの意気込みはしかと聞き届けました。きっと神もお許しになられる事でしょう。さあ、手を合わせ、ここに懺悔するのです」
ちぐはぐな上に神様に謝る事、なくないですか? 異世界に行く為の儀式でしょうか?
「……あの……何を懺悔すれば……」
「ああ、そう心配しなくても大丈夫です。別にその聖女服が際ど過ぎてエロいから罪だなどとは誰も思いませんでしょうし。わたしも毎日、朝必ず日の出に向かい懺悔しますので」
「……はあ」
何かすごい人なのは分かったけれど。何で懺悔なのでしょうか? 聖女服はわたしが悪いわけじゃ……
んー。フキさん、ここが力をつける切り札なのでしょうか? そうであれば、わたし立派な聖女様になってみせます。
懺悔とは違うけれど。
何かすうっとしたような感じがします。
「ほうほう、どうやら……心が清められたようですね」
「……はい。何となくですが」
「では、最後にあなたのご活躍を祈ります。お手を出して下さい」
「えっ? 手ですか? こうでいいですか?」
わたくしは、仕切りの窓の前に手を出しました。
すかさず伸びた素早い手がわたくしの手を握りました。
へ? これもしかして新手の痴漢でしょうか?
「素晴らしい! この白魚のような綺麗な手。ずっと観察していたいくらいですね」
この人は危険だ!
そう考えていると、ふいに何か不思議な感覚が脳裏を巡りました。
「……これで大丈夫です。あなたにはきっと人生最良の道が開かれる事でしょう」
意味深な言葉を残されて、懺悔部屋の向こうの気配が消えました。
小部屋を出ると、大きなステンドグラスに囲まれた、日本でも見慣れた聖堂の中でした。
わたくしは、家族を失ってから、日曜日にはよくお祈りに行っていました。
「おお、どう見てもあなたが、聖女希望で間違いないですね」
太腿の辺りをチラチラ見られている気がしますが、多分司祭様です。フキさん、この聖女服男性ホイホイになりませんか? 心配です。
「はい、そうなります」
何故言葉が通じるのかは分かりませんが、わたくしが知っている異世界ファンタジーでは言葉が通じる事はマストでした。何故ならラノベが母国語しか受け付けないからです。異世界文字書いても誰も読めませんので。
文字の読み書きはどうでしょうか? う……残念ながら聖堂内の壁にある文字などは、全く読めません。
やはり異世界はそんなに、甘くないようです。
「ではどうぞVIP様。奥の応接室にてあなたをお待ちの勇者パーティーの皆様がいらっしゃいますので」
話がすごい飛んでないですか?
勇者パーティーって何ですか?
多分異世界でも数える程しかいないの、わたしでも分かりますが。
……コンコン。
ドアをノックすると、
「……どうぞ」
澄んだような爽やかな男性の声が聞こえました。きっとたいそうなイケメンなのでしょう。
あれ? でもこの声? んー。まあ、いいか。
「失礼します。わたしマールと申します」
中にはみすぼらしい格好のわたしとは違い、一目でブルジョアだと分かる装備の方達がいます。
金髪のイケメンいました。これは絶対勇者様でしょう。もう一人の男性は、すごい。ゴリラみたいな筋肉隆々の方です。絶対戦士様ですね。
女性陣ですが、高位な神官服の銀髪の美白女性がいらっしゃいます。間違いなく聖女様です。そして、黒のミニスカートで栗色の巻き髪の麗しい女性。魔法使い様ですよね。
あれ? これ既に何にでも対処出来る正規パーティー完結してませんか?
わたしは何なのでしょうか?
「初めまして。僕が勇者のアークだ。今回は僕達の魔王討伐の旅に参加してくれてありがとう」
それがわたくしと、勇者アーク様との出会いでした。
――そこまでをお二人にお話ししたところで、お二人は涙で顔がグシャグシャになっていました。
あの……まだ本編はここからなのですが。
少しばかり長くなってしまいましたが、何故わたくしが勇者パーティーで活躍できたのかは、今はまだ言わなくてもいいかなと判断しました。
それでも……こんなわたくしでも、リーシャちゃんは優しくわたくしを恋のライバルと認めてくれました。
だから、わたくしは今とっても楽しいです。




