勇者の資質とは
「二人とも、お帰り。帰って早々悪いけど、王家から来客なんだ」
「おーこれはこれは。わたしは、ルシェ王国文官ライナーと言う者だ」
ライナーさんがやはり、深い敬礼で二人を迎える。悪い人ではない気がする。
「それはわざわざ、こんなところまでお疲れ様でございます。わたしがリーシャです」
「同じくわたくしが、マールでございます」
「お前達が戻るまで、ライナーさんと話をしていたんだけどさ……実はライナーさんは、マールへ用事なんだ……三顧の礼と言うべきか」
「クロード君の言う通り、今日は、マール殿へ勇者の打診をしに参ったのだ」
「――えっ? わたくしがですか?」
「前任のアーク殿よりご推挙があったのだ。アーク殿はどうやら君に勇者の資質がある事を、見抜いていたようなのだ」
「わたくし元々アーク様に、追放された身ですよ?」
「それは誤解だったと認識している。君が無能だから追放されたのではなく、性女であったから風紀に抵触すると言うことで、追放されたのだよね。大丈夫。我が国王陛下も了承済みだからね」
さっきまでの俺との会話は、何だったのだろうか?
「あの面倒なので言っておくと、マールは二人いて、こちらは『聖女』の方ですが、それで合ってますか?」
「ああ、本家の性女のマール殿には、既に会っていて、その御業まで体験済みなんだ。このライナー、誓って間違いなど起こさないさ! だけど、あの……もしやあの独り身こそが『華麗な御業を持つ股に定評のあるマール』殿だったのだろうか? そうであれば先ほどはとんだ無礼を……」
なんだと!? 性女マールさんの御業にかかって正気を保てるとは、ただものではないな。
俺はライナーさんに対する警戒レベルを上げる事にした。
しかも最初この聖女マールを『華麗な御業を持つ股に定評のあるマール』で決めつけてきてたよね……
「では、勇者候補にと言うのは、わたくしで、間違いないわけでございますね?」
「……ああ」
「でも、何故マールちゃんが勇者の資質を持っていると言えるのですか? わたしとマールちゃんは、ご近所でも評判のおしどり性婦なんですよ?」
なんだそれ? やばい方向に進んでないか?
「――あの、実は何を以って聖女マール殿が勇者の条件に合致するのか、わたしにもよく分からないんだ……」
わからんのかい! あんた何しに来た!
「そこで、わたしたちの出番なのよ!」
いきなり応接間に姿を現したのは、気持ち悪い女装をした二人組だった。
えっとー。どこかで見た事あったっけかなー?
「エミリー! 大変だ! 不審者が二人も侵入しているぞ!」
「はい! 旦那様。すぐに排除いたします!」
エミリーは俺が体術を教え込んだんだ。暗部くらいの腕前がある。
っと思ったら、あっという間に、気持ち悪い女装をした一人に取り押さえられてしまった。
なんだと!? 嘘だろ。ただ気持ち悪いだけじゃないのか?
「お嬢ちゃん。まだまだ甘いわね! わたし達性女マール教教徒はこのくらいたやすいの!」
「エミリーとやら。今回は相手が悪かったわね。なんたって相手が元勇者なんですから」
「マール。幸せそうで何よりなのだけど、あなたを勇者に推薦したのは他でもないわたしなの! ごめんね……あなたしかいないの! わたしにはあなただけなの!」
何か告白みたいだけどマールは渡さないぞ。
「アーク様とドイル様じゃないですか!? わたくしが勇者とはどういうことですか?」
あー思い出した。あれだ! こいつら。マールの元同僚だったな。
というか、こんな姿に変えてしまったのは俺だった。
「いい? マール! よく聞い……ぶへっ!」
「なんか気持ち悪いので、普通に話してください!」
横からリーシャがグーパンチで女装アークを吹っ飛ばした。
リーシャにもそこらへんのコソ泥をとらえるくらいの体術は教えてあるからな。上達が恐ろしく早い。
「マール! ごめんね。ちょっとあれだけどアークは、悪い子じゃないのよ。ではかわりにわた……ぐはっ!」
今度はリーシャの回し蹴りが女装ドイルに炸裂した。スカートからチラッと見えそうなパンツが最高だ。気持ち悪い邪教徒は成敗したと自慢げだ。
「リーシャ君。待ってくれたまえ。その方たちは敵ではないんだ!」
慌ててライナーさんが間に入ったが、二人とも気絶してしまった。
「マール。本当にお前が勇者になりうるのなら……そう! 隠された能力とかはないか?」
考え込むマール。いつ見ても可愛いし美しい。でも泥だらけになって薬草摘んで、笑顔で帰ってくるマールが素朴でいい。頑張って摘んできました! って顔の時は、頭を撫でてあげるとすごく嬉しがるのが、最高に可愛いんだ。
リーシャは技巧派かな? 本当に頭がいいし、器用さがあるので薬師もすでに免許皆伝にせまる勢いなのだ。家事こそあまり得意ではないけれど。それでも、頑張って家事に挑戦し、特に料理に失敗しても俺は頭を撫でてあげる。この時リーシャも凄く嬉しがるし可愛さ爆発なんだ。
「あ! そうです! わたくし精力エネルギーをため込んで、分け与えられる能力があるんです!」
は? 今までそんなの使ったことないよな?
でも確かに以前一度そう言っていたのをスルーしてしまった事があるようなないような……
「きっとそれです! わたくしが勇者にならなければいけない理由は……」
えっ? やる気なの?