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16歳の母親 ―side ハリス―

――それから聞いた話はひどいものだった。


 ヒースの気性は荒く、気に入らないことには容赦しない。

 マリアンヌには、女を磨くために働け、金は全て俺に納めろなどと理不尽極まりない男だった。

 親には、ヒース自ら働かせているくせに、マリアンヌがキャバクラで不埒に振る舞う悪役令嬢だと伝えていたようだ。

 親も構わず、そういう女で結構だと認知していたようだ。


 マリアンヌは律義に尽くすも、その粗暴さには耐えられず次第に逃げるようになっていった。

 でも婚約破棄などになったら両親はどうなる?

 少しでも働いて、いい女になって、ゆくゆくは嫁がなければならない。


 そんな時、現れたのがレイリー・フォワードだった。

 悩みを何でも聞いてくれて、本当のお父様以上のお父様に感じたそうだ。


「――昨日……レイリーちゃんは、わたしがヒース様に怒声を浴びせられるのを見て、身体を張って抗議してくれたんです。喧嘩弱いくせに……無理しちゃって……でも、わたしそこで分かっちゃったんです。レイリーちゃんにどうしようもない程、恋してるんだ! って」


(――レイリーちゃんね……)


 正直、いい歳したおっさんだぞ。

 ハリスは思ったが黙っていた。


 ――だが、そこまで聞ければ十分だった。

 最後に一つ二人に聞いておくことがあった。


「ライナー君、マリアンヌちゃんの事は好きかい?」


「うん! もちろん大好きだよ!」


「マリアンヌちゃんは、ライナー君は好き?」


「もちろんでございます。一緒の時は、姉弟みたいに遊んでますし。こんな弟……いえライナーちゃんだったら、お母さんにだってなりたいです!」


(――決まりだな)


 ハリスは決心した。

 ヒースは、マリアンヌに聞いただけで、その性向が分かった。

 この男、叩けば埃だらけだろう。


(――俺が培った貴族ママ友の情報網を舐めてもらっちゃあ困る)


 ハリスは、貴族ママ友連合会会長だ。

 その美形な素顔で女性受けが凄まじい。

 早速、集会を開き、ヒースとその伯爵家について聞いてみた。

 出てくる出てくる黒い闇。


 ヒースにおいては、浮気の2~3人は当たり前。

 マリアンヌのように別口で、脅しで金づるまで持っているようだ。

 そして、彼の家柄だが、基本は高利貸し。

 一般庶民に手を差し伸べると表向きは言いつつ、あとが怖い。

 取り立ては容赦なく死人が出ようが、隠しおおせる手際がある。

 貴族の風上にもおけない悪徳貴族だった。


(――なるほどな。あとは……もうひと踏ん張りかな)


 ハリスは、ママ達から聞き、ヒースの家を突き止め、門を叩いた。

 ヨークシャー伯爵というらしいが今はどうでもいい。


 ――半ば無理やり上がり込み、貴族ママ友連合会で聞きつけた情報を1~100まで突き付けた。


「――はあ? そんな根も葉もない事示されてもなぁ。

 証拠も何もねーじゃねーか!」


 答えたのはヒースだろう。どうにも柄が悪い。


「昨日、君が『フェアリーパラダイス』で殴った初老の御仁、知ってるかい?」


「ああー。あのしゃらくせー親父だろ」


「あのお方はな……フォワード公爵家の公爵閣下だ」


 …………


 ヒースが凍り付いた。腰が抜けたのかな。

 爵位が伯爵といえど、相手が公爵家では、全てにおいて勝ち目はない。

 それだけでも、やばいことが分かったのだろうが、ハリスは捲し立てた。


「わたしは文官だ。さっき君に言った悪行の数々は、既に王国監査方に伝え届けてある。

 直に調査が入るだろう」


 レイリーが身分を盾にすれば、それだけで解決していたかもしれない。

 だが、レイリーは全く公爵の名を嵩に懸けず、自力のみでマリアンヌを救おうとし、闇に対抗していた。


 ハリスはそこにも感服していた。


(お父様……あなたは本当の英雄だよ)


 ……マリアンヌ救出は、思わぬ電光石火の大捕物になった。


 査察に入られたヨークシャー家は、お家取り潰し。

 ヒース含む間者幹部たちは、全員斬首で公開処刑された。


(……これでようやく悩み相談解決かな)


 ハリスは、ようやく安眠できるようになった。



 ――2カ月後、貴族学園初等部、授業参観日。


 ライナーはドキドキしていた。

 初めての父母揃っての授業参観。

 ライナーの母親は、彼が初等部に入る間際で亡くなったのだ。


 こんな日が来るとは思わなかった。

 自然と涙が溢れてきた。


 教室の後ろから、ゆっくりと入ってきたおしどり親子のような二人がいた。

 レイリーは父親らしく、しっかり威厳のある格好だ。


 マリアンヌ新ママは……

 ぎこちない表情で、レイリーにエスコートしてもらっている。


 二人はライナーの授業参観を心から楽しみにしていたのだろう、あたふたしていて可愛らしい。


(16歳のお母さん。でも……僕の大事な大好きなお母さんなんだ!)


 ライナーが手を振ると、二人が最高の笑みで振り返した。


(――ハリス先生。

 僕の悩みを解決してくれてありがとう!

 先生も幸せになってよね!

 実は、侍女のナターシャさんから預かった悩み相談があるんだ。忘れずに投函しないと……)



 …………


「へっくしょん!」


(……あー、ちょっと最近仕事頑張り過ぎて、風邪でもひいたかな)


 きっとハリスにも最高の幸せが、直に訪れる事だろう。

 少なくともフォワード家にとっては、彼は最高の英雄なのだから。


 そして、今日も一件の悩み相談が、ハリスに読まれるのを今か今かと、待ち構えていた。



 ………………


 氏名:R・フォワードの侍女ナターシャ


 あなたに一目惚れしました。

 わたしはどうしたらいいですか?


 ………………



 ――そしてライナーは、この時ハリスのような英雄を目指していく決意をし、後に民衆から多大な支持を得る文官へと成長することになる。

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