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充実の生活からの暗転 ―side マール―

 私立聖名学園。


 わたくしが通ってもいいのでしょうか?


 まだ疑問はありましたが、あくまで体験編入と言う形で、お世話になる事にしました。


 初日は何故か、直近の駅から一駅離れた駅の喫茶店を指定され、そこに陽一さんの手配で、お迎えがきました。


 結果から言ってしまうと、聖名学園での生活は充実そのものでした。


 勉強に励むにも、運動に精を出すにも、最適な環境設備があり、通う生徒たちも生き生きした表情でした。


 わたくしはまだ高校1年生。

 ここでなら、新しい生活、やっと楽しい青春を謳歌出来ると思っていました。


 クラスメイトにも初日から、声をかけてもらえました。


 中でも、安藤百合(あんどうゆり)と言ういつもオシャレに気を使う明るい子、新原美咲(にいはらみさき)と言う少しインドアだけど、可憐な雰囲気の真面目な子と特に仲良くなりました。


「あたしと、ミサキって合わなそうでしょ? 実はすごい腐れ縁でね。いつの間にかこの子がいつも隣にいたって言う感じなんだ」


「不本意ですが」


 二人はそんな関係らしいのですが、聖名学園に在籍していること自体が、わたくしには輝かしくみえてしまい、こんなわたくしがお友達になれるのでしょうか? と勘ぐってしまいました。


 ですがわたくしは、早速2人の洗礼を浴びる事になります。

 ようやく初日の授業が終わり、ほっと胸を撫で下ろした時でした。


「ねえ? マールちゃん。放課後だね、ちょっとツラかしてもらおーか?」


 ユリさんに凄まれました。


「……ま、マールちゃん??」


「ああ、嫌だった? 『牧瀬あるか』だから、何となくマールがいいかな〜って。可愛いし」


 ユリさんに愛称を早速つけてもらいました。


「ごめんね、マール。この子お気に入りを見つけると、すぐニックネームつけちゃうの。わたしは被害がなくて、ミサキなんだけどね」


「あー、あたしとミサキは、ユリとミサキでいいからね。『さん』とかつけたら半殺しだから」


「うん、よろしくね。ユリ、ミサキ。それで、ツラを貸せって言ってたよね?」


「マールは、恐るべし素材なのに、実に勿体ないの」


「……?」


「ユリは、マールがシャレっ気が全くなくて弄りたくて仕方がないのよ」


「というわけで、街に行きましょう!」


 わたくしは半ば強制的に、東京の繁華街へ連れていかれました。


「とりあえず今日は手始めに美容院だね」


 ユリ行きつけの流行りの美容院に行く事になりました。素朴というか、郊外に住み、髪すら自前で切っていたわたくしには、凄く敷居が高く感じられました。


「こういう時は、流行りの髪型とか、美容師さんのオススメで! なんて言うのは一番ダメ。はっきりこの髪型にして! って言えばいいの。顔面偏差値なんて関係ないわ」


「そこに関しては異論はないわ。わたしも最初無難に美容師さんのオススメでと頼んだら、こうなったもの」


 ミサキがすかさずスマホでフォトを起動。

 そこには、ショートボブといったところか、ややオトナっぽいいで立ちのはずのミサキが、中学1年生くらいにしか見えない姿形で立っていました。ランドセルを背負っていても、違和感はなさそうです。

 本人は、童顔を気にしてわざとオトナっぽく振る舞っているようですが。わたくしはショートボブのミサキ、好きですけど。


「この子を、コレにしてください」


 あらかじめユリはわたくし用に、ベストなものを選んでいたようでした。誰でしょうか? わたくしは知らないのですが、カリスマ芸能人かアイドルでしょうか? 様々な角度から見やすいものを選りすぐったようです。


「……かしこまりました」


 半分いいんですか? と言う目で見られましたが、わたくしはユリを信じる事にしました。こんな楽しい友達は初めてなので。


「ユリ、やるじゃない。そこに出るとは。カリスマ芸能人にして下さいなら、美容師さんも、もう何人目だよ、この髪型……みたいな感じで気合いが入らないけど、これは美形声優の原石。言わば穴場。美容師さんもここまで具体的なショットで見せられると、必然的にタッチが丁寧になるわ」


「ふふん、まああたし的にはマストだけどね」


 歴戦の美容師さんもやる気満々らしく、時間をかけ丁寧な手つきで仕上げてくれました。


「……出来上がりましたが、いかが……で……」


 美容師さんが唖然としています。


 それを皮切りに美容院全体から、息を飲むような視線を感じました。


 ″ねぇ……あの子見て? こんな素敵なモデルさんいたっけか?″


 ″あれもはや芸能人キラーじゃない?″


 ″天使を見ているよう″


 様々な羨望を受けてしまったようです。


「こりゃまいった。まさか髪型変えるだけで本物すら凌ぐとは」


「もういじる方が申し訳ないほどの美形ね。ただ眼鏡外して、無造作に束ねていた髪下ろしただけでも、注目の的だったけどね」


「……そうだな〜。あとはカラコンとか企んでいたわけだけど、マールの眼はそのままが最強ね。ノーマルコンタクトで終了かな」


「完璧過ぎて弄りがいがないのも、考えものね……」


 翌日、校内がどよめいたのは、言うまでもありません。


「ユリ、あんたが凄まじい原石いじっちゃったせいで、マールが過ごしにくくなっちゃったじゃない! 責任とんなさいよ」


「ミサキだって、昨日珍しくノリノリだったじゃん! ここは共犯と言う事で。あたしらは、マールのボディーガードに決定だね」


 ――そんなこんなで、あっと言う間に体験編入一週間が過ぎ、迎えた土曜日の夕方でした。


 大分慣れた寮生活、明日は、日曜日だからフキさんに会いに行こう。楽しいお話が沢山出来たから喜んでくれるかな……なんて、のんびり考え、何気なくテレビをつけてみました。


 ちょうどニュース番組の時間でした。


 ″……では次のニュースです。今朝未明、東京都……″


 映し出された映像を見て、絶句しました。

 無惨に焼け焦げて、ほぼ全壊した古い建物。


 どこからどう見ても、わたくしがいたあの児童養護施設だったのです。


 ″……なお建物内からは、施設の管理人と思われる女性の遺体が見つかっており、検死の結果、胸部から腹部十数箇所にわたり、複数の刃物で刺された形跡があり、警察は生活反応の鑑定結果から、被害者は刺されて動けなくなった状態で、ガソリンを撒かれ、火をつけられたと見ています。被害者に強い怨恨をもった犯行と見られる事から……″


 ――嘘……何これ。


 フキさん……何の冗談なの?



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