救済 ―side ハリス―
ハリスは、俺の一晩のフォワード調査は何なんだと後悔した。
「あのー。ではマリアンヌお嬢様というのは?」
「お父さんが毎日通っているキャバクラのお姉ちゃんだそうです」
ライナーが冷静に答えた。
「――でも、どうにもならないんだ。僕はマリアンヌに何がしてあげられるのか……彼女、ずっと虐められてて……どうしても困って……それで」
依然として、頭を抱えるレイリー。
「――亡くなる前お母さんが言ってたよね。
”あなたの幸せがわたしの幸せです。
だから、わたしが天国へ行った後も、いいお嫁さんが見つかるよう祈っています” って。
僕だって、お父さんもお母さんも大好きだから、お父さんが大好きな人見つけたなら、文句は言わないよ。でもね。先生まで巻き込むのは良くないよ」
「――悪かったよ。ライナー……
ハリス先生もお忙しい中、こんな僕の為にすみませんでした」
「――先生、これはうちの問題だから……先生は何も心配しなくて大丈夫だから。ごめんなさい。お騒がせして……でもありがとうございました」
――ハリスは家路についた。
とりあえずライナー自身には何も問題ないどころか、優等生だった。
あの父親からどうやったら、あんな子が?
――いや母親がすごかったのかもしれない。
ものすごい教育ママで、門限が15時とか。
そんなことを考えていた。
――翌日放課後。
(一応はライナー……いやレイリーの悩み相談は解決……してないけど俺は今教師だから)
ハリスは、珍しく残業はなく久しぶりに外食でもしようかと思いながら、ふと悩み相談箱に手を入れてみた。これ自体にわずらわしさは感じない。それどころか生徒の力になれるのが嬉しい。
さすがにもうレイリー・フォワードはごめん被りたいが。
………………
氏名:R・フォワード
僕のお父さんを助けてください!
………………
げっ!
思考が停止した。
いや! 待てよ!
今回は僕のお父さんと書かれている。
間違いなくライナー自身の投函だろう。
これこそ、今度こそ教師の出番じゃないのか?
ハリスは心優しい頼れる教師に憧れている。
(――これこそ、今度こそ俺の出番だよな)
昨日のライナーの口ぶりでは、これはうちの問題だから……という事だったけど、どうしたんだろうか。
だが、彼が心から父親の心配をしていることが分かった。やはりライナーはああは言っていたが、人一倍家族思いだ。
早速フォワード家を訪ねることにした。
「……いらっしゃいませ」
見飽きない程の可愛い侍女だが、また来たの? みたいな眼で見ないでください。ちょっとほっぺたが昨日より赤めなのは、気のせいだろう。
「……あの……旦那様はこちらです。かなりこっぴどくやられております」
何があった? と思いながらも、今日ハリスが通されたのは、寝室のようだった。
ライナーが出迎えた。
「あっ! ハリス先生。昨日の今日でごめんなさい。
……でももう僕ではどうしようもなくて」
困り顔のライナー。
レイリーがひどい有様で寝込んでいる。
顔がボコボコに腫れ上がっているのだ。
気を失っているようだ。
「……昨晩もお父さん、マリアンヌお姉ちゃんに会いに行ったようなんだ。
そこに、たまたまヒース様が来ていたらしくて、お父さんがマリアンヌお姉ちゃんを虐めているんじゃないかと問い詰めたら、逆にボコボコにされちゃったんだ。喧嘩弱いくせにバカだから……
どうしても、守りたかったんだって……」
――ハリスは驚いていた。
この父親にこんな行動力があったとは……さすがは……
(――ちょっと見直したよ。お父様、あんたはちょっとした英雄じゃないか)
「――ライナー君、俺に考えがある。頼ってくれてありがとう。まずマリアンヌちゃんに会いに行きたいんだが、案内頼めるだろうか?」
「うん。もちろん。先生、こんなお父さんの為にありがとう!」
「いや。君のためさ」
――キャバクラ『フェアリーパラダイス』
そこに彼女はいた。
着飾った衣装は着ているが、顔の痛々しい痣は隠しきれていない。
それがなければ、ほんとに綺麗な可愛いお嬢様だろう。
ハリスは、マリアンヌに事情を聞くことにした。
「――わたしは元々男爵家の令嬢でした。でも、お父様の事業が失敗し没落貴族へ、落ちぶれてしまいました。そこへ手を差し伸べてくれたのが、ヒース様の伯爵家でした。
わたしは、これで両親が助かるのであれば……と甘んじて、提起された政略結婚を受け入れました」
――これが救いの手であったのなら、それが一番だったのだろうが……
マリアンヌは不遇を背負う事になる……