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ヒロインは救出される為に登場するのです

 そういえば、今日は貴族学園卒業パーティーあるんだったっけ?

 リア充を見るのが嫌で、バックレたとかではなく、完全に意識から消失していた。

 俺は卒業生。主役のはずだが興味がなかったのだ。


 陰キャの俺は、何の未練もないため、いつものように手頃な狩場で魔物達の相手をしていた。

 ソロで狩るのは好きだし、特別ギルドに冒険者登録してクランに入って活躍するというほど、冒険が好きでもない。言うなればしがない18歳だ。


 手頃な狩場とは言うが、意外と骨のある魔物も徘徊する森で、収集品はかなり美味しい。


 ――そんな優雅な一時を楽しんでいる最中だった。


 はるか遠くから、幌馬車が申し訳程度の速度で森に入ってくるのが確認できた。

 かなり豪華な装飾が施されているところをみると、王家御用達なのかな?


 面倒事には関わりたくないと思いながらも、俺は馬車を追ってみることにした。

 いや……ほんの出来心で。


 さて、俺は【気配感知】は出来るが、アサシンではないので【気配隠蔽】は出来ない。

 馬車には数名護衛がいて、数分間隔で追手の有無をみているようだ。

 どうみても訳アリだ。


 俺はある程度、距離を取って、護衛の監視に気を配り、進める時には、【縮地】を使い馬車に追いつくという思い切り燃費の悪い方法をとるしかなかった。


 そして、森の奥にある国境近くで馬車は止まった。

 こんなところで何をするんだろう?

 意外と興味が沸いた。


 まず一人の護衛騎士が降り、手を差し伸べている。

 その手を取り出てきたのが、一人の美少女。

 水色のドレスを着飾っているのがどうにもこうにも違和感ありありだ。

 どう見てもここにピクニックにくる服装ではない。


 よくよく見た。

 ――ん? あれは……あの美少女は!?





 誰だっけ?



 あまりにも自分の学園生活が空気過ぎて、全く覚えていない。

 だが、学園で見た事がある。絶対に。


 ただ様子がおかしい。どう見ても彼女は泣きはらした顔でうなだれたまま、馬車を下ろされたのだ。

 そして、なにやら護衛に声をかけられているが、聞き取れない。

 口の動き方から、”高慢お嬢様じゃあな”みたいな?


 もしかして……いやもしかしなくても捨てられたのでは?

 何か上等なお嬢様が、国家においたをして、捨てられた現場に遭遇したのかもしれない。


 ここって近隣に街や村もない危険区域だ。もちろん魔物もいるはずだ。

 餓死はしなくても確実に、魔物の餌食にはなってしまう。

 しかもSS級ダンジョン『コーネリア』がすぐ近くなんだよな。

 俺はソロ踏破はしているが、魔物はまあまあ凶悪なんだ。


 護衛もさすがに最後にヤッておこ! みたいな非人道的な所業には出ないようで、意気揚々と去っていった。


 その場にドレス姿のまま崩れ落ちる美少女。

 生気が失せてしまったようだ。

 ここは流石に俺としてもほっとけない。


 ”わたし、ここにピクニックに来たの。見れば分かるでしょ! キモイわね! 邪魔しないでよ!”


 多分それはないにしても……


 ”あんたみたいな陰キャなんかに助けてもらわなくても大丈夫なんだからね!!”


 ……こんな塩辛い言葉が聞こえてきそうだけど。


 それでも俺は声をかけようと――


 思ったと同時にタイミング悪く森の主グリズリーが姿を現した。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫びまくる美少女。

 踏み込み脚に力を入れる。


「【縮地】!」


 一瞬でグリズリーとの間合いをつめた。

 驚いた表情だがもう遅い。


「【刹那なる一閃(ディー・クイック)】!」


 ダガーの刀身に俺の膨大なマナをまとわせる時空操作からの一閃。

 防御力無視、回避不可能の離れ技だ。

 グリズリーは止まった豆腐のような感覚で切れた。上半身がずるりと崩れ落ちた。


「へ?」


 女の子座りでどうやら失禁してしまった美少女だけど、何とか間に合ってよかった。

 泥だらけになってしまっていたので、失礼し手を取りハンカチで拭いた。


 どうみても高貴なお嬢様だ。そして彼女は貴族学園の生徒だった。学園でも剣技と魔術の授業はあるが、命のやりとりを強いられる即実戦で魔法がちゃんと出ることなんてほぼないし、怖けりゃ出るのは小便なんだよ。だから仕方ないんだ。


 そしてようやく俺はこの時、この美少女の正体を思い出した。

 なんてこった……一瞬アホな考えで逡巡した事でグリズリーごときを見逃し、助けがギリギリになってしまった事に申し訳なさが込み上げた。


「あの……助けに入るのが遅くなり申し訳ございません」


「……あなたは……薬師のアルフレッド子爵家のクロード様……」


 うわ。すげーこの人こんなしがない子爵家の俺の事知ってたよ。


「はい。僭越ながら……クロードと申します。大丈夫でございますか? お怪我はありませんか?」


「いえ。それよりも……こんな愚か者のわたしを助けて大丈夫なのでございますか?」


「はい。問題ございません。リーシャ様は、無実なのですから」


「えっ? それはどういう……」


 ごめんなさい。リーシャ様。お手を触れる際、使ってしまいました。失礼千万ながら、【記憶遡行】を。対象に触れる事で記憶海馬に潜入し、遡って記憶を読み取る時空魔法だ。


 この美少女は筆頭公爵令嬢のリーシャ様だ。危うく美少女で押し通すところだった。


「あの……とにかく俺には分かるんです!」


「……?」


「これだけは自信を持って言えます。あなたは清廉潔白です!」


「嘘!? 信じて頂ける方がいるなんて……」

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