ジェイミー第一皇子
3週間はあっという間だった。
ダイエット管理官というからには必ず皇子のダイエットを成功させなくてはいけない。私を信用してこの仕事に推薦してくれたミーガン叔母様の期待を裏切りたくない。
一応、何通りかのダイエット計画をノートにまとめてみた。
調べて見た限りでは、この帝国にダイエット食品なんて無いし、低脂肪のミルクとか体に吸収されにくい糖分なんていうのも存在しない、開発されていない。
だから皇子に合ったダイエット計画を立てた後は創意工夫して作るなりして、自力でなんとかするしかない。まずは第一皇子がどういう理由で太っているかを確認しないといけないわ。
ミーガン叔母様が寄越した迎えの馬車は皇室のマークが入った大きくて豪華で安定感のある立派な馬車だった。転生してすぐの頃は、この馬車が苦手で馬車の移動がとても苦痛だった。
物凄く揺れて、背中やお尻が痛くなるし、進行方向と逆側に座ると酔うし‥。でも皇室の馬車はその全ての悪条件をクリアしていた。
毎日の通勤にこの馬車が使えたらいいけど、きっとお父様と兄さまと同じ馬車で行くことになるんだろうなぁ。
皇宮に到着するとミーガン叔母様がいる皇妃宮に案内された。そこで叔母と一緒に皇子のいる宮に向かった。
「ローズは皇子様にお会いしたことはあるわよね?」
「はい。でも会ったというよりお見かけしただけです。去年の建国祭で遠くから‥」
「そう、拝謁したことはないのね」
「あの、どういうお方なんでしょう?」
「大丈夫、ちょっと気難しく見えるけど根はいい方だから」
あっそれ! 前も同じ事言ってましたよね。『根は』って事は態度はそうじゃないって事でしょう? 表面上は気難しくて、扱いにくいって事でしょう? あー憂鬱になってきたわ。
ミーガン叔母は私の不安そうな顔を見て苦笑していたが「あなたなら大丈夫よ」と、根拠のない励ましの言葉をくれ、ずんずんと廊下を進んで行った。
皇子の部屋の前には護衛騎士が一人立っていた。
「ジェイミー様と約束しております」
「皇妃様、お待ちしておりました。どうぞお入りください」
護衛騎士はドアを開けて私たちを通した。
さすが帝国の第一皇子の部屋、広さも豪華さも素晴らしかった。ここはベルサイユ宮殿か?!
あれ‥でも‥なんだかテーブルの上とか汚くない?
ソファには上着とタイが放り投げられて、テーブルの上も本が乱雑に置かれ、食べ残しのパンやお菓子があちこちに散らばっていた。
メイドが一生懸命に片付けているところだったらしく、私達が入って行くと慌ててその手を速めた。
「申し訳ございません、すぐ片付けますので」
テーブルの上を片付けたメイドは次に皇子のベッドへ向かった。
横目でチラッと盗み見るとベッドの上にも本やらお菓子やらが散らばり、ベッドの上で寝転がって物を食べながら本を読んでいた事が一目瞭然だった。
当の皇子は奥のデスクから立ち上がってのっそりとこちらに向かって来た。うん、予想以上! かなりの巨漢だ。背が高い上に横幅も半端じゃないので物凄い威圧感がある。肌色は青白く、不健康さがみなぎっている。
私たちにソファを勧めると自分もドシンと腰かけた。
「僕がジェイミー・カパリダだ」無表情のままそう言った彼の胸元には、やはりテロップが出てきた。
『ジェイミー・マカロ・カパリダ18歳・カパリダ帝国の第一皇子』
まあこの情報は認知済みだけど。
そしてまずミーガン叔母が私を紹介した。
「この者が以前お話したわたくしの姪です」
「お目にかかれて光栄でございます、ローズ・サトリアと申します」
「ああ、いいよ。座ってくれ」
立ち上がって挨拶した私をまた座らせ一瞥するとジェイミーは面倒そうに言った。
「君が僕を痩せさせようというんだね」
「はい、精一杯勤めさせていただきます」
「時間の無駄だと思うけどね」私から視線を外し、手を近くにあったお菓子に伸ばしながら皇子は言った。
「ジェイミー様そうおっしゃらず。ローズはジェイミー様と年も近いですし楽な気持ちで取り組んで頂けると考えております」
投げやりな態度と言葉遣いのジェイミーに、ミーガン叔母様は幼い子供に聞かせる様に優しくそう言った。
今までも何度かダイエットに取り組んだ側近がいたらしい。でも皇子が協力的でなく失敗に終わっているらしかった。今度もまた適当にあしらって諦めさせようという態度がありありと見て取れる。
私は腹が立って来た。叔母様はこんなにも皇子様の事を心配しているのに、まるで他人事みたいなその口ぶり!
皇子に会うまでは面倒で憂鬱だったけど、彼のいい加減な態度とこのだらしない部屋を見たらそんな気持ちも吹っ飛んでしまったわ。
私を推薦したミーガン叔母様の顔を潰す訳にいかないもの! 何がなんでもダイエットに協力して貰って、意地でも痩せるまで付き合ってやる。
次期皇帝なんだから覚悟を決めて頂きます!