テロップは便利です
サトリア家の領地は帝国の東側にあったが、私たちの住まいは首都の貴族が住む界隈の外れにある。そして首都には数えきれないほどのブティックがあった。
私はエリーともう一人メイドを連れて以前から贔屓にしているブティックへ来ていた。
「うーん、もう少しシンプルなデザインがいいかな・・」
目の前にズラリと並べられたドレスを見て、目をチカチカさせながら私は言った。
ドレスにぎっしりと縫い付けられたビーズやレース、ドレスが埋め尽くされそうなリボンの数々。色の配色も派手なんて域をはるかに超えてるわ。
どうやらこの店のドレスは全部こんな感じのデザインらしい。考えてみれば前のローズが贔屓にしていた店。
私はローズのクローゼットにあったドレスを思い浮かべていた。彼女の好みなんだから当たり前なのかも。
仕方ない店を変えるしかないわ。
「ローズ様、どちらへ参りましょうか?」
「困ったわねえ」
派手派手ブティックの店先で少し考えていると
「あら、エリーじゃない?」
30代位の品のいい女性がエリーに声を掛けた。
「あ、ミーガン様」
私がその女性に視線を移すと、『ミーガン・クリストウ36歳・皇帝の第一皇妃・ジェームズの妹』
と女性の胸元にテロップが浮かび上がった。
へえ~こんなのが出るんだ! 異世界って便利じゃん! 思い出すまで時間がかかってたら怪しまれるもんね。
そのミーガンはローズの顔をマジマジと見つめると
「まさか・・ローズなの?」
「ミーガン叔母様。はい、ローズです。ご無沙汰しております」
相手は皇妃様なんだから丁寧にご挨拶しないとね。
だがミーガンは少し面食らったようで、もう一度ローズの顔を見直した。
「あら、痩せたせいか態度まで大人びて見えるわね。ところでお買い物かしら」
ミーガンの視線の先にはブティックがあった。ここがローズ御用達と言うことを知ってるのね。
「それが・・気に入るデザインが無くて困ってました」
痩せてドレスが必要になった事、違うブティックを探すところだった事をミーガンに話した。
「それなら私がいい所を紹介するわ。ちょうど私も行く用事があったのよ」
さすが帝国の第一皇妃様、侍女やら護衛の騎士やらをぞろぞろと引き連れていた。
そのご一行様に加わった私たちは、派手派手ブティックから程遠くない上品な、それでいて豪華なブティックに連れられて行った。
そこでミーガンにも見立てて貰いながら数着ドレスを注文し終えると、ミーガンは私をお茶に誘った。
「この先にスィーツがとても美味しいお店があるのよ。ローズはスィーツに目がないでしょう?」
まだダイエット中だったが無下に断るわけにもいかず私はミーガンに従った。
向こうの世界での私はスリムだったし、食の好みも淡泊だったけど甘い物には目が無かったのよね。
(あああああ、スイーツの誘惑には勝てない!)
ミーガンが好意で注文したスイーツはかなりの量で、しかもどれも美味しそうな物ばかりだった。
この世界の食のレベルは高い! それは男爵家での食事でも実感していた。素材の良さを生かす味付けは日本人の感覚と近いものがあった。
「遠慮せず食べてね。それで・・ローズはどうしてそんなに痩せられたの?」
また元の体重に戻ってしまいそうな誘惑をこんなに並べて置いて、そんな事を聞くんですか叔母さま!?