メリハリボディ完成
やっぱりローズは元々太りやすい体質ではなかった。食事も改善して適度に運動を始めると簡単に体重は落ちて行った。
「ローズは一体どうしてしまったんだ?」
サトリア男爵(ローズの父)は今日も屋敷の庭をランニングするローズを心配そうに見ていた。
「太っているのは心臓に悪いからと、痩せる為にしているそうですよ」
母のマリアもローズを愛していたが父や兄ほど盲目的ではなかった。娘の自由を尊重して好きなようにさせていた。
「だがあんな風に走ったりするのは・・兵士や騎士が訓練の為に行う事ではないのか?」
「なんでも食べた物のエネルギーを消費しないといけないとか言ってましたわね。筋肉を付けると何かが上がるから痩せやすくなる、とも」
「どこでそんな事を知ったんだ・・」
「あの子、本を読むのは好きじゃないですか。きっと本から学んだのですわ」
娘の心配はそれくらいにして皇宮へ行く時間ですよ、と妻に追い立てられて男爵は屋敷を出た。
サトリア男爵は帝国の財務次官だった。息子のリックも財務補佐官で親子揃っての出勤だ。
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私は広い庭をランニングしながらこの世界の事を考えていた。
私は一体どこに転生しちゃったんだろう。ヨーロッパみたいだけどカパリダ帝国なんて聞いた事がない。でもモンスターとかは居ないからゲームの世界ではないみたい。
あ! 魔法は? 魔法が使えたらちょっと楽しいかも!
ローズは立ち止まって考えた。――ええと、魔法使う時は普通どうするんだっけ?
私はおもむろに手のひらを前方に突き出し「ファイヤー!」と言ってみた。
シーーーーーーン
後ろで「プッ」と声がする。エリーが背後で笑いを堪えていた。
「ローズ様は魔法がお使いになれませんよ、お忘れですか?」
「あっほら、生き返ったら使えるようになってるかもしれないと思って、そういう事例ってきっとあるわよね、私達が知らないだけで。ね?」照れ隠しで早口になる私。
――炎は手からじゃなく顔から出たみたいね。恥ずかしくて顔が熱い。
「お茶をご用意致しました。休憩されてはいかがですか?」
「そうね、そうするわ。あははは」
こういう時は笑って誤魔化すのが一番ね!
お茶の後、ローズは図書室に行ってこの世界の事を調べてみた。
――その結果、【ダラララララララ・・・・ジャーーーン!! 】この世界には魔法が存在する!
え? ちょっと待って。なんだか今ドラムロールみたいなのが聞こえたんだけど。まさかね、空耳よね・・。
えーと気を取り直して‥で、その魔法なんだけど生活魔法の域を出ていなくて、魔法を使える人が有償で人々に提供しているらしいのよね。魔法が使える人は自動的にそれが職業になるみたい。
雷魔法を使える人は人間発電機って感じかしら? だからか割と近代的な生活水準ではあるわね。
シャワーも出るし、明かりはロウソクではなく電気みたいだし。
貴族の屋敷には何かしらの魔法が使える人間が一人は雇用されている。サトリア家には氷魔法が使える女性がキッチンに居てとても助かっているらしい。
さて、私ことローズは半年もすると見違えるほど痩せて綺麗になってきた。
元が17歳の若い体のせいか筋肉が付いてくるとエネルギーの消費量も上がり健康的なメリハリボディが完成しつつあった。
白い肌はなめらかで澄んだ琥珀色の瞳は痩せたせいで大きくなったように見える。鼻筋もすっきりと通ってぽってりした赤い唇は17より大人びて見えた。
「うわあ・・なんだか自分じゃないみたいね」
いや、自分じゃないんだけどね・・。
姿見の中の自分に見とれて思わず呟くと、エリーが胸を張って言った。
「元々ローズ様はお綺麗です! 男爵夫妻もリック様も美形ですわ。その血を引いておられるのですから自信を持ってください!」
外出着に着飾った私をエリーは誇らしげに見て微笑んだ。
「それにしてもローズ様は凄いですわ。ご自分の力でここまで痩せられて。食事の改善なんてよっぽど強い意志がなければ続きませんもの」
さて、なぜ外出着かと言うと洋服を買いに出かけるためなのだ。
努力の甲斐あってほぼ普通体型に戻った私はクローゼットにあるドレスが着られなくなってしまっていたのだ。