あざとい幼馴染は義妹の好きにはさせない。
8時。
学校に行くにはまだそれなりに余裕のある時間に俺は目を覚ました。
当たり前のことだが朝7時に美玖が起こしに来たりはしなかったようだ。
はー。全くたまったもんじゃない。一晩中、美玖と俺の仲睦まじい姿を見せられて俺にどうしろって言うんだ。
俺は眠気を払いながら着替えると下におりた。
下に降りるが既に美玖の姿はない。台所のシンクに水漬けされた食器だけが美玖の存在を示している。
「今日も生きているようで何よりだな。」
俺はトースターでパンを焼いて朝食を済ませる。その後、着替えているとけたたましく家のチャイムが鳴らされた。
俺がインターホンまで行って画面を覗くと、そこには見慣れた顔が写っている。
幼馴染の真野裕子だ。
高校に入ってから茶髪に染めた彼女は、もともと端正な顔立ちだったこともあり、凄くあかぬけている。しかしながら、美玖と違って、近寄りがたいような雰囲気はなく、性格も明るいのでクラスでも人気者だった。
「おーい。準備できた?学校行くわよ。」
「ああ。今行く。」
彼女と俺は幼稚園からの幼馴染であり、隣に住んでいる。
幼稚園の頃、寝坊癖がある裕子を俺が毎朝、家に迎えに行っていたのが仲良くなったきっかけで、迎えに行ったのは、たしか、小学校2年生くらいまでだったと思うが、中学校1年生の頃から今度は裕子が家に迎えに来るようになり今に至っている。
「あれー。何か眠そうじゃない。どうしたのよ?」
「いや。色々あってな。」
「もしかして夢?」
裕子は俺の夢の能力を知っている唯一の人間である。まあ他の奴に話しても信じてくれないだろうと思って話していないのもあるが。
「まあ。そんなところだな。」
「どういう系?スプラッター趣味の人とか?」
「それよりはましだな。恋愛系だ。」
「恋愛?そんなの慣れっこじゃないの?」
「まあ。そうなんだが。少し特殊でな。」
「特殊?特殊な性癖ってこと。」
裕子はそこまで言って恥ずかしそうに口をつぐんだ。
なんというかそんな気はなかったのだが、下ネタの様な雰囲気になってしまった。裕子は、派手な見た目とは裏腹に純情で下ネタはめっぽう苦手なのだ。
ここは話題を変えた方が良いだろう。
「なあ。そんな話やめようぜ。それより三ツ谷先生の新作読んだか?」
三ツ谷先生は有名な歴史小説家で、俺も裕子も歴史小説が好きなこともあり、新刊は必ず読んでいる。そして、昨日、待望の新刊が出たばかりであった。
「勿論。そろそろ大きい戦が始まりそうだしワクワクするわね。」
それから俺達はしばらく歴史小説について語り合った。
「いやー。それにしてもこういう話が出来るのは楽しいな。美玖とかは(分厚くて邪魔な本ですよね…。せめて電子書籍にしてくれませんか。)なんて言うんだぞ。」
「ええー。歴史小説は本で読むからこそ良いのにね。」
「だろ。その辺、理解してほしいよな。」
「まあまあ。なかなか女の子には理解されない趣味だし、しょうがないわよ。」
「お前だって女の子だろ。」
「まあ。私は、お父さんの影響が大きかったから。」
裕子は、何代も続く名家の生まれのせいか派手な見た目の割に趣味は古風で、歴史小説や囲碁、将棋を好む。そういうギャップもまた、クラスで人気の理由だと思う。
そんなことを話しているといつの間にか学校についてしまった。
「もう学校か。ちょっと語り足りないな。」
「そうねー。同じクラスだったら、このまま話せるんだけどね。」
残念ながら俺と裕子はクラスが違う。
俺は少し寂しい気持ちになりながら教室へ向かうことにした。