義妹の夢を覗いたら俺にべたぼれだった件
最初の投稿小説です。
小説賞に投稿して、書籍化したいと思っていますが、まずは、色々な人に読んでいただければと思い、小説サイトに投稿することにしました。
大体、最後までできていますので、どんどん投稿していこうと思います。
感想等いただけますと励みになります。
俺には小さい頃から人の夢を見るという特殊な力がある。
いや。そんな良いものじゃないな。
見ているというよりも夢に捕らわれているというのが多分正しい表現だ。具体的には映画を見ているようなもので、俺自身は夢に登場せず、第三者視点で他人の見ている夢を眺める。また、俺には拒否権はなく、夢を終わらせることも出来ない。
とはいえ小さい頃からこうであるせいでもう慣れているので、人の夢を見たところで何も感じない。ただ朝が来るのを静かに待つだけだ。
ところがどうやら今日は少し様子が違うらしかった。
その夢に出ているのはなんと俺なのである。
夢の中では俺が自分の部屋のベッドで眠っていた。どうやらこの夢の主は俺のことを知っていて、それも部屋の構造や寝姿までも把握している人間らしい。
そんな俺の部屋にノックもなしで、一人の少女が入ってくる。
丁寧に手入れされた長い黒髪に、血管の浮くような細い腕やすらりと長い脚。全身がきゅっと小さく、まるで人形の様な端正な外見。
昔からずっと見てきたから間違えない。
俺の妹の美玖である。
夢の中の美玖は現実では浮かべることのない無邪気な笑みを浮かべて、なんと俺の上に馬乗りになった。
「お兄ちゃん。起きてよ。学校行こうよ」
誰だこいつ?美玖は俺のことを兄さんと呼ぶし、常に敬語を使う。大体、一緒に登校など一年以上もしていない。
俺が突然の出来事に混乱していると、夢の中の俺は眠そうに布団をかぶった。
「まだ早いだろ。」
時計を見ると、朝の7時だ。大体8時半に出れば学校に間に合うから8時に起きればよく、たしかに起きるのが早すぎるといえる。
「しょうがないでしょ。私が委員会で早く出なきゃいけないんだから。」
たしかに美玖はいつも委員会活動で早く家を出ている。正確な時間は分からないがもしかしたら7時には家を出ているのかもしれない。
「はあ。それは俺に関係ないだろ。」
夢の中の俺の言葉に怒ったのか美玖は布団をめくり、急に俺をくすぐりだした。
夢の中の俺は笑いながら抵抗する。
「何すんだよ?」
「そんなこと言わずに起きてよー。一緒に学校行こ。少しでもお兄ちゃんと一緒に居たいな。」
断じて言っておきたいが俺たちは非常に健全な兄妹だ。
両親が家におらず、二人暮らしであるが、正直に言うと疎遠な状態であり、顔を合わせるのは夕飯を食べる時くらいだし、大した会話もない。
当然、こんな付き合いたてのカップルの様な関係ではない。
しかし、夢の中の俺は特に驚いた様子もなく渋々起き上がった。
「しょうがないなあ。」
「なんなの。その言い方。私と過ごす朝が不満なの?」
美玖は少しすねた様子でほほを膨らませる。そういえば美玖は小さい頃はよく、そうやって怒っていた気がする。
最近は見ていないが。
「そんな訳ないだろ。俺だってお前ともっと一緒に居たいさ。」
夢の中の俺は少し寝ぐせの付いた髪のまま恥ずかしそうに頭をかいた。
何だこれ?
アオハルじゃないか。
「もう馬鹿なんだから。」
美玖は嬉しそうにそう笑う。
この夢の主は美玖以外にはありえない。
部屋の情報もそうだし、見た目や癖まで全てが一致している。
では問題はなぜそのような夢を美玖が見ているのかということだ。
もしかして美玖は兄である俺のことが好きなのだろうか?
本当は好きだが疎遠になってしまった兄と親密になり朝起こしに行くという妄想をしすぎて夢でまで見てしまっているのだろうか?
いや。さすがにありえないよな。
ゲームじゃあるまいし、そんな妹が存在するはずがないがない。
現実は厳しいのである。