ロイド スーディー家編
死んだ。俺は。
彼女も作らず、何年も働いても情熱はなく、政治シミレーションゲームをやり残した状態で、死んだ。
確か、電車の線路に放り出された女の子を救おうとして、飛び降りて…。
結果俺が電車のタイヤの下敷きになることで電車は止まって…女の子は無事で…。
ま、最後は人のために死ねたんだ。本望だ。
さーて。どうなるんだか一一一
目をさますといかにも俺の親のような人二人とメイド服をきた女性に覗きこまれていた。
「かわいい赤ちゃんですね!」
(マジか…)
そこから俺のコンテニューされた人生が始まった。
色々と補足しよう。この世界は元世界のある時代に似ていた。お金は円、日本語も通じるし、一般常識も変わらない。少しヨーロッパっぽいところもあるが、気にせず過ごせている。後、絶賛戦争中だ。俺の名はロイド・ドロイト。貴族だ。もともとはドロイト家は超有力貴族だったんだが、ギャンブルやらなんやらで大負け。負債を返し切る頃には崖っぷち。そこで、11代目である俺に回復を任せられたんだ。神様もひどいことするぜ。
母、ライヌ・ドロイトと、父、トーマス・ドロイトの支えにより俺は19で家主となった…
騒がしいレストラン。
俺は酔いに任せて大声で叫ぶ。
「フラッシュだ!」
「残念。私はストレートフラッシュ。あんたの負け」
女は得意げに言った。
…は?
ストレートフラッシュ?
俺は絶望感をたっぷりと味わった一一一
まずい。まずい!
ロイドは焦っていた。ポーカーのギャンブルで大負けしたからである。
相手はスーディー家。有力貴族の一つだ。
スーディー家も崖っぷちの貴族であったが、ギャンブルの連勝続き、そして今回のギャンブルによって大出世を果たした。
これによりドロイト家の復帰は不可能に近くなったわけだが、一つ、不思議に思うことがある。
それはスーディー家のギャンブルの連勝、と、その賭け金、そして急速な成長である。
調べた結果同じような金額を賭け、ずっとポーカーをしていることが発覚した。
おまけにある時期から馬鹿みたいに成長していることが発覚した。ここぐらいの時期からイカサマ的なことを開始したんだろう。
一回、ならわかるんだがそんな金額をポンポン出せるわけない賭け金、そしてそれを出す時に限って勝っているんだ。
尻尾を出したなスーディー。
復帰のためにも暴くしかない。
俺は1番信用できるメイド、アンナに協力を仰いだ。
「どうされましたロイド様?」
廊下の真ん中で俺たちは話している。
「アンナ、今日はお前に話がある」
少しの間を空けてから、アンナが何かを悟った。
「はっ!」
アンナが俺の左手に抱きつく。
「もしかして愛の告白とかですか!」
ニヤニヤした美人顔が近づいてくる。
「いや断じて違う」
「ちぇーっ」
アンナは元の位置に戻って行く。
…まぁ見てのとうり信用できるメイドである。曲者ではあるが。
「で、なんなんですか?話って」
「スーディー家と賭けをした時あったじゃないか。でもあの賭け、なんかおかしいんだ。」
「と、言いますと?」
「あんな賭け金見たこともなかったんだ」
「腹をくくったんじゃないんですか?」
「いいや違う。調べた結果、同じような金額を毎回賭け、全勝しているんだ」
「なるほど。つまり汚名返上のためにもスーディー家をぶっ潰して、金を取り換えそう!じゃあ誰と協力しよう?そうだ!愛しいアンナに頼もう!ということですね!」
目をキラキラさせながらアンナは言う。
「ところどころおかしかったが、端的に言えばそう言うことだ」
「合点承知でございます!」
「頼りにしてるぞ」
アンナを後にした俺は早速仕事を開始した。
城の役人たちを呼び出した俺は言い放つ。
「今夜緊急集会を開く。全員出席する様に」
「はっ!」
さーて今夜、どうなるかな?
会場はいつにないほどざわついていた。
ドーナツ型のテーブルの周りの椅子に次々と役人が座っていく。
全員集まると俺は話し始める。
「君たちに集まってもらったのは他でもない」
俺はそこから、事細かに詳細を伝えた。
賭け金のこと、連勝のこと、成長のこと、アンナのこと。
全て伝え終わると俺は机を叩いた。
「そして俺は、この中の誰かさんが内通者であることを知っている」
会場はどよめく。
「さっさと出てきたほうがいいじゃないか?」
まだ出てこない。ということで俺は奥の手を使った。
「そう言えば昔からのこの周辺の土地には言い伝えがあるんだぜ。これで解決した事件もあるんだ。裏切りするやつには両眉毛に瓜二つの黒子が出来るんだぜ?」
またざわつく会場。
当然嘘だ。
だが俺は一人、おかしな言動をする人物を捉えた。
「ま、嘘なんだがね」
会場の役人の目が一斉にこちらに向く。
「さて第二厨房担当オーラン君。君は何故眉毛を触ったのかな?」
俺は優しい口調で話しかける。
「自分がやっていないという保証があるんだったら眉毛も、ましてや話なんて聞かないはずだ。だが、君は触った。おまけに黒子がなかったことにすこし安心しているようにも見えたぞ?」
オーランは凍りつく。
俺は声色を変える。
「なあ?やったんだろ?」
オーランに全役人の視線が集まる。
俺は机を壊さんばかりの勢いで机を叩く。
「言えー!」
これまでにないほどの怒り様にオーランも観念したらしい。
「や、やりました」
涙声であった。だが俺は容赦はしない。
「お前は死んで当然だが、処罰は後だ。色々聞かせてもらう。では解散だ」
各自会場を後にする。
すると1人の役人が話しかけてきた。
「見事でした。裏切り者がいると確信はあったのですか?」
「いや…ない。引っかかる奴がいなかったら情報を片っ端から集めて探すつもりだった」
城のある一室で俺は裏切り者、オーランと向き合う様に椅子に座っている。
「最初の質問だ。何故裏切った?」
オーランは震えながら話し始める。
「あの、ある日、食べ物を買いに行っている時、突然呼び止められて、これくらい沢山お金やるから裏切りれって…確か、賭けをする前日の夜でした」
「なるほどねぇ。では次の質問だ。お前はどうやってイカサマをした?」
「ポーカーじゃなかったじゃないですか、あの時。ロイド様の手札を、足で床を叩くことでの、モールス信号でラン・スーディー様に伝えたんです」
「あのダンスか」
「は、はい」
「巧妙だねぇ」
敵ながらあっぱれだ。
「いいだろう。正直に話したお礼に処罰は免除してやる。だが、そのかわりお前はここを去れ。軍にでも入隊して、信念たたき直してこい」
「ありがとうございます!後、次のポーカーギャンブル、観戦させてはくれませんでしょうか?身の潔白さを証明したいのです」
「ほう。いいだろう。だが一応俺の作戦には参加してもらおう」
「わかりました」
俺は一つ息をついて、言う。
「では終わりにしよ…
俺の声を遮る様に大声が聞こえた。
「ロイド様どこですか!」
いきなりドアが開かれた。
驚いて椅子から倒れそうになるのを抑えてドアへ視線を送る。
アンナだった。とても焦っている様に見えるが、少し青くなってもいる。重要そうな場面に見えたからだろう。
「あっ、今大丈夫ですか?」
「ビックリさせないでくれよアンナ。大丈夫だ。いまちょうど終わったところだ。なんだ?そんなに焦って」
ほっと胸を撫で下ろしたアンナは朗報を伝えてくれた。
「はい。明後日、ルーナイの町はずれのバーでスーディー家のラン様がポーカーをするらしいです!参加してみてはいかがですか?」
椅子から立ち上がり、俺はアンナのいる扉へ歩いていく。
「タイミングバッチリな知らせだ。ありがとよ」
アンナは弾んだ声でかえす。
「はい!私、ロイド様のお役に立てて嬉しいです」
そういうとアンナは俺に抱きつこうとした。
そこを俺は手で押さえる。
「まだハグははやい。するのはスーディー家を負かしてからだ」
「わかりました!」
アンナは元気よく返した。
ギャンブル当日、バーへ俺たちは車で向かった。
到着した俺たちは送ってくれた運転手にお礼を言い、アンナ、オーランの三人でバーに入った。
そこは8つ机があり、1人用の席も10席くらいある。
作戦はこうだ。
1,まずイカサマがないようオーランにシャッフルさせる
2,賭けが始まったらオーランは偽の情報をモールス信号で伝える
3,モールス信号がわかっているアンナが一部始終監視する
他のことは後でたっぷりと聞くことにしよう。後仕込みはしない。ずっと強いのを出し続けるのは絶対に怪しまれる。
1番近くの席を見てみるとランの野郎が待ってましたといわんばかりにこちらを見ていた。
俺はランに向き合う椅子に座りながら尋ねる。
「なんだ?待ってたのか?」
「あら?知らないの?結構噂になってたわよ。負け犬が挑んできたって」
正確悪そうな顔をしながらお嬢様は言った。
ほーん。言ってくれるじゃないか。
「さて、始めるとするか」
早速オーランはシャッフルを始める。
トランプが配り終わるとオーランはペンをカチカチし、モールス信号を送る。
イ・チ・ク・ラ・ブ・ナ・ナ・ス・ペ・ー・ド
アンナによるとそういう意味らしい。
俺の手札はジャックのダイヤとハート。何一つ合ってない。
だが何か変だう。勝っている感覚がない。
するとランは言った。
「2?いや3億かけるわ」
「相変わらずだな。じゃあ俺は1000万くらいかな」
「あら。珍しいわね。それじゃあ配ってちょうだい」
オーランは5枚、それぞれの目の前に表向きに配った。
よし!揃った!
「OKかしら?」
俺は叫ぶ。
「俺の勝ちだ!フルハウス!」
「あら」
「よし!」
「すごいけど、運悪かったわね。私はフォーカード」
な…に…
負けた…
…なんでだ…!なんでだ!
「畜生!もう一回だ…
「ダメです!ロイド様!」
アンナの大声で俺は正気を取り戻す。
「これ以上は危険です!帰りましょう!」
俺はへんじもせず、アンナと共に店を出た。
あの後オーランがどうなったかは知らない。
気付くともう朝だった。ベッドに寝かせられている。枕がびしょびしょだ。一晩中泣いていたんだろう。
しばらくするとアンナが申し訳なさそうな顔で、ドアを開けて入ってきた。
「昨日はすみませんでした。取り乱してしまって…」
「いや謝るのはこちらの方だ。惨めなところを見せてすまなかった」
俺は頭を下げる。
「あの、ロイド様にはスーディー家を潰そうとする余力は…残っていますか?」
「というと?」
アンナは険しい顔になる。
「実は5枚づつ配る時、山札の1番後ろに8のハートがあることに気づいたんです」
…!
「そうです。あの人のフォーカードは4のハートと…8のダイヤ、クラブ、スペード、そしてハート。完全なるイカサマです」
「で、あのトランプはオーランのもの、つまり別のカードを入れて、ランがフォーカードになるよう仕向けたと…」
「そういうことです」
険しい顔をしながらアンナは近づいて来る。
そして俺の手を持って言った。
「どうしますか?」
「やってやるよ!」
逆襲は始まった…
「どうしたんだ?トーマスの息子さんよ」
「ちょっと話があってな…」
俺、ロイドは父トーマスの友人であり兵、クリド・フレーバーにコンタクトを取った。
2時間前一一一
「アンナ…何か案は無いか?」
アンナは何気なく答えた。
「一つ…あります。株…あるじゃ無いですか」
株。インターネットがないこの世界なのに株は存在する。銀行の様なお金の貸し借りをするところに売ったり買ったりできる。まぁ元の株とはほとんど変わらない。
話を戻そう。
アンナによると次の戦争の戦いはかなり重要度が高いらしい。だから勝てば株価は上がるし、負ければ下がる。だから兵士の知り合いを作って最速で伝えてもらおうということらしい。
なるほど。いい案だ。
ということで調べた結果兵士の知り合いが父にいることがわかった。
現在一一一
「ほう。イカサマねぇ」
「ああ。協力してほしい。報酬として儲け金の3割をやろう」
「のった。」
スーディー邸一一一
「はっはっは。愉快じゃ愉快」
ラン•スーディーは庭の散歩をしながら笑っていた。
「ラン様。賭け事はほどほどにしてください」
執事が言った。
だがランは笑いながら答える。
「全て勝っているから良いのだ」
「全く。ですが…あのドロイト家です。確実に仕返しをしてきます。あの時の様に…」
「ふん!あんな奴らと一緒にしないで」
こんなことを言ってはいるが、ランは不安であった。
ドロイト邸一一一
俺たちは一つの策を投じた。
「ロイド様。張り紙貼り終わりました!」
アンナが帰って来た。
張り紙というのは探し人のことだ。
あとは…
「ロイド様。お呼びした者が到着いたしました」
よし。
到着したものとは盗賊の1人だ。この土地の警察が登録している盗賊たちに探し人の情報を聞いた結果、1人だけ知っている…というかもう探し人を捕らえている奴がいた。
インタビューを開始するか。
スーディー邸一一一
ランは話している。
「で、あんたは確認だがなんの様なんだ?クリド君」
「はい。もともと私はトーマス・ドロイトについていましたが、今のロイド・ドロイトには呆れております。ゆえに私はスーディー家に着くことにいたしました」
「今ロイドは何をしようとしている?」
「戦争の勝敗により変動する株価を利用し、儲けようとしております。そのためこの情報をひろめ、ドロイト家と同じ売り買いをすればドロイト家は負債で自動的に破産すると考えられます。」
「了解した。ドロイト…滅びるが良い」
ドロイト邸一一一
「ロイド様!戦争の情報が入りました!」
アンナが報告してくれた。
よし売ろう!これで…一攫千金だ。
スーディー邸一一一
「ドロイト家が売っているな…では売るぞ!」
周り貴族も呼応する様に売り始める。
「さて…昼寝でもしようかしら」
ランは庭へ向かった。
「起きてください!起きてください!ラン様!ラン様!ラン様!」
「なによ私はゆっくりと寝ているのに」
「私たちの不正がバレました!ポーカーのことも!闇金の件もです!今記者や騙された貴族たちが押し寄せています!」
「なんですって!?」
ドロイト邸一一一
「全ては私の手の中にあり!俺の勝ちだスーディー!」
数十分前一一一
「ロイド様!戦争の情報が入りました!勝ちです!我が国家が勝ちました!」
「売るぞ!」
「え…いいのですか?」
「いいんだ。これに呼応して他の貴族も売るに違いない。そこを狙う。」
クリド・フレーバーとの会話時一一一
「ひとついいか?」
「まだあんのか。なんだ?」
「クリド。お前はスーディーに俺の件を話してほしい」
「なんでだ?」
「あいつを完膚なきまでに潰すためだ」
「あんた…変わってないねぇ。トーマスおじさんと」
「へっ」
「そういうところ、俺は嫌いじゃない。遠くから見ててやるよ。お前のどんでん返しを」
「了解」
アンナはいう
「株価が、暴落しています!」
「よし!役人総動員で!株を買いに行くのだ!株が高騰する前に!」
インタビュー時一一一
「こんにちはオーラン君」
優しく俺は話しかける。
「なんだよ!俺は何もしていない!」
「じゃあこれはなんだ!」
俺はトランプの束を見せる。
「ここからは以前のポーカーで使われたトランプカードが抜かれている」
青ざめるオーラン。
「一つ、条件をやる。お前の罪を公表しない、盗賊からお前を解放する代わりにスーディーに関する情報をはけ。なんなら金も出してやる」
「ああ、言うよ!言えばいんだろ!」
「嘘だとわかった瞬間、地獄の果てまで追いかけて処刑するがな。あと、その情報を世間に知らせろ。問い詰められたり、刺客を送りこまれても大丈夫だ。ドロイトが、守ってやる」
問い詰めた結果、スーディー家は違法に金の貸し借りをし、利子をつけてかえさせるいわゆる闇金をしていることが発覚した。その分の金を賭け事、成長に使ったということらしい。
「わかった。インタビューは以上だ。さっさと帰れ」
「ロイド様!株価が、急速に上がっています!」
「全ては私の手の中にあり!俺の勝ちだ!スーディー!」
これによりドロイト家は大儲け、スーディー家は多額の負債を背負い、騙した分の謝礼料を各貴族に支払うことになった。
「ロイド様!」
アンナは両腕を大きく広げる。
「はいはい」
あたたかいハグだった。