84話 旅行の帰りとその後
明海十二年 6月3日 民会駅
旅行で夫婦としての親睦を深め、街や温泉を楽しんだ。
そして今は、その旅の帰路に着いている。
自分の左腕には、愛奈が腕を絡め、抱き着いている。
愛奈は今までも自分に対して積極的な姿勢であったが、「あの晩」の後、体を密着させたがるなど、今まで以上に積極的になっている。
「5番線、東海道本線万京方面行き、機関車が到着いたします。尚、この機関車は、5号車以降は大生舟より、高須賀線に向かい、終点を久村浜としています。お気をつけください。また、4号車及び、7号車、8号車は指定席となっています。発車は13時30分を予定しております。車内販売もありますので、構内販売でお買い物をする際は、時間に余裕を持って、お戻りください」
その構内放送の指示に従い、8号車に乗り込む。
車内
「よいしょ、と……」
車内の個室に入り、座ろうとするが、愛奈がどうやら隣に座りたいらしいので、荷物を正面の席に置く。
愛奈は今も微笑んで、腕に抱き着いている。
愛奈も正面の席に荷物を置き、腕に抱き着いたまま、器用に座った。
「これで旅も終わりか……」
「少し、名残惜しいデスネ」
「ああ」
そうして、汽車は発車した。
相坂家
「只今帰りました……っと」
「ただいま帰りマシタ!」
そして、帰宅。
荷物を片し、いつも通りの生活に戻る。
同月 11日 高須賀海軍基地
「相坂大佐、なんだか最近は、以前にも増して張り切っていますね」
「……松栄中佐、何か?」
「いえ、最近は早くに出勤してきて、帰宅時間にはかなり疲れたようで帰っていくので」
「たいしたことは無いような気はしますが……」
「やはり、結婚して変わりましたか?」
「そうなんですかね?自分ではあまり自覚は無いですね」
「何でもいいですが、疲れ過ぎないように、何事も程ほどにして下さいね。飛行演習中に落ちたりしたら、洒落になりませんし」
そうも言いながら、松栄中佐は笑った。
「流石に死にはしませんって。って、こんな話、前にもしませんでしたっけ?」
「そうでしたっけ?」
同月 15日 高須賀海軍基地 演習場
「最近、相坂大佐のシゴキ、きつくないか?」
「ああ、だな。しかも、苛ついてやっているならまだ上に報告して、なんとかなるかも知れないが、なんだかそういった感じじゃないからな。どう言えば良いのか分からん」
「本気を出してきている、って感じだな。戦場での動きってやつか?あれは」
「手抜きに手抜きの演習よりはマシだが、戦争が起こりそうって訳でもないのに、実戦演習を始めて2か月少しの奴らにする演習の難易度ではないよな」
「一体何を考えているやら……」
同月 20日 高須賀海軍基地
「よう相坂、今暇か?」
「暇って訳じゃないが……。どうした、小川?」
「いやな、最近航空学生から、『相坂大佐の演習が難しすぎる』って声が上がっているみたいでな。何かあったのかなぁ、と」
「自分としては、特に何も変わったことはないけどな」
「それならいいが、訓練で希少な航空学生を殺すなよ」
小川は苦笑いして言った。
「……分かっている。改めて自分の訓練を顧みて、やり方を直すよ」
……そこまで難しかったか?
まあ、訓練や演習で航空学生が死ねば流石に事だ、訓練の難易度を下げてみるか……。
同年 7月6日 浜綴航空技術研究所
今日は倉田に検査だなんだと言われたので前の試作機の試験以来、久しぶりに来ることになった。
「どうした?試験って」
「ここは、航空技術を扱っているのもあって、航空学生からの情報も扱っているんだが、相坂の訓練が難しいっていうのを聞いてな」
「それがどうしたんだ?」
「航空の戦闘演習……もといその機動も慣れみたいなのがあるのかと思ってな。その研究の一環だ。もし慣れがあるのなら、地上で慣れることが出来るのか、そうでないのかも調べたいからな。相坂や小川は習熟者としてこの検査に参加してもらいたいという訳だ」
「参加してもらいたいって言いながら、ほぼほぼ半強制だろ?やるよ」
「話が早くて助かるよ」
やはりそうだったか。
……。
「これで、今日の検査は終わりだ」
「『今日の』ってことは、明日以降もあるってことか?」
「今日の検査は最初の体の情報の検査もあったから、後日の検査はこれよりも短くはなるはずだけど、あるにはあるね」
「そうか……。ま、こういう試験は長いのが当たり前か……」
「ってことで、次は一週間後だな。今日から三か月間は一週間毎に検査を受けてもらって、一か月で大きな変化がないとなったら一か月毎になる。全部で二年の予定をしている」
「二年か……、それにしても長いな」
「航空技術の進化に必要だと思って、協力してくれよ」
「協力はするがな」
「そりゃどうも」
結婚からくる気分の変化、それに伴う訓練の難易度の上昇から、何かとてつもなく面倒なことになってしまった気がする。
「あ、後、新型の輸送機の試験もあるから、覚えておいてくれ」
「分かった」
ま、こういうことも同時にするから、そこまで時間を取られることに気にしないでも良いか。
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