83話 式と旅行
今回、R-15表現有り。
明海十二年 6月1日 高須賀某所 民会行汽車 特等車
この日、自分、相坂慎太郎と、アイナ・ザラ・フレーザーは結婚し、夫婦となった。
アイナの希望により、神式とイェムス教式の式が開かれた。
白無垢と白のイェムス式の衣装は中々に似合い、そして映えていた。
白無垢は文字通り和装であり、そこまで似合わないかと思っていたが、実際見ると息を呑んでしまうほどだった。
兎も角無事に式が終わり、今、靜陸県は民会行の汽車に乗っている。
アイナ……もとい愛奈が計画立て、新婚旅行に行くことになった。
まさか結婚式当日に行くと聞かされたときは驚いたが、その為に行くのが一等車のさらに上の、特等車に乗ることにも驚いた。
更にその金が上官や小川含む現場の同僚、そして生機からも出されていると聞いたときは、それはそれは驚いた。
有り難いが、何か申し訳ないような気がする。
そのことを言うと皆は「今度の式の祝儀に期待する」とのことであった。
それはそれで期待が重くて緊張するな。
また、既婚者からは「歳暮と中元に期待する」と。
まったく本気か冗談か判断に困る。
兎も角少しは良いものを贈ることにする。
閑話休題。
汽車は一度、万京から逢坂を結ぶ国営鉄道東海道本線まであがり、そこから民会に向かうことになる。
民会まで汽車で3時間強の旅である。
「それにしても、途中で本線の汽車と連結する乗り換えの無いやつを選んでもらえるなんて、この線を選んだ人にはかなり感謝だな」
「小川サンから話を聞きマシタが、それは本当に偶然らしいそうデスヨ」
「……釈然としない」
照れて言わなかったのか、本当に偶然なのか……。
感謝するにも言いにくいような言い方をしなくても良かったと思うが……。
「民会というノハ、話に聞いテ、浜綴での新婚旅行の定番ダト聞きマシタが、どういった場所なのでしょうカ?温泉地とダケ、聞いていマスケド……」
「簡単に言うと、海沿いにある温泉地で、保養地になって、普通の旅行先としても人気が高い場所だと言われているね。自分も行くのは今回が初めてだけど」
「海沿いノ保養地……高須賀とはまた違った景色なのでしょうカ?」
「高須賀は軍港だから、かなり様相が違うと思うよ。民会は目立った軍事施設なんかは無いし、保養地としての歴史もあるし、旅館が立ち並んでいるらしいからね」
「ナルホド~。胸が高鳴りますネ」
「ああ」
特等車から見える景色は空から見る景色とはまた違った趣がある。
愛奈と話しながら汽車は進む。
同日 靜陸県 民会梅旅館前
民会駅に着くと、陽が少し、傾き始めていた。
駅から少し歩き、行き先の旅館に辿り着いた。
「予約していた相坂です」
「承っております。ようこそ民会梅旅館へ。早速ですが、こちらへご記入ください」
「……これで」
「では、お部屋にご案内いたします。お荷物を」
「ありがとうございます」
今回の旅行はこの旅館に二泊三日過ごし、帰路に着く予定だ。
とは言え、今日は夕食と就寝、三日目は朝食後、暫くしてから帰路に着く。
自由時間は二日目くらいで、今日は一体どうしようか。
夕食と風呂をしてから寝るというのも、時間が少しある。
部屋
「温泉巡り、デスカ?」
荷物を整理し、一息つくと、温泉巡りを提案した。
「ここは温泉街だから、夕飯までに一軒くらいは行けると思うけど……どうする?」
「良いデスネ。行きまショウ!」
複数軒とは行けずとも、一軒くらいは行けるだろう。
それに、この宿の風呂にも入ってみたい。
一日目では妥当だろう。
という訳で、近くの大衆浴場か、外来入浴ができる温泉宿に入りに行くことになった。
温泉宿
手ごろなところにあった、外来入浴のできる温泉宿を見つけたので、そこの温泉に入ることになった。
「家族風呂か……」
「家族風呂とは何デスカ?」
「簡単に言うと混浴だよ」
「混浴……?」
「えぇと、男女が同じ風呂に入るってことだよ」
「はぁ……」
家族風呂の説明をすると、愛奈がきょろきょろと玄関広場を見渡す。
自分もそれに合わせて見ると、受付以外、人はいないように見えた。
温泉宿が繁盛するのは基本的に盆と年末年始、六月の始めという梅雨入りの時期に人入りが減るのも当然、ここはあまり立地が良いとも言えず、自分たちも「近いから」という理由で入ったまでである。
そして再び愛奈の方を見ると、顔を少し染めながら言った。
「人も少ないようデスシ、一緒ニ……入りますカ……?」
「……入ろうか」
それくらい帰ったときの部屋風呂でも出来るのだろうが、女に恥は掻かせられない。
顔の染具合から、そこそこ恥ずかしがって言い出したことを、そう無碍には出来ない。
ここで引いては男が廃る、という奴である。
家族風呂
戸を開けると、そこには一人も居なかった。
脱衣所には半裸で恐らく近くの住人であろう中年が長椅子で寝ていたりするのなど、その他同じく住人であろう初老の男性が数人いるだけではあったが、数人くらいは中にいると思ったが、意外にも本当に一人も居なかった。
仕方がないので髪を洗っていると、誰かが入ってくる音がした。
男の脱衣所の扉の方からではなかった為、もしかしたら愛奈かも知れなかったが、他の人であると気まずいので、取り敢えずそのまま髪を洗い、湯を流し終えてそちらを見てみると、そちらにはやはりというか、愛奈がいた。
「良かったデス。もしかしたら人違いカモと思っていまシタ」
「自分もだよ」
安堵の声を二人とも漏らした。
「もし良かったらデ良いのデスガ、私の頭を洗ってもらえませんカ?」
「ああ、良いよ」
そういえば、同棲し始めたころも、一緒に風呂にはいったような。
甘えてきているのだろうか?
先ほど振り返ったとき、白無垢を見たときとはまた違った衝撃を受けてしまった。
夕焼けに朱く照らされる白い肌、幼さを残す顔立ち、成国人としては言うまでもなく小さく、浜綴人女性と比べても小さめの身長、これらは日常の生活でも分かることであったが、それ以外のところで衝撃を受けた。
そのか細さを多く残し、日常の雰囲気では露わとならなかった、十二分に自分の心を惑わせる丸みを帯びた体つき、特に浜綴人女性平均よりも大きいと言われている成国人女性より、あくまで自らの考えで、そのなかでもどちらかと言うと大きめであろう、そのたわわと実る二つの果実が、思わず目に焼き付いてしまったのである。
考えとして、女性の中でも特異なほど大きいとも思えないが、その小柄な体と比べては不自然さを感じざるを得ないほどのモノであった。
頭を洗ってほしいとの望みになるべく自然に答えられたのは、是非の問いだったからだろう。
ただ無心に、愛奈の頭を洗い流し、その後にそれぞれ体の汗を流した後、お湯に浸かった。
「ここは……良い所デスネ」
茜の空に、ぽつぽつと羊雲が浮かび、仄かに感じるが、寒いとは感じない程度の微風が吹いている。
二人で湯船に入ったまま、式と旅路の疲れを癒すのであった。
数時間後 民会梅旅館 部屋
「こちらから、鰹の叩きと、旬の菜の味噌汁、そして……」
夕食の時間となり、旅館のご飯が持ってこられた。
「それでは、ごゆっくり」
仲居さんが襖を閉め、夕飯を食すことになった。
「「頂きます」」
旅先で食べる飯は美味い。
旅館で使っている食材が新鮮で、且つ比較的高級な食材であるためと言うのもあるが、情緒と言うところが大きいだろう。
「旅先で食べる食事はイツモと違ってオイシイデスネ!」
愛奈も同様の感想であり、そして美味しそうで何よりである。
旅先での美味しい料理とは、思ったよりも早くに食べ終えてしまうものであった。
そして、食後、食べ終えた食器を仲居さんが片してくれ、あとは就寝を残すのみとなった。
「……」
「……」
そこで二人とも、無言となる。
結婚した男女が初めての夜を迎える。
その状況は、一体どういうことなのか、どういった意味を持つのかは双方分かっている……はずである。
「あー……っと、そういや、部屋の風呂に入るのはまだだったな。先に頂いていいかな?」
「ド、ドウゾ……」
自分が風呂からあがった後、愛奈も風呂に入り、そこまで汗は掻いては無いと思うが、それで気分を変えることも出来たのであった。
……。
「……」
「……」
そして再び、部屋を包む静寂、もとい、二人の無言。
「アノ……」
今度静寂を終わらせたのは愛奈の方だった。
自分の前に正座で座り、愛奈は言った。
「不束者ですガ、今後トモ、ヨロシクオネガイシマス」
緊張しているのか、片言で、声が震えている。
そして、続けて言った。
「私ハ、ソノ……。初めてデスノデ、ドウカお手柔らかニ……」
三つ指までつかれ、これを言われてしまっては、男として引くことなど出来るはずがないのであった。




