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凪の中の突風  作者: NBCG
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82話 人生の進路

明海十二年 3月13日 戸部県立高須賀高等女学校 校門前


「卒業、おめでとう」


「慎太郎サン、ありがとうゴザイマス!」


この日、アイナは高等女学校を卒業した。


学令により、正確には3月31日までは学生ということにはなっているが……。


話し合いにより、結婚自体はアイナの希望により、6月1日とされた。


この月は雄州の風習により、婚姻に縁起のいい月であるらしい。


その為、結婚までの間、これからどうするかを話すこととなった。


同月 15日 相坂家


「家はやっぱり、二人の希望で……」


「立地ハ……」


最初は家に始まり、結婚式の形式、銀行口座や保険など、どうするのか。


未だ結婚はしていなかったが、これが相坂家初めての家族会議となった。


「そういえば、国籍はどうなるんだっけ?取り敢えず結婚したら国籍を得られるはずだけど、その為には二重国籍にならないように前の国籍を停止しなければならなかったと思うけど」


「その当たりは父にモ協力してモラッテ、結婚までに停止してモライマス。そのように動いているノデ、今のところ、問題はアリマセン」


「そうか……。なら、いいんだ」


「アー、そう言エバ、女学校から成語教師として働かないかトノ話が来てマシテ……」


「学校の教師って、師範学校とかに行かないとなれないんじゃなかったっけ?」


「所謂、『お雇い外国人』デハその限りデハ無いようデス。基本的な浜綴語ノ試験と、採用試験サエ通れバ、良いとのことらしいデス」


「アイナは賢いから、それは問題無いとは思うけど……」


制度など、大丈夫なのだろうか?


「慎太郎サンは反対でしょうカ?私ハ、試験費用免除や、留年時の費用免除ノ件もあって、感謝ノ印として、やりたいと思っているのですケド……」


自分からしたいと言っているのなら、止める理由もないか。


何か制度で問題があっても、認識の違いやら、書類の仕様やらの話ということで、そこまで大きく取り上げられるほどの問題ともならないだろう。


「あぁ、別に反対していた訳じゃないよ。少し制度とか、考えるところがあったってだけで」


「ということは、お受けしてもヨロシイト……?」


「アイナがしたいなら」


「ありがとうゴザイマス!」


まあ、この眩しい笑顔を見せられると、何も言えなくなってしまう自分が情けない。


「後は……私が浜綴人になったときの名前……デショウカ?」


「それは……別にカタカナでもいいんじゃ?」


「イエ、私も浜綴人となりマス。だからこそ、心からなれるヨウニ、浜綴人のヨウナ名前がいいと思うのデス」


「そうか……」


そう言い、部屋にある辞書を持ってくる。


「浜綴人らしい名前を新しく付けるのか、当て字にするのか……どうする?アイナなら当て字もそう難しくないと思うけど」


「急に名前が変わるト、皆サンが困ってしまうト思うノデ、難しくないのナラ、当て字ニしようと思いマス」


意外と合理的な考えを持っていた。


「そうか……なら、『あ』と『い』と『な』の三文字か、『あい』と『な』の二文字が妥当かな……?」


「そうデスネ。……私モ、漢字を書くのニハ慣れマシタが、余り慣れていないのもあるノデ、出来れば二文字が良いと思いマス……」


「そう?『あい』か……」


辞書は五十音順であるため、最初の方から捲り、見て行く。


「愛……合……相……藍……。どれが良い?」


「コノ、『愛』という字が良いと思いマス。『人を大切に思う』……私ハ、慎太郎サンのコト、トテモそう思ってマスから……」


「そう……ありがとう?」


名前にそういう意味を込めるのか……。


まあいいか。


「じゃあ、次は『な』、だね。『あ』……『か』……『さ』……『た』……『な』っと」


「色々ありマスネ」


「奈……名……那……菜……。『な』は『あい』とは違って、確かに色々あるな」


「『奈』が良いと思いマス!」


「またなんで?」


「この『奈』と言う字は、『ずっと』って意味デスヨネ?」


「確か植物の名前だったような……。まあでも、『奈落』とか、県の名前の『奈和』県だとか、地名の『幸奈』とかあるから……、まあ解釈すればそれでも通らないことも無いか……」


「私ハ慎太郎サンと『奈』、『愛』を思い合いタイと思っているノデ……」


「成程」


こういう何だか恥ずかしいようなことを惜しげもなく言うのが「国民性の違い」とやらなのだろうか?


「『愛奈』ねぇ……良いんじゃない?」


「ありがとうゴザイマス!では、結婚したら、私はこの字にナリマス!」


という訳で、結婚後のアイナの名前が決定した。


今日はこのところで、この会議はお開きとなった。


同年 4月11日 高須賀海軍基地


「相坂大佐、今日はなんだか機嫌が良いようですね。何かありましたか?」


「そうですか?自分ではそこまで顔に出している気はしませんでしたが」


「その口ぶりだと、本当に良いことが?」


「良いこと……というか、人生の変わり目にいるような感じですかね」


「具体的には何が?」


「6月に結婚することになったということはもう既に松栄中佐には言いましたよね?」


「はい。初めて聞かされたときは少々驚かされましたが」


「それで新築を買うことになったんですが、今日がその着工日で」


「そうでしたか。確かに希望やら不安やらが入り混じった心持になってしまいますね」


「そういうことで、心なしか緊張したような感じになってしまいましてね」


「兎も角事故だけは止めて下さいよ、軍は戦争経験者をなるべく失いたくないと思っていますし、それに婚約者の方も悲しむと思いますので」


「流石に今は死ねませんね。次、新たな戦争が起こりでもしない限り」


「頼みましたよ」


工事の作業でも見たら、心も少しは落ち着くだろうか。


帰りに寄って見てみようか。


同日 相坂家


「今日は帰りに新しい家を見に行ったよ」


「様子はどうでしたカ?」


「今日は整地と地鎮祭だけだったみたいだね」


「地鎮祭とは何か聞いてもイイデスカ?」


「家を建てる前にする、家の幸せを祈る儀式って聞いたかな」


「どうでしたカ?」


「あまり華やかものでもなかったかな。祭りってついているけど、本当にただの儀式だから」


「私モ帰りに見に行けば良かったデス」


「働き始めて忙しいと思うから、無理に行かなくても良かったと思うけど……」


「私はセイアニッシュ・ネイティブとしているノデ、そこまで忙しい訳でもナイデス。文法や単語は正規の先生が教えマスシ、私が授業を持つのは週に8単位ナノデ、一日一時間か、たまに二時間しか授業はしませんカラ、そんなに忙しくもナイデスヨ?」


「新年度は忙しいから、他のことも頼まれたりして、忙しいんじゃ?」


「掃除の手伝いか、学生サンからの質問を答えるくらいしか本当にナイノデ、忙しくないデスヨ?時間割ナドや他のコトは、正規の先生の範囲デスカラ」


「そうか……なら、時間が空いているときにでも見に行けばいいと思うよ。一緒に見られたら良いね」


「ハイ!」


新たな生活が着々と始まりつつあるのであった。

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