8話 終戦と交流
明海元年 10月5日
本日の三日前、つまりは10月2日に浜綴と唐国の戦争、浜唐戦争は終結した。
浜綴は唐国の港の内、他国の主権が及ぶ港以外の全ての港とその周辺地域を唐国に要求したが、雄州列強が反対し、それは叶わなかった。
しかし、飛行機の提供・輸出と戦争で制圧した三つの港のみ付近の地域という妥協した提案を出したことで、雄州国家は全ての条件の白紙化という要求を取り消し、これで手を打った。
「長年に渡る唐に友好的な他小国に対する不利益」と言う、言い掛かりのような宣戦布告を唐国から吹っ掛けられ、税金が多く掛かり、多少国民の不満が残る結果となったが、この要件と多額の賠償金で、暴動などが起こるほどではなかった。
飛行機の提供されなかった国家に於いては不満が多少残る結果となったが、大国同士の牽制の末、この結果に収まった。
そして今、高須賀軍港の近くに造られた飛行場にて、飛行機を得た国家に向けて、展示飛行が行われており、数少ない実戦経験者である自分もその飛行に駆り出されている。
下に目を移すと、飛行場で黒い旗を大きく振り回す整備士がいる。展示飛行の終了の合図だ。すぐさま飛行場に戻り、着陸する。
「よう相坂、どうだった?」
「いや、普通だ。空飛ぶだけだしな」
「あんなに空を飛ぶのを嫌がっていたお前が、飛行機乗りってことでこんなに大物扱いになるとはな」
「お前も十分大物だろうよ倉田。それより、俺が飛んでいた間、下では何かあったか?」
「いや、特に。あー、大成帝国の軍人の娘さんが迷子だってな」
「何歳くらいの子だ?」
「6、7歳くらいって言ってたっけな」
「そうか、見つけたら言っておく。ってか、なんで子供が?」
「大使館勤めの軍人が、飛行機を早くも見られるって、子供に見せたかったらしいぞ」
「あー、なるほどな。理解した」
「それより相坂、次の新作の飛行機だがな」
「あの『爆撃機』ってやつだろ?」
「それもあるが、違う」
「何だ?『爆撃機』とやらじゃなくても、俺は一人乗りしか乗る気は無いぞ」
「だろうと思ったよ。でもこれから話す新型機は一人乗りだぞ」
「ほう。で、どんなのだ?」
「今までの飛行機は役割で分けて、政府機と偵察機、そして新たな爆撃機と、それを少し改造した航空輸送機という区分がある。これにさらに新しい区分が出来ることになった」
「どんなやつだ?」
「『戦闘機』って言うんだ。役割はな、敵の偵察機や爆撃機を落とすことだ」
「まずその飛行機を扱う敵がいないのにか?」
「できるかもしれないって話だよ」
「何故に?」
「考えても見ろ。今回他の、雄州列強にも飛行機が輸出されたりされることが決まっただろ?ということはこれから雄州の戦争が起こるとしてだ、飛行機が用いられることは明白だ。そしてその軍用飛行機がこの国に向けられるとしたら?」
「分かった。なるほどな」
「考えたくもないが、これから浜綴が列強並の国家としてのし上がる為には他の雄州列強と対立することも考えなくちゃならん。その時に『もしあのとき万策を尽くしていれば』と、後になってから考えることの方が嫌だと俺は思うし、親方達もそう思った。恐らく政府の連中もな。だから『戦闘機』という区分が新たにできることになった。まあこの考え方から行くと、敵となるかもしれない列強も戦闘機を作ることになって、これらの戦闘機の相手に、戦闘機も加わることが考えられるな」
「あー、先の戦いで変なこと言わなかったら良かったかなー」
「お前が言い出さなくても、どうせいつか誰かが考えたことだろうし、後悔しても仕方がないないだろ」
「だって俺が言い出して、砲弾を落とすなんて言わなければ『爆撃機』とか、できやしなかったんだろう?それで整備士が足りなくなって結果飛べる時間が少なくなったのは明らかに自分の所為だし」
「そっちかよ。……まあいいや。爆撃機も飛ばすことが出来たし、実戦経験者のお前に飛んでもらうからな」
「ええ……、小川とかに頼めよー」
「小川達にも頼んである。その上でお前にも頼んでんのさ」
「分かった……『戦闘機』とやらの試作機の試し乗りは?」
「一応機関は前のと殆ど変わらないし、多分飛ぶだろうけど、今の状態で飛ばすことはあまりしたくないな。操縦席に座ること自体は構わんが」
「そうか……まだ飛べんか」
「済まないな。あと、この後で大成帝国の軍人達に説明も頼む」
「一応軍学校ではやったが、本土の人と喋れる水準には達していないとは思うが」
「それは大丈夫だ。それに秀でた通訳はいる」
「ならいいが……そういや『戦闘機』とやらの試作機自体はここにあるんだったな」
「乗るだけ乗ってみるか?」
「いや、外から見るだけで良い。どこの格納庫だ?」
「研究用格納庫って言う……12番格納庫の奥だ」
「分かった。説明が終わった後に見てくる」
「応。じゃあ俺はここでお前の機体の整備と整理をしておく」
「ありがとう。じゃな」
高須賀海軍基地 基地防衛兼試験飛行場 屋外集会場
「で、つまり……という訳で……」
「~~~~~、~~~、~~~~~」
自分の説明と共に、翻訳者が喋る。正直言って彼が何を言っているのかは理解できない。自分の言葉の翻訳であることは分かっているが、だからと言ってそれが明瞭にどういうことか、どの言葉が自分の言葉と対応しているのかは分からない。
「以上です。質問は?」
「That’s all. Do you have any question?」
「……」
パチパチと拍手は疎らにあるが、質問は無いようだ。ま、いいか。
「では私はこれで」
「おっと、相坂君」
翻訳者でもあり、上官でもある帝国海軍の軍人が話しかけてきた。
「何でしょう?」
「えーと……あの周りと比べても背の高い成会矛の軍人がいるだろ?」
「ええ」
「あの方の娘さんが……」
「迷子なんですね?」
「なんだ、知っていたのか?」
「うちの整備士から」
「そうか、なら大丈夫だ。見つけたら彼にも伝わるように頼む。君は今からどこへ?」
「研究用格納庫へ。新作を見に行きます」
「分かった。行っていいぞ」
「では、失礼します」
研究用格納庫
「12番格納庫の奥……ここか」
ここには新作の『戦闘機』の試作……それ以外にも多様な飛行機の試作機が納められている。
そしてこの格納庫の中央ほどのあたりに一人乗りの、『戦闘機』と思われる飛行機があった。
「これが……戦闘機か……」
なかなかに洗練された印象だ。翼は全て金属製で、早風や太刀風のように複葉機である。しかし、機体の中央部、乗り込むところは木製なのか、金属製なのかは、塗装で分からない。
尾翼の近くには、着艦具が存在し、航空母艦に載せられるように……なんだあれ?
回り込んで見てみると、服のようなものが……。
「誰だ?」
思わず声を出してしまった。もしかしたら服だけとか、人形かもしれないが。
「?」
そこには、涙目で金の髪に青い目をした……所謂金髪碧眼の少女がいた。
「迷子かぁ……」
「!?」
少女は自分の言葉が分からなかったのか、今にも泣きそうにしていた。
「あー大丈夫大丈夫。父親のところに連れて行くから」
しゃがんで手を広げ、伸ばすと、少女は抱き着いて来た。
言葉は分からないのだろうが、安心できるところでも求めているのだろうか。整備士達ほどではないにしろ、油臭い航空服で安心できるのだろうか。まあ子供と言うのはよく分からないものや臭いに安心感を覚えることもあるだろうか。
「れっつ、ごー、とぅー、ゆあ、ふぁざー、おーけー?」
少女は頷いた。
こんなに恥ずかしいくらいの拙い成語でも理解はしてくれたようだ。ま、これで一先ず安心だな。大使館勤めの外国人、それも軍人の子供が行方不明とか、笑いごとにならない外交問題だ。本当に見つかって良かった。
「よっと」
自分は少女を担ぎ上げる。
あの通訳を担当していた上官は……確か今日のこの時間は他国の士官同士の話し合いで、この時間だと無理らしいと言っていたな。
直接あの背の高い軍人……この娘の父親に話しかけるしかないか?
それとも……倉田あたりに相談するか。
あいつは整備の後は新作の話し合いをすると言っていたが、会議程堅苦しい話し合いでもないらしいし、あいつ一人が欠けたところで重大な損失にはならないだろう。
意外にも奴はあらゆる提案をして、飛行機の細部の諸元や装置も奴の提案の多くが採用されているらしいが、それでも奴中心の計画である訳でもないらしいし、忙しい訳でもないから、今は大丈夫だろう。
「さて……奴はどこだっけ」
「すぅ……すぅ……」
そんなことを考えているうちに、少女は自分の胸で寝てしまった。迷子であって、それに知らない軍人に担がれているというのに、この少女はもしかしたら大物になるかもしれない。
「開発整備部……ここか」
開発整備部と書かれた戸を開けると、倉田と目が合った。
「おお、相坂か、どした……って聞くまでもないか」
「この子の父親がどこだか知らんか?というか、どこに知らせたらいいやら」
「ちょっと待って……親方!親方!」
「五月蠅ぇ!近くに居んだろうが!それに会議と公の場で親方は止めろって言ってんだろうが!」
「すいやせん……あの、例の迷子、見つかったみたいで」
「お、おおそうか。じゃあ連れて行くからその子を」
「ああっと」
渡そうとしたが、寝ている時にしっかりと自分の航空服を掴み、離れないようになっていた。
「仕方ねぇな……一緒に来てもらってもいいか?」
「ええ、構いませんよ」
「じゃ、行こうか。おうお前ら!俺が居ないからって、会議怠けるんじゃねぇぞ!」
「「「う~い」」」
「だからこういう場では『はい』だって言ってんだろうが!」
「「「はい!」」」
「あの」
「おっとすまねぇな。じゃ、次は本当に行こうか」
「はぁ」
応接室
「ここだ。入るぞ。失礼する」
「失礼します」
入った先には、項垂れ、低い机に手を置き、その手に頭を乗せている、長身で男性の成会矛の軍人が居た。
「~~~!~~~!?~~~~!」
何やらその男性が自分に対して捲し立てている。
「あー、あー、おーけー?」
最早自分が発しているのはまともな会話の言葉ではないのだろう。
「~~~~~、~~~~~~」
その男の傍にいた、通訳と見られるこちらの帝国軍人が諭すようにその男性に話しかけている。
「少し気が動転していたみたいですね」
その通訳の男性が言った。
「~~~~~~~、~~~~~」
落ち着きを取り戻したような成会矛の軍人は自分に何やら話しかけてきた。
「何と?」
「ああ、感謝の言葉を送っているらしい」
「そりゃどうも」
「~~~~」
「では、娘さんを」
「この子が抱き着いて来たので、少し汚れているかもしれませんが……」
「え~と、~~~~~?」
「~~~、~~~~」
「別に良いと言っているよ。見つけられただけでも」
「それはそれはって、あれ?」
父親である成会矛の軍人にこの少女を渡そうとしたのだが、少女は一向に自分の服を離そうとしない。
先ほどと違うのは、この少女が起きているという点だ。
「え~と……」
思わず苦笑する。
「~~~、~~~、~~~、~~~~」
少女の父親が少女を諭すように近づく。
「グスッ」
少女は何故か泣き出しそうに声が上ずっていた。
「お、お~い、君の父親だぞ~」
子供のあやし方があまり分からないので、子供相手に変に言葉が固くなる。
「~~~~~!」
父親である軍人が語気を強めたように詰め寄る。
自分も彼に近づくが……
「ビエ~ン!」
少女はついに泣き出してしまった。
「今です!」
少女が泣き出したとともに手を自分の服から離したので、その隙に父親である軍人に少女を渡し、
「失礼しました~!」
そそくさと応接室を去った。
「ああ、ちょ、し、失礼しました~!」
親方……整備士長も慌ててついて出てきた。
「ちょ、相坂、あれはちょっと駄目だと思うよ?」
「いや、どうしろと」
「……分からん……なんか……すまんな」
その後、しっかりと試作機を再び見るのも忘れて、寮に還り、すぐに就寝した。
なんか一日の最後にどっと疲れたな。
良ければ是非ともご評価・ご感想を頂ければと思います!
ブックマークもお願いします!
書く気力に繋がります!




