78話 対予科練習生
明海十一年 4月10日 高須賀海軍基地 飛行場
「ふぅ……今日もなんともまぁ、平和だったな……」
いつもの演習が終わり、少しの間、操縦席で腕などを伸ばしていると、周りに少々ほど人が来ていた。
「なんです?」
「今日はこの後、予科練習生の自主練に付き合うとか聞きましたが。それで我々は燃料補給に来たのですが……」
「あー、そうだった……。お願いします」
一日の訓練の中ですっかり忘れてしまっていた。
そして燃料補給と少しの点検を終えると、再び空へと舞い戻った。
同基地 上空
「これより演習の説明を開始する。内容は、互いに正面に向き合い、すれ違った後から15分間互いの背後を取り合うというものだ。相手の機を射線に捉えたら、捉えたときだけ15分を計っている時計と違う時計を押し、針を進めさせる。これはあくまで自主訓練だから、サバ読んでも意味はないぞ。良いな?」
「三原、了解」
「では大きく左旋回せよ。こちらは合わせる。すれ違ったら開始だ。時計を用意せよ」
「三原、時計準備完了」
「よし、では行くぞ」
こうして、予科練生との演習が始まったのであった。
三原
「流石実戦経験者だけはある……中々背後を取らせてはくれない」
すると突然無線が入る。
「そう闇雲に旋回しても意味は無いぞ。相手がどこに行きたいのか、何がしたいのかを考ええて先を読め」
「了解!」
心で舌打ちしながら三原は相槌を返した。
相坂
「……まるで分かっていないな」
演習とは言え、戦っているのに暢気に溜息が出てしまう。
いくら練習生とは言え、煤羅射の第二形態……確かPp-2?とやらの飛行機が出たころの飛行機乗りよりも先が読みやすい。
これでは演習などもっての外だな。
とっとと背後を取って、終わらせてやるか。
三原
「クソ!クソ!クソォ!」
操縦桿を倒しに倒し、一時は背後から撒いたと思っても、次の瞬間にはまた背後を取られている。
戦う前、あれだけ大口を叩いたのに、これではとんでもない恥さらしである。
「これじゃ……『あれ』をしてでも……」
三原の頭に、とある考えが浮かんだようである。
相坂
「……そろそろか」
時計を見て、どれほど三原の背後を取ったかを見る。
見れば7分以上背後を取っていたため、あとは手を抜いて、適当に流そうとする。
「……ん?」
ふと三原の機を見ると、挙動が怪しい。
「はぁ……。『それ』をやる気か……」
全く、身の丈に合わない自負を負った者の取り繕い方の醜さに辟易する。
「面倒臭い……」
だが、これを利用して、彼と自分がどれほどの力量差があるかを分からせることが出来るだろう。
「それ」に備える為、操縦桿を強く握り締めた。
三原
「喰らえ!」
演習用機として、この突風には銃弾は載せられてはいない。
しかし、それを除いても、今の機体でも行える攻撃はある。
それはつまり、「体当たり」である。
「おらああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
相坂機と自分の機が交差する位置取りに来て、相坂機に突っ込んだ。
「!!?」
しかしそれは、成功しなかった。
相坂機をぶつかる寸前に、前後を軸とした宙返りをして、ひらりと躱したのである。
「な……!?」
後方を見ると、再び三原に驚きが走った。
交差するような位置から宙返りして背後を取るなど、自分の考えでは思いつきもしない、この目で見ても、それがにわかには信じられないような出来事であった。
「相坂から三原へ。演習中止。理由は言わなくても分かるな?」
無線から、感情が無いような声が聞こえた。
「了解……」
三原は力なく、そう答えるしかなかった。
演習後 高須賀海軍基地 飛行場
「三原、言わなくても分かるな?」
「はい……」
「敢えてここではそのことについては問わない。基地に戻ったら報告書を貰うだろうが、その用紙を貰う時に、『反省文』用に用紙をもう一枚貰い、反省文を書け。書いたら自分に提出しろ。分かったな?」
「了解……」
反省しているのは見て分かるが、戦う前の威勢のよさは一体何処へ行ったのだろうか?
もう少しハキハキ話してもらいたい。
「後片付けは自分と整備士がしておくが、これは特別だからな?操縦士がする分はいつもは自分で行え」
「はい……」
兎に角、この一悶着はどうにか収束したのであった。
同月 11日 朝 高須賀海軍基地 事務室
「聞きましたよ、相坂大佐」
出勤すぐに松栄中佐から声を掛けられる。
「何をですか?」
「予科練生を苛めたって」
「苛めたとは人聞きの悪い」
「あいつが相当落ち込んでいたって話ですよ?何をしたんですか?」
「ただ危険行為をしてでも自分に勝ちたいようだったので、演習を途中で中止し、報告書の他に、反省文を書くように促しただけですよ」
「はぁ……今まで一つもまともに挫折をしなかったタチですかね?」
「まあ、そんなところでしょう。これで予科練を辞めるなら、引き留めるべきではないでしょうね」
「何とも手厳しい。ですが、確かにそうでしょうね」
「敵前逃亡はそれまで仲間だった人間を大きく危険に晒しますから。それに、自分の過信で好き勝手に動く兵士も戦場にはいりませんからね」
「そうですね」
同日 夕方 高須賀海軍基地 飛行場
「相坂大佐」
「ん?……また君か」
その日の演習が終わり、戻ろうとすると、三原君にまた声を掛けられた。
「どうした?」
「昨日は、申し訳有りませんでした!」
「まあ、いいんだけど……戦場で同じようなことはするなよ」
「はい。そして、お願いがあるのですが……」
「なんだ?」
「宜しければ、また演習を願いたいのですが!」
どうやら根性はあるみたいだ。
しかし、急且つ昨日の今日のことでもあり、燃料費やその他諸々の事情により、一週間おきに実戦演習を行うこととなった。
それから、このことを聞きつけた予科生から多く実戦演習を行うこととなるのであった。
同年 7月3日 高須賀海軍基地 事務室
「それにしても、今年の予科練生は練度が高いですね」
「今年は実戦経験者が指導に回っていますし、それに個人指導をやっていますからねぇ」
「今年の奴らは期待できますね」
「えぇ。なんとも頼もしい奴らですよ」
「ま、戦いなんぞ無い方が良いですがね」
「備えておくことには越しませんから」
「それもそうですね」
新たな配属先にも慣れ、その場での仕事もどうやら上手くいき、世間も平和であり、充実した生活を送れているのであった。
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