77話 風切教導隊、始動
明海十一年 4月5日 高須賀海軍基地 上空
「三番機、機体がふらついている。正せ」
「三番機了解」
新年度が始まり数日、自分たち戦闘機乗りの、高等教導部隊は、基礎航空訓練を修めた後輩たちの「飛び方」を見て、どう教えるかの判断を下す。
因みに全員、突風に搭乗している。
同じ飛行機に乗ることで、飛び癖が多少なりとも分かる。
それを見てから改善を行う。
以前から飛び方を見ていたとはいえ、個人個人を見ていたわけではないので、これで改めて確認をする。
「次は急旋回を行う。これは急減速を行いながら旋回することで、通常の旋回以上の旋回能力、より小さい旋回半径で旋回することが出来る。前々から分かっていた者もいるだろうが、これは『飛び癖』を確認することに意味がある。調子に乗らず、こちらが指示する手順道理に旋回せよ」
「「「了解!」」」
無線から威勢のいい声が帰って来る。
実戦でここまで威勢のいい声が来るのは戦う前に気合を入れる時くらいなものである。
その若人の新鮮さと初々しさに、少し心躍る。
「今日の指導はここまでだ。暫くは退屈な訓練ばかりになってしまうと思うが、実戦演習まで腐らず頑張ってくれ」
その心の躍動を留めながら、それぞれに指導を続けた。
同月 9日 高須賀海軍基地 廊下
「相坂大佐、少し、宜しいでしょうか」
「確か君は……」
「三原雅人です」
「……で、どうした?」
「実戦演習を願いたいのですが」
退屈な訓練をしているときは、こういう奴も出て来るとは思っていたが、まさか指導をはじめて一週間で出て来るとは。
「燃料も、機体の借切りも、機体を整備する人員の給料も、タダではないんだが……」
「自分と実戦演習を行うのは無駄と言われるのですか?」
「完全に無駄とは言わんが、まだ完全な習熟をしていない時点で実戦演習を行っても、能力向上に有効であるとは思えない」
「しかし私は……!」
「君は確か……急旋回で取り回しが遅く、失速し、墜落する危険があった。その状態では実戦演習しても貴重な航空要員と機体が失われる可能性を高めるだけだと思うが?」
「それでも実戦になれば改善されることも……!」
食い下がるなぁ。
若さゆえの過信、というものだろうか。
「取り敢えず、こちらも君たちの習熟度に合わせて訓練の内容を決めている。君の要求は取り合えない。いずれ実戦訓練は行う。それまで待っていて欲しいのだが……」
「教官殿は、私に負けることを恐れているのですか!?」
「えぇ……」
なぜそうなってしまうのだろうか……。
「兎に角自分は実戦経験者としてここに来ているだけだから、そういう機体や大型機器を用いる自主訓練などは松栄中佐あたりに聞いてくれないか?自分は松栄中佐よりも階級は上だけど、訓練などについては前から教導隊員だった人に言ってくれないか?自分も自主訓練に付き合っていられるほど暇ではないし。はっきり言って指導に関してはあの人たちから確認を取ってくれと言われているしね」
「そう、ですか……。なら、私が松栄教官などに訴えかけ、相坂大佐と訓練を組むことは問題ないというわけですね?」
「彼らがそういうなら、だがな」
「分かりました」
まあ、松栄中佐もそう簡単には引き受けはしないだろう。
同日 夕方 高須賀海軍基地 (教導隊員用)事務室
「そろそろ帰るか……」
書類整理も一段落し、帰ろうとするその時だった。
「そうだ、相坂大佐」
急に松栄中佐が話しかけて来る。
「なんです?」
「恐らく昼頃に一人、予科生から話は出たということだったようですが……」
「あー、三原君、でしたっけ?」
「そうです。彼の話で」
「やはり話に行きましたか」
「ええ、で、私も考えたのですが……」
「はぁ」
「まあ、やっちゃって下さい」
「え、良いんですか?」
まさかの許可に、素っ頓狂な声が出てしまう。
「ああいう感じの奴らはいっそのこと、一度叩きのめした方が自分の身の程を知り、自分が言っていたことの大きさが分かるというものでしょう」
「彼は操縦技術に一部問題があり、実戦形式の演習をすると落ちかねないんですが……」
「演習で彼に指導しながらってのは……」
「難しいと思いますよ?急旋回に急上昇やら急降下をしていたら、無線で話す暇なんてありやしませんから」
「んー、彼の落ちそうな飛び方をさせないように飛ぶというのは?」
「出来ないことは無いとは思いますが、なんせ実力を出せばそういうことを考える余裕がなくなりますから、心配ではありますね」
「なにも全力を出さなくてもいいと思いますよ?軽くいなす程度で」
「全力じゃないと分かると思いますが……」
「別にそれを悟られても、彼ならその屈辱が訓練や練習に力を入れてくれると思います」
「そうですか……分かりました。で、それはいつですか?」
「明日の演習後に」
「早いですね」
「こういうのは早めにやらないと、延ばされたとか、無視されたとか考えて、後々面倒なことになり兼ねませんからね。では明日、お願いします。演習後、燃料補給を行い、また離陸して、そこから自主訓練に付き合ってやってください」
「分かりました」
「大佐の書類などの一部はこちらで片しておきますので、降りたら直帰しても構いません。彼の方は降りた後に実戦経験者との演習の報告書でも作成してもらおうと思っているので、彼の分の片付けもお願いします。操縦士としての分だけで良いので。後は……彼を降ろす際に、その片付けをするのは特殊な事情であることを説明してください。彼の性格上、何も言わないとつけあがりかねませんので」
「そういう教導員としての助言は助かります。ありがとうございます」
「いえ、ではその方で、宜しくお願いします」
「はい、では明日に」
戦争が終わって、観艦式やら、教導隊員になって予科生に絡まれるやら、変なことが増えてしまったな。
これでも技研の試作機の試験に付き合っているから、決して暇ではないのに、仕事と言うのは戦争であろうと平時であろうと舞い込んで来てしまうもののようだ。
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