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凪の中の突風  作者: NBCG
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74話 戦後の戦略

明海十年 4月10日 空母索冥 第一会議室


「諸君、新年度早々済まない」


全く謝る気のない寝ぼけ眼で謝る司令官。


「私たちは急遽、濯佳共和国において、戦勝の観艦式を行うこととなった。しかも、割とすぐに艦隊を出すことになる」


その言葉への動揺が部屋の内に伝わる。


「観艦式を行う表向きの理由として、『飛行機同盟』外の国家からの支援額が最も高かった濯佳共和国に対して、その見返りとして早風と太刀風の供与、そのついでの観艦式ということになる」


そして司令官は溜息を吐く。


「そしてここからが裏の話だ。実は、我が国の戦後の混乱に乗じて伊銀出が濯佳共和国を領土にしようと飛行機を用いて観艦式や軍隊の行進を行うらしい。濯佳共和国を伊銀出連邦の領土にされることは、我が国の安全保障上の問題になり得る為、この観艦式を予定したらしい」


そしてまた、司令官は溜息を吐いた。


「そこで、旧式艦である、千鶴型の残った三隻と、新鋭艦である栄龍を観艦式に予定していたらしいが、残念ながら船渠入りになったため、同時期に就役することになった我らが艦、索冥がその役に選ばれたという訳だ」


司令官は欠伸を一つして、再び話に戻る。


「さらに、この話には続きがあって、我が国の飛行機技術を見せつける為に、編隊飛行をみせるらしい。先に言った四隻の、でな。まあ、後の話はまた後で連絡が来るという話だ。それまで各自、編隊飛行の訓練でもしておくことだ。以上!」


最後の『以上』だけ、威勢のいい司令官であった。


この後一週間で艦船の予定を組み、そのさらに一か月後、戦線に参加した水晶型巡洋戦艦2隻、巡洋艦2隻、駆逐艦16隻、輸送船舶複数による観艦式用臨時艦隊が編成され、アラカイ共和国に向かうのであった。


そして、それに感づいたイギンダ連邦も、予定を早め、出発することとなった。


5月20日 アラカイ共和国 オキカ島 ダイヤモンドハーバー


ここオキカ島は、アラカイ共和国の最大の都市でもある首都ホロホロが存在し、アラカイ諸島三番目の大きさの島でありながら、アラカイ共和国の人口の7割はこの島に住んでいる。


そしてこの日、この島に、アラカイ共和国ではない二か国の艦隊が集う。


人々はそれらを見ようと、ダイヤモンドハーバーに集まっている。


ダイヤモンドハーバーは共和国の主要な海軍基地であり、また外国の艦船も良く停泊する港で、両国は互いの戦力を見せつける意味合いも込め、観艦式の停泊場所を同日の同じ場所にしたのであった。


「お前はどっちの方がすごいと思う?」


「そりゃ、イギンダだろう?当たり前だ」


「俺は浜綴の方だと思うぜ。飛行機ってやつを早く見たいぜ」


「そんなの戦力になる訳ない。飛行機なんて、先ず飛ぶための作りが大半だって、新聞にもそう書かれていたし、その状況で飛んだって、何も強い武器なんて、載せられるわけないだろう?」


「バッカお前、飛ぶこと自体に意味が有るんじゃないか」


「そうか?俺は大きな大砲乗せた、大きい船の方が強いと思うな」


「それに、浜綴は、ここでアラカイにとって、大きな発表をするって皆言っていたみたいだけど、それにも期待しているぞ」


「ふーん。ま、イギンダの方が強いけどな!」


少年たちは、まだ見ぬ兵器に心躍らされていた。


同日 太平洋 イギンダ連邦海軍観艦式用派遣艦隊 旗艦 戦艦サウスローリー


「艦長、到着予想時刻まで、あと二時間を切りました」


「このまま進めば間に合うか?」


「ええ、あと一時間半強で着くかと」


「なら、問題無いな。問題は別、だな……」


「内容物と習熟度、ですね」


「浜綴がこちらの動向をどうやったのか、おそらく知られて、戦勝祝いの観艦式をアラカイで行うことになるとは……。こちらの設営隊も飛行機乗りも、十分な習熟度には至っていないというのに……」


「しかも彼らは、空母を持っていて、飛行場を設営する必要が無く、同時に到着しても、飛行機を見せるのは、我々よりも早くできてしまいますね」


「全く、面倒な仕事を押し付けられてしまったものだ」


「同感です」


「燃料はどのくらいだ?」


「まだまだ大丈夫だと思われます」


「急ぐか……各艦に連絡、艦隊最大船速で向かうぞ」


「了解、伝えます」


同日 太平洋 浜綴帝国海軍 観艦式用臨時艦隊 旗艦 空母索冥 飛行甲板


「あ~、暇だ」


そう言ったのは生機である。


「なんです、急に?」


自分もそこそこ暇なので、適当な相槌を打つ。


「俺は基本空で指示を出すだけだから、殆ど仕事が無い。進行表なんて穴が空くほど見て、何も見なくても自分の役割分が何も言わず言えるようになったな」


「そりゃ確かに暇だな」


「もう操縦士じゃないからな」


「……」


「……冗談が過ぎたな」


「いや、元は自分の責任だ」


「……はぁ。しかしお前は、練習とか、進行表の確認とかしなくていいのか?」


「休めと言われているからな。進行表の確認といっても、飛んだ後はお前の指示に従うだけだ。そんなにすることは無いな」


「やっぱり皆、することは少ないか……」


「操艦と整備以外は殆ど動いてないからな。流石に今から酒を飲んでいる奴は居ないが」


「……そろそろか?時間は」


「そうだな、準備しに行かないとな」


着々と、牽制合戦の時刻に迫っていた。


同日正午 ダイヤモンドハーバー


「あれは……!」


島民の一人が海の空を指さした。


「あれが……飛行機なのか?」


エンジン音とプロペラが空気を切る音が聞こえるが、まだ彼らの目には、ぽつぽつと黒点が空に浮かんでいるようにしか見えていない。


しかし暫し、時間が経つと、どれくらいの規模の飛行機がやってくるのかが分かった。


「多い……!」


「なんて数だ……」


「あぁ……神よ……」


彼ら島民は、空飛ぶ機械なんてものは勿論目にしたことは無く、写真でさえ目にしたものは少なかった。


そして今、彼らが目にしたのは、百を超える飛行機が綺麗に編隊飛行をする大部隊であった。


それはそれは衝撃的で、荘厳たるものであった。


「あれが……飛行機……」


一方でその飛行機を驚きと共に、忌々しいものを見る様な目で見る、イギンダ連邦軍の兵士たち。


彼らは以前より駐留していた海軍の兵士たちである。


先にこのようなものを見させられては、根底より見下していた国の人間に、技術力差で格下であると言われているようなものであると感じてしまう。


「派遣艦隊はまだか!?せめて時間に遅れる様なことがあっては……」


自国で飛行機の生産が開始されたことは知っているが、海から飛行機を発信させる能力がないのも、ここまで作っていないのも何となくではあるが分かる。


その苛立ちをまだ来ぬ派遣艦隊にぶつけるのであった。


同所空域 空母所属部隊


「長閑だな……」


操縦士の一人が呟く。


「全くだ。俺の地元は田舎のくせに土地が痩せていて、総動員で獲った野菜も碌に食えずにまるでこの世の地獄ってぇのに、羨ましいことこの上ないな」


その副操縦士が返す。


「それで感謝の印に飛行機を渡すんだってな。その金があるなら、もっとこっちに寄越せってんだ。はぁ~ぁ」


「本当になぁ」


下の軍人に嫉妬と憎しみの目で見られているが、彼らにはそれらは映らず、身のことの心配や理不尽をぼやいていた。


近海 イギンダ連邦海軍観艦式用派遣艦隊 旗艦 戦艦サウスローリー


「……」


艦長は絶句し、他のものも声が出ない。


「……これ程のものとはな」


「……」


艦長が出した声に、他の船員は返す言葉もない。


(多いものとは予想していたが、まるで空を埋め尽くさんばかりだ)


「これは……予備の二機も使えるならば使わねば……」


「そう、ですね……」


しかしその後、その判断は失敗と言う形で終わる。


こちらは三機で行うと宣伝部が大声で伝えていたが、結局一機が使えず、三位一体を表すことも、たった一機で行うことももとからそう宣伝していればそれでよかったものの、二機も不調で飛ばせないということにはさせらない為、中途半端に二機を飛ばした。


イギンダによる飛行観覧式は盛り上がりに欠け、その後の観艦式もその盛り上がり加減を引き継ぎ、イギンダの式全体が盛り上がりを損なうという結果になってしまった。


逆に浜綴の方は、イギンダよりも戦艦や巡洋艦の数で劣るにもかかわらず、艦の多さとさらにその艦の一糸乱れぬ動きによって、島民は盛り上がるのであった。

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