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凪の中の突風  作者: NBCG
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72話 その後の趨勢

明海九年 8月3日 大浜綴帝国 首都万京


ロザノフが撃墜されてから、二か月余りが経ち、煤羅射は有効な航空戦力を投入できず、その代わりに無暗に投入される爆撃機や旧式機では黍風、栃風、突風には対応できず、堕ちるばかりである。


いくら地の利は煤羅射側にあるとは言え、制空権は浜綴に奪われているため、空は偵察機の自由にされ、位置情報は筒抜け、暫く集団で留まっていれば、後には敵爆撃機からの鉄の雨に晒される。


煤羅射軍は遂に、バストーシナヤ・ジミリアからの一時的な撤退を決意する。


一か月弱を掛け、フョードル大帝湾の西側の湾、ドラコン湾の奥地に、迫りくる浜綴軍からの一時退避を行う。


湾内に来れば、多少の船舟もあり、数は少ないが戦艦もある。


小さい湾に持ち込めば、敵は地上からの支援が届かない様な場所に、地上からのろのろ来るよりも、大量に兵を送り込める湾の方を優先し、輸送船舶などをこちらに寄越すだろう。


そして、我々の残存艦隊で敵艦隊を沈め、敵に大打撃を与え、土地奪還のチャンスが生まれる、と言う計算である。


確かに、今までの戦い方からなら、湾には少数の艦隊しか入り込めず、防戦に持ってこいであり、支援が来るまでの時間稼ぎにもなったであろう。


しかし、彼らには大きな誤算があった。


それは、浜綴が多くの戦艦を保持している、ということ。


そして、航空機の戦力が戦艦よりも比重が増した、ということである。


浜綴は、新鋭戦艦水晶型二隻、秋名と護鉢を、旧式ではあるが、千鶴型空母二隻、白鶴と嶺鶴を投入した。


後は駆逐艦がたった二隻のみである。


駆逐艦がたった二隻ではせっかくの戦力である戦艦に、向かう魚雷艇を迎撃できず大損害、であったはずだが、そうとはならず、魚雷艇は航空機群で凌ぎ、駆逐艦はほぼほぼ連絡業務と、対地支援は行っていない。


戦艦による対地対艦砲撃、そして空母から発艦する爆撃機と攻撃機によって、湾と戦艦は大打撃を受け、結果、海軍は太平洋側にあった全ての戦艦を失うという結果を招き、更に、極東本部が壊滅し、浜綴は少なくとも蓮都のみは獲得するために、先の口実として、更に進攻。


結果社会不安が高まり、煤羅射軍が当初撤退完了を予定した「一か月で」、極東本部壊滅と共に、とある事件が起きてしまった。


「煤羅射帝国皇帝、アルノルド三世死去~!理由は暗殺と思われる~!」


街では新聞屋が号外を、大声を上げて配り出している。


煤羅射の時の皇帝、アルノルド三世の暗殺事件である。


人民主義者、ナロードニキによって、暗殺されたのである。


今まで、彼らナロードニキによる暗殺未遂やテロはあったが、今度は手投げ爆弾によってその命を絶たれてしまった。


その後、彼の息子、アルノルド四世を急遽皇帝に据えることになったが、社会不安は改善せず、煤羅射帝国は内外の混乱が広がってしまっていたのであった。


また、飛行機同盟らからの圧力が掛かっており、それにも対応せざるを得ないのであった。


一週間後、浜煤間で休戦協定が結ばれ、その協定締結からおよそ一か月後の9月12日、間に永世中立国である、ヘルヴェティア連邦が入り、遂に終戦となされた。


結論から言うと、浜綴は、今までの土地に加え、佐波鈴全土及び、バストーシナヤ・ジミリア地区を沿海州として手に入れることになった。


圧力を掛けていた飛行機同盟には、浜綴にとっては旧式ながら各国にとっては最新型ともなる、金属の翼を持った航空機、旧式天風を各国12機ずつ譲渡することとなった。


こうして、1年7か月半の浜煤間の戦いは終わった。


浜煤戦争が終結したことにより、雄州では次、戦争が起きた時の為の苛烈な開発競争や戦略考察が始まるのであった。


同年 12月21日 相坂家


戦争自体は終わっても、軍の仕事がなくなる訳ではない。


結局この日まで、ほぼほぼ休日などなく、働き詰めとなっていた。


流石に戦争に関わったものくらいは大規模な休日が与えられるべきだという意見が各所で噴出し、正月以外の年末年始の期間を四分割し、正月は午前、午後、夜間の三分割で仕事が割り当てられた。


自分たち臨時艦隊らは、大規模休日は四分割された二番目であり、正月は午前の仕事が割り当てられている。


そして今日が、大型の休日の最初の日である。


今日から31日までの休みであり、正月の午前働き、午後は休み、そして次の日にはまた働く……と言った感じである。


「只今帰りました~」


仕事の関係から、帰って来たのは朝である。


「あ、おかえりナサイ!」


帰って玄関を開けると、どうやら今から学校へ行くらしいアイナの姿があった。


「今から学校かい?」


「ハイ!」


「そうか、行ってらっしゃい」


「碌なお迎えもデキズ、スミマセン……」


「良いよ。じゃ、気を付けて」


「ハイ、行ってキマス!」


そう言って、笑顔でアイナは登校していった。


(そう言えば……)


あることを思い出し、持ち帰った衣服の洗濯などの家事は女中のハモンドさんに任せ、街へ買い出しへと向かった。


その日の夕方 相坂家


「只今帰りマシタ~」


「ああ、おかえりなさい」


「アレ?Ms.Hammondはどうしたのデスカ?」


「ああ、久しぶりにのんびり家に戻れたから、二人きりになるために、少し早めに帰ってもらったよ」


「そうデスカ……ン?この匂いハ……」


「今日は自分が晩御飯を作ったよ」


「チャントしたお休みは久しぶりだというノニ……申し訳アリマセン」


「謝らなくていいよ、これは自分がしたかったことだからね」


「ハテ……何かありまシタッケ……?」


「別に今日自体は何もなかってけど……。誕生日を祝えなかったし、あとは、冬、落ち込んでいるときに、励みになったから、そのお礼も込めて、と言ったところかな」


「デモ、休みの始めに始めなくテモ……」


「殆ど休みが無かっただけで、たまには家に帰っていたし、艦内でも、休み自体はあったから、戦争していた時と比べると、そこまでは疲れていないから、心配はありがたいけど、そこまでしなくてもいいよ」


「ソウ、デスカ……」


「もう晩御飯は出来たから、ご飯にしようか」


「ハイ!分かりマシタ!ありがとうゴザイマス!」


食卓


「美味しいかい?」


「ハイ、トッテモ美味しいデス!」


「それは良かった」


思わず笑顔が綻ぶ。


以前は年齢差のことや、アイナの国籍のこと、他にも色々と問題のことが頭に浮かんできて、流石に結婚は遠慮する試みをしていたが、今はもう、そのようなことはしない。


ある種根負けした感じもあるが、その気の明るさ、優しさ、容量の良さや器用さなど、彼女の良さがいつの間にか自分の心の支えとなっており、アイナの居ない生活が考えられなくなっている自分がいた。


「そういえばアイナは、軍属の操縦士として一年ほど軍で働いていたけど、勉学の方は大丈夫だったのかい?」


「アー、そのことナンですが、実は留年というコトになってしまいマシタ」


「留年……?」


「ハイ。流石に軍の下で働いていたコトもあって、働いていた一年間の学費の免除はされマシタガ、今のままでは卒業はさせてもらえないらしいデス」


「それは悲しいね」


「仕方がナイデス。合格と言うダケデ、試験費用が免除された分だと考えれば、納得はデキマス。だから、悲しくはナイデス」


「優しいな、アイナは」


「そんなことナイデスヨ~」


優しいと言われたアイナは、謙虚に否定するが、笑顔は隠せないらしい。


「留年か……。それって、今も学校に行っているけど、一学年分はまた別に通うのかい?」


「イエ、軍属として駆り出された人たちは、マタ別の教室で授業を受けてイマス」


「それって、学校側は大丈夫なの?」


「軍に協力した学校と言いうコトで、結構お金を貰ったみたいデ、ソレで大丈夫みたいデス」


「学校も結構欲深いみたいだね……」


なんとも言い表し難い事実だ。


食後且つ風呂後


「おやすみ」


「オヤスミナサイ」


こうして、改めて自分が戦争の後の平和を享受する人間として実感し、眠りに付くのであった。

良ければ是非ともご評価・ご感想を頂ければと思います!

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