71話 決する戦い
明海九年 4月26日 蓮都某所上空 特別戦闘大隊
陽が大きく傾き、風が凪ぎ始め、夕凪が始まる。
3機が入り乱れて互いの背後を取り合う。
二対一であり、且つ機体性能はその二機の方が上。
明らかな不利であるというのに、ロザノフは二機をいなしていた。
(……)
まさに無心の戦い。
「……!」
照準に敵機が映り、引き金を引いた。
風切隊
「こちら相坂、被弾した」
「大丈夫か?」
「問題はない」
先ほどの弾に被弾してしまったが、機体に強い影響が出るほどのものではなかった。
(この劣勢で、当てて来るか……あの一機だけが異常に上手いな。だがそれよりも……)
先ほどの衝撃で、左腕に若干痺れが出てしまった。
指先までは痺れが来ていないので、機関梃に付けられた機銃の引き金が引けないということには今、なってはいないが、いつそうなってもおかしくはない。
どうにかこの戦いが終わるまでは、指先に痺れが来ないことを願う。
特別戦闘大隊
「落とせる程は撃ち込めなかったな……」
最早ロザノフには、目の前の戦い以外、何も映って等いない。
同じ空を飛び、切磋琢磨し合った同じ隊員のことも、最早頭から抜けている。
「次は……」
そして、稈を強く握り締め、好機を伺う。
「イケる!」
稈を引き、引き金に指を掛けた。
風切隊
「グッ!?小川、また被弾した」
「本当に大丈夫か?」
「ああ、ただ、機体の反応が悪い」
「撤退するか?」
「まだ、大丈夫だ……おっと」
『海眼から風切隊二番機へ。機体の安定性が失われているとするなら、即座に撤退が望ましい。離脱用意を』
「ああ、もう少ししたら、な」
「……小川、撤退しろ」
「隊長?」
「後は自分に任せてくれ。風切隊一番機から海眼へ。小川機の先導を頼む」
『海眼了解。相坂、帰って来いよ。これは命令だ』
「了解。勿論だ」
『風切隊二番機、方位、110を取り、帰投せよ』
「……はぁ、分かったよ。回頭、方位110。風切隊二番機小川、帰投する」
こうして、戦況は1対1へと変容した。
特別戦闘大隊
「手応えはあったが落とせなかったか……。まぁいい、これで勝てる!」
ロザノフは一機を撤退に追いやったことにより、勝利を確信した。
「フ……」
口角が思わず引き攣り、そして内心それを制止しようとする自分自身がいた。
「フハハハハハ……」
しかし、両手を操縦機器から離す訳にもいかず、抑えることもできずにそのまま笑ってしまった。
「勝てる、勝てるぞ!」
こうなってしまっては、心の高揚を抑え留める事さえ敵わず、その高揚感を野放しにしてしまうのであった。
そしてロザノフは、再び操縦桿を強く握り締め、戦いに臨んだ。
風切隊
「……」
こちらはロザノフとは逆に、余裕がなくなったのか、全くの無表情で応戦する。
戦闘機突風はPp-3よりも旋回半径が小さく、より早く旋回が出来るが、相坂自身がその遠心力に耐えられるのか、突風をそれほどまで扱えるほど、突風の扱いが習熟しているのかは、また別問題なのであった。
「……」
無言、無表情のまま、機銃の引き金を引く。
「くっ……!」
しかし、左腕の痺れからくる集中力切れと、旋回の遠心力に耐えられず、思わず機体を戻してしまう。
特別戦闘大隊
「やるな……。だが!」
ロザノフは相坂が気を抜き、生じた隙を見逃さず、突風の背後を取ろうとする。
「おら!」
そして、引き金を引く。
「……チッ。当たったが浅いな」
この高度な攻防戦は、敵も自分も熟練であることを改めて実感させてくれる。
自分が熟練であることは自負へと繋がり、敵が熟練であることは、倒せば自分の名誉へと繋がる。
舌打ちはしたが、ロザノフの心は躍っていた。
風切隊
「危なかった……」
横から撃たれたため、対処が遅れ、被弾してしまった。
(そろそろ機体に影響が出始めたな……無理はしたくないが……)
それぞれ円を描くように旋回し合い、睨み合いが続く。
左腕の痺れ、機体の不調、残りの燃料、集中力切れ。
戦線を離脱しようにも、恐らく敵機は自分の機を追跡するだろう。
これらから考え、ここから導き出される答えとは、ただ一つである。
「次、決める……!」
ぽつりと短く独り言。
しかしその言葉には、明確な意思が込められていた。
「……!」
痺れる腕を無理して無視しながらブレーキを掛け、スロットルを落とし、減速し、操縦稈を引く。
するとそれに呼応するように、敵機もこちらに仕掛けて来る。
自分にも機体にも無理を強いる機動で敵機の背後を取ろうとする。
急旋回、急上昇、急降下、急加速、急減速、そして宙返りやきりもみ回転。
「ぐぅぅ……」
これ以上の機動をしたら、機体が空中分解するかもしれない。
意識が遠のき、失神するかもしれない。
しかしここで勝たないと、恐らく全体の戦況に強く影響する、そう自らの感覚が指し示す。
「ぐぅ……ぅ……」
更に無理をして、戦闘機動を行う。
そこで、唐突に無線が開いた。
『相坂、無理していないか?』
司令偵察機青雲、戦術名海眼の機に乗る、生機の声。
「ふぅ……何とかな」
ある程度敵の弾丸に当たらない様に、なるべく背後を取らせない機動を取りながら、機体を無理のない姿勢にする。
『本当に、大丈夫か?』
「あぁ、そろそろ腕にクルものがあるな」
『大丈夫なのか!?』
「そう心配するな。寧ろお前の声で、のめり込み過ぎずに済んだ。有難う」
『そうか……。無理はするなよ』
「ああ、そのつもりだ」
戦いに熱中していた目を覚まし、状況を改めて確認する。
周りの天候、敵機の機動、それらからくる敵機の飛行の癖。
改めて考え、分析し、整理する。
そして再び、戦いを仕掛けに行く。
円弧を描く軌道を、徐々に旋回角を緩めて行く。
すると敵機はこれを隙と見做したのか、自分の機とは逆に、旋回角をきつくしてくる。
そして後方を確認し、敵機が撃ってきそうな角度にいることを確認した。
操縦桿を一度戻し、急上昇する。
するとこの瞬間を逃がさんと、敵機は一度弾丸を撃ち込んでみるが、自機が急上昇したのに合わせ、敵機も急上昇をした。
特別戦闘大隊
突風は急上昇をしても問題なかったが、Pp-3は急上昇をした後、エンジンストールを引き起こした。
「くっ、またか!?だがまだイケる!!!」
ロザノフはストールする機体で、無理をして機体を操ろうとする。
逆さまに落ちる機体を元に戻そうと試みた。
風切隊
「今だ!!!」
敵機が機体を元に戻そうとする隙を逃さず、引き金を引いた。
弾ける爆音。
「ふぅ……終わった……」
思わず、溜息が出てしまった。
『大丈夫か?』
「ああ、終わった。自分の集中力が限界だ。それに、機体の損傷も酷い。帰投したい」
『安心しろ。この状態で更に駆り出すことはしない。帰投せよ。方位110に回頭』
「了解。方位110に回頭。風切隊一番機、これより帰投する」
『お疲れ』
これで、何とか敵精鋭の大部隊の一つの殲滅が完了した。
これからの制圧作戦もより円滑に進むだろう。
(仇討ちに、なったんだろうか……?)
帰る間際に少しだけ、先の戦闘について考えた。
杉隊員を失った日、同じような機体に乗っていたのは、あの風貌の男だったような気がする。
だが、この心残りは、ずっとこの先、一生、解消されることはないのであった。
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