70話 三度目の遭遇
明海九年 4月26日 蓮都港 臨時艦隊停泊地 空母索冥飛行甲板
ある程度の制圧が完了し、蓮都港に橋頭保を築くことが出来た。
そして今は、後方から陸軍が到着するまでの時間稼ぎと、煤羅射軍が投入してくる戦闘機や爆撃機を打ち破ることが目的となっている。
自分たち臨時艦隊は当初、戦線の穴埋めのみを期待されていたため、それ以上の戦果を挙げ、いくつかの作戦が繰り上がった今では、戦力にしても食料にしても、後方支援が若干心許なくなってきている。
しかし物資が未だある現在では出撃することは当たり前であり、場合によっては現地調達も視野に入れ、戦線を維持することが求められている。
臨時艦隊を疎ましく思っていた派閥も、戦果を挙げられてしまっては、反対するよりはその戦果に乗っかった方が良いのだろう。
閑話休題。
兎に角、今日もその一日に過ぎず、自分たち風切隊が敵戦闘機などを撃退、撃墜することに変わりはない。
「風切隊、発艦準備完了!」
「風切隊、発艦を許可!」
「風切隊、発艦開始!」
「風切隊、発艦を確認。覇海隊を発艦位置に移動させろ。海眼隊も発艦準備を始めろ」
「覇海隊、発艦準備位置に移動完了」
「海眼隊、機関始動しました。発艦準備完了まであと15分程度」
彼らは仕事でいつも通り、忙しなく動くのみである。
蓮都上空 風切隊
「今日の初戦は中々に強かったな」
「ああ、後方に配属になった教導部隊の人間や、死なれると士気に関わるような程、戦果を挙げた人間がいるような地域までに進んだみたいだな」
『風切隊、先ほどの部隊が来た方向から、更に不明機が急接近。数は6』
「了解。戦いに備える」
『この距離なら、遠回りして、背後を取ることが可能であると思われる』
「了解した。指示を頼む」
『方位010を取れ。2分後、方位200を取れ』
「了解。方位010、回頭」
「方位010、回頭」
近辺空域 煤羅射陸軍航空部隊 特別戦闘大隊
煤羅射軍はPp-3の有用性を改めて認識し、Pp-3の制式化と共に、戦闘部隊を新たに創設したのである。
そしてその中でも特別戦闘大隊とは、Pp-3の試験飛行を担当していた、ロザノフ率いる試験飛行隊の3機に加え、Pp-3の制式化後、前線で活躍した戦績優秀者3名を加えた、6機からなる戦闘大隊である。
「ロザノフ隊長、先遣部隊、帰って来ませんね」
「ああ、恐らくやられたな。それほどまでに、敵の新型機が強い、という訳だ。気を抜くな」
「了解」
彼らがそこまで大声を出さなくていいのは、通信機器が導入されたわけではなく、声が届きやすいほどまでに近くを飛んでいるからである。
これほどまでに飛行機同士が接近して飛行しているということは、どれほど彼らの練度が高いかを示している。
「しかし隊長、彼らもそこまで遠くを飛んでいたわけではないと思いますが、まだ敵機が見えませんね」
「彼らの目的が、敵機殲滅ではなく別の大きな目標があるのか、若しくは……」
ロザノフがそこまで言うと、何かを感じたのか、急に軌道を変えた。
「各機散開!避けろ!後ろだ!」
「了解!」
「なっ!?」
高練度部隊とは言え、全員が全員急な動作に反応できるとは限らない。
「各機、大丈夫か!?」
「一機落とされました!」
「クソがぁ……!」
同空域 風切隊
「相坂、一機撃墜」
「小川、一機逃した。流石に強くなってきているな」
『これでも敵の数は5機だ。それに防衛戦じゃない。撤退も許可しているが、どうする?』
「隊長、腕の調子は?」
「悪くない」
「なら、続けましょう!」
「分かった。こちら風切隊、海眼へ、戦闘を継続する」
『了解した。但し、無理な戦いはするな。こちらが判断し、諸君らに疲労が感じられたらすぐに撤退命令を出すぞ。いいな?』
「「了解!」」
二人はそのまま、戦闘を続ける。
特別戦闘大隊
「敵はたった二機だぞ!?何をやっている!」
「更に一機やられました!」
「一体……どうなっている……」
「ヴァギト!タラス!俺たちがこいつらの足止めをする!お前らは遠くから敵機を狙え!」
「「了解」」
こうして二機は一度戦線から離れる。
風切隊
『海眼から風切隊へ。二機、戦線から離れようとしている。何かを仕掛けて来るかも知れない。気を付けろ』
「了解した」
「了解!……小川、敵機に弾丸を命中させるも、撃墜には至らない模様!」
「敵機の練度が高い……。さっきのように、背後から即座にやらない限り、そう簡単には落ちてはくれないな」
「背後は簡単に取れるけど、すぐに逃げられるな、確かに。練度が本当に高いな」
『離れていた二機、風切各機に急速に接近!気を付けろ!』
「「了解」」
その言葉を放ち、二機ともひらりと華麗に敵二機の攻撃を躱した。
特別戦闘大隊
「急速に接近したのに躱された!?」
「確かに敵に周辺に居るとは知られてはいたが、戦っている最中で、しかも死角から攻めたのに……強いな」
「ヴァギト、タラス、もう一度だ!恐らく三度目は通用しない!直ぐにやれ!」
隊長のロザノフが、怒声をあげて指示した。
「「了解」」
そして先ほどの二機は、再び戦線から離れた。
(僚機のイーゴルはさっき、被弾していたな……。二人が来るまで耐えてくれよ……!)
ロザノフはただ、願うのであった。
風切隊
『二機が再び戦線を離脱した。注意しろ』
「分かっている」
「了解」
戦闘中である為、二人とも少しいらつきながら答えた。
『先ほどの二機が急速接近!注意!注意!』
「またか……」
「しつこい!」
再び風切の二機は躱し、攻めてきた二機の背後を取った。
「相坂、一機撃墜!」
「小川、更に一機撃墜!」
『敵は、残り二機。数的戦力は同数だが、最後まで気を緩めるな』
「「了解!」」
苛烈な戦いは続く。
特別戦闘大隊
「ロザノフ!」
「分かっている!」
ロザノフの心は揺れる。
目に見える新型機は、確かに強いとは聞いてはいたが、これ程までとは思わなかった。
飛行機などいくら強くても、二機で六機を覆すようなことは異常だ。
(……!そういうことか……)
ここでロザノフは気づく。
敵は熟練であると。
流石に新人ではないとは思っていたが、これに乗っている二人は明らかに精鋭だ、と。
「……面白い」
恐らくこちらより上の性能の機体に、操る者は熟練。
普通の神経を持った者ならこの状況に恐怖を感じるだろう。
いや、ロザノフにも、恐怖自体は感じてはいるはずである。
しかしそれ以上に、強い敵を倒せるという楽しみに、思わず口から漏らすことを止めることが出来なかった。
「……相手にとって不足なし」
そう言うと、ブレーキを掛けながら、めいっぱいに稈を引いた。
「……ぐ」
その遠心力に体を押さえつけられながら、敵の背後を無理矢理にでも取る。
「……」
ただ何も言わず、引き金を引いた。
風切隊
ガンガンガンッ!
機体を激しく撃ちつける音。
「こちら小川、被弾した」
「『大丈夫か!?』」
自分と生機の声が重なった。
「大丈夫だ、まだ飛べる。心配ご無用!」
「機体に支障が出たと思えばすぐに撤退だ」
『今日の戦果は十分なものだ。すぐに撤退しても構わないということをしかと胸に刻んでおいてくれ』
自分も生機も、もう二度と仲間を失いたくはない。
その心が共鳴しているのだろう。
「ああ、分かった」
だが小川は、前の戦いでは、最初に戦線を離脱したため、仲間を失うという実感が、自分たちよりも薄いのだろう。
正に余裕綽々と言った感じだろう。
こちらの心配も余所に、戦いを続けた。
「小川、更に一機撃墜!」
戦果は挙げているため、その場では厳しくしかることも憚られた。
特別戦闘大隊
気付けば、ロザノフは一人になっていた。
始めは六機であったはずだ。
いや、先遣隊も入れれば、計九機である。
それが、今や一機。
最早理解することさえしようとは思わない程、追い詰められている。
二対一、敵は機体も操縦士も強い。
だが、ロザノフには引けない理由があった。
一つ目は、ロザノフは、浜綴と言う国を見下していたこと。
ロザノフは昔ながらの考えを持つ人間でもあり、列強のメラシアの国民が、辺境国家の浜綴の人間に負けることなど許されないと考えていたということである。
二つ目は、敵が強いということ。
飛行機乗りとして、敵が強ければ強いほど、それらに勝てば、自分がより強い存在として誇れるからだ。
仲間を5人も落とした二機を倒せば、さらに自分は強いということにもなるだろう。
三つ目は、敵機に以前落としたであろう人間がいたということである。
自分が落としたと思っていた、それも生存が難しいと思われる状態の中で落としたのであるのだから、その人間が目の前にいることは気持ちの悪いと感じられたのであろう。
ロザノフはこの三つの理由から、退こうとは思わないのであった。
因みに仲間とはそれほど仲良くはなかったため、仲間の為、と言う理由は無い。
寧ろ、彼にとって隊の人間とは、邪魔者たちでしかなかった。
そのような背景の中、風切隊にとって、そして特別戦闘大隊にとっても重要な、“最後の”戦いが、佳境となるのであった。
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