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凪の中の突風  作者: NBCG
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60話 佐波鈴島での休み

明海八年 12月18日 佐波鈴島 安庭あにわ湾 安庭海軍臨時基地


「はぁ~……寒っ」


以前よりは若干南で、温かいはずであるが、やはり、寒いものは寒い。


ここ、佐波鈴島、安庭は、佐波鈴島最南端であり、北海島と佐波鈴島を隔てる吾篇沙海峡の北側にある半島、野戸呂のとろ半島と、その東側の半島、安庭半島を外縁とした湾、安庭湾周辺一帯を指す地域の名称である。


そしてこの湾は、佐波鈴島で二番目に大きい湾である。


因みに一番大きい湾は佐波鈴島の中部、東側の北知床半島が湾曲した部分の湾であり、鱈烏賊タライカ湾と呼ばれている。


閑話休題。


その湾に、海軍は基地を作り、そして自分は今、その基地で一時の休みを得ている。


休みが多いと言われるかもしれないが、最近はこの寒い土地の中、更に寒い上空を暫くばかり飛んでいたので、これくらいの休みは貰ってもいいだろう。


それに、演習を欠かしている訳ではない。


北部を治めることになった陸軍には悪いが、それより少しだけ温かいここで、ぬくぬくと戦力の充填をさせてもらおう。


それにここも寒いことに変わりはないし、物資も必要最低限のものしかないのも同じだ。


まあ、取り敢えず、またの出撃が掛かる前に、久々の陸を楽しむとするか。


……と言っても、やはりなにも無いのだが。


しかし、揺れない足場は何よりも懐かしいものだな。


今、自分は周辺を歩き回っているが、やはりなにも無いため、もう係留してある飛鶴に戻ることにする。


空母飛鶴 休憩室


「おう、お帰り」


帰ると、小川が本土から届く手紙を読んでいた。


「これと……、これ、この二つがお前宛てだ」


すると、机にのっていた二つの封筒を渡してくる。


「おう、有難う」


「へいどうも」


どうやら自分が港で気を抜いて歩いているときに、輸送船から物資や手紙などが届いたようである。


見ると、一通は家族から、もう一通はアイナからであった。


最近は北へ南へ、移動が激しかったため、必要最低限の物資や資料以外はこの船に届けられることは無いに等しかった。


まずは家族からの手紙を見てみる。


……。


まあ、体に気を付けろだの、少しは便りを寄越せだの、そういったことが書かれていた。


前線に出ている兵士に出される家族からの手紙としては普通だろう。


言っちゃあなんだが、自分たちはそこそこ精鋭であり、自分たちがどこにいるかすら、家族には伝えられない。


それも家族は薄々感づいているようではあるが、やはり不安なものは不安なのだろう。


「……ん?」


そして、どうやら弟が来年、軍に入隊する予定らしい。


長兄、良太郎、次女(女だけで数えるなら長姉)、かず江、次男で自分、慎太郎、そして末っ子の賢太郎。


賢太郎は9歳年下で、自分が飛行機乗りと知ったとたん、勉強を真面目に始め、飛行機乗りになると言い出したらしい。


そして、勉強や自主的な体力づくりでどうやら軍に入れそうな感じらしい。


賢太郎が高等小学校に通えたのは、ひとえに実家の畑が豊作でまともに売れるほど作物があったこと、そして自分が軍に入り、下士官になり、一部実家に仕送りしていたことが理由らしい。


手紙にはそれを感謝する旨が書かれてあった。


末っ子で、少々甘えん坊の気があった、あの賢太郎が感謝している文章を書いていることに、思わず時の流れを感じる。


そして実家についてはそう変わりはない事、姉も嫁ぎ先で上手くやっているらしいことが書かれていた。


最後に、弟が軍に入るので、来年からは仕送りは少なくして良いとのことで手紙が締められていた。


「ふぅ……」


溜息が出る。


それには二つの理由がある。


一つは久々に家族からの手紙に感慨が体を通り抜けたこと。


そしてもう一つは、これから見る、アイナからの手紙に何が書いてあるのか多少の心配があるからである。


「まあ、開くしかないよな……」


独り言を言うことで、自らを無理矢理納得させた。


「……」


封を開け、手紙を見る。


そこには、浜綴語で、それも綺麗な字で、近況などが書かれていた。


「……えぇ……」


思わず驚きの声が出た。


その内容とは、まず、戦争になる前に言っていた、飛行機関係の試験に、整備士以外全て受かったことが書かれていた。


流石に全て受かることはなかったらしいが、それでも一介の女学生が得る資格にしては、難易度が高い上に大量の資格であった。


次に驚いたのは、軍属として今、輸送機の操縦に従事している、ということだ。


あの高等女学校は何をさせているのか……とも思うのだが、今現在操縦士や航空関係の資格を持った者そのものが少ないため、それが女学生だろうが外国人だろうが、使えるものは何だって使う姿勢なのだろう。主に政府が。


女学校も女学校で、前線に出す訳でもなく、学校の名前を広められるので、乗らないこともないらしい。


航空関係の資格を持った者は軍属として全員軍に徴集されているらしい。


アイナ曰く、高須賀高等女学校内で航空関係の資格を持った者はアイナ含め20名で、同学年のものは9人らしい。


そして、資格を持った者の中でも操縦士の資格を持っているのは4人らしい。


全校生徒が300人程度でその数の航空関係の資格を持った者がいるとは、本当に高須賀高等女学校は凄いな、いろいろな意味で。


他、戦争が始まるまでの女学校での生活や、アイナの父、エリック准将の近況についてなどが書かれていた。


……あとはアイナがどれほど自分のことが好きか、など。


「はぁ……取り敢えず、返信書かないとなぁ……」


「隊長は誰からです?」


小川が再び話しかけてきた。


「ああ、実家とアイナからだ。そっちは?」


「俺は実家からだけだな。婚約者も妻もいないし。それにしても、隊長、婚約者からとは、中々オアツイですな」


「オアツイって……相手はほぼ一回りも年下だぞ?それに、そんなに一緒にいる訳でもないし」


「とはいえ隊長も、最近は満更でもなさそうな感じに見えましたが」


「どこをどう見ればそうなるんだ。そもそも最近は船の上だったって言うのに」


「船に乗る前は、口を開けばアイナ、アイナ、って」


「そこまで言っていたか?言っていたとしても、飯がマズいとか、暮らしで困ったことがあるとか、その程度だったと思うが……」


「それだよそれ」


「どれだ?」


「確かに最初の方はかなり難しい顔して愚痴を溢していたけど、戦争が始まる前あたりにはそこそこの笑顔で喋っていたぞ」


「そこまで笑顔だったか?」


「だから“そこそこ”って言ったんだろ?確かにそこまで笑顔ではないけど、話終わりとか、話す直前とかに変な薄ら笑いを浮かべていたぞ」


「変な薄ら笑いって……」


「まあ、良く言えば微笑んでた?感じだな」


「別に薄ら笑いを浮かべても、微笑んでも居ないつもりだったんだが」


「お前が気づいていないだけで、割とそんな感じだぞ」


「そうか?」


話をしていると、生機大尉が外から休憩室に入って来た。


「あー、生機さん、これ、本土からの手紙です」


「おお、感謝する、小川大尉」


「ところで生機さん、今話してたことなんですけど」


「なんだ?」


「隊長がアイナちゃんの話を戦争になる前は、かなりしていましたよね?」


「ん~~、どちらかと言えばそうだな。確かに」


「で、その時、特に戦s脳になる直前の時なんかは、隊長、愚痴を言いながらも微笑んでいましたよね?」


「微笑んで……?あー、あの変な薄ら笑い?」


「生機大尉、あなたもですか……」


「あーいや、すまん。でもあれはどちらかと言うと微笑んでいるというよりは薄ら笑いが近いような気が……まあ、微笑んでいたな、微笑んでいた」


「別にそこまで言うなら訂正しなくても良いですよ……」


「だから隊長、兎にも角にも、アイナちゃんのことを話すときはそこそこ笑ってはいたんですって。ね、生機さん?」


「それについては確かだ」


「そこまでか……?」


「何なら杉さんにも聞きますか?」


「いや、良い。分かったよ、取り敢えず。そういうことにしておく」


これ以上聞いても、程度の微妙な回答が聞こえて来るだけだと思ったため、否定しておく。


「まあ、それは置いておいて、相坂隊長、外は何かありましたか?」


話を変えたいのを察してくれたのかそうでないのか、生機大尉が話を変えてくれた。


「いや、何も無かったな」


「何も?」


「公衆便所程度しかないな、今のところ」


「まあこの島は元々煤羅射から見ても辺境も辺境、極東煤羅射も蓮都以外は何も発展していないと言っても過言ではないですからね。施設を再利用しようにも、そもそも施設が無かったらしいですし。それにしても、公衆便所以外ないって、よっぽどじゃないですか?この地域自体はもう半年以上も前に占領は完了していたんでしたよね?」


「そうだが、忙しかったしなあ、海軍自体。そして陸軍も激戦だったみたいだし、何かあれば一式の設備の整った輸送船だの何だのの方が良かったのかもな。それにそこそこの広さがあるこの佐波鈴とは言え、激戦地に民間人を入れて店を作るっていうのも難しかったんじゃないか?寒さも北海島よりも厳しいこともあるし。やっぱり何もないし。ここじゃあ寒冷に強い作物を育てるか、林業、漁業以外はまともに稼げないだろうし」


「あぁ、確かにそれはそうだな」


ここで小川も話に入って来る。


「漁業も余りに寒くてそうしたくは無いだろうし、それに本土や北海島でも充分できるだろうし。軍人以外が居ないから人に向けた商売も碌に出来ないだろうし」


「人がいないから人が来ない……中々な問題だな」


「ま、政府が支援しなければこんな土地に来るような馬鹿もそうそういないだろうよ。それか余程の暑がりか、村八分を食らったヤツらくらいしか」


小川の言い方は酷いが、確かにそれくらいしかここに来たいと言う奴らも居ないだろうな。


まあ、これは政治家が考える話か。


考えても仕方のないことは考えないに限る。


さて、佐波鈴の状況が支給などを含めてある程度安定したら、また戦場だ。


もう少し、体を休めないとな。

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