56話 膠着の佐波鈴戦線
明海八年 9月29日 流先港 航行艦隊 飛鶴 第一会議室
「さて……皆、揃っているな?」
司令の声に、皆が注目する。
「ならいい……。今回君たちに集まってもらったのは、戦線が変わるということを伝える為だ。最近の我々の任務は、基本的に偵察程度のことしかしていない。まあ、蓮都港を攻略するためには我々が必要なことは分かるが、殆ど何もしないでいるというのも、他に任務があるところの分配した方が良いのではないか、という話だ。そして我々は、最近の冷え込みから、佐波鈴戦線が膠着状態であるという報告を受け、我ら航行艦隊は佐波鈴戦線への支援を行うことに決定した。佐波鈴戦線の支援は外洋側、つまり大津久海側と祟或海峡側のどちらかで行うことが既に決定されており、外洋側に於いては緒穂湊所属艦隊の一部が支援を行っている。あまり数の多くない緒穂湊の艦隊が外洋側から支援を行っているのは、海峡側の戦闘は佐波鈴島と大陸からの攻撃を受け、大打撃を受けると判断したからだ。そして我々は……その祟或海峡側から支援することが決定した」
その言葉に会議室がどよめいた。
「静かに。確かに諸君らの驚きは分かるが、取り敢えずは話を聞いてくれ」
司令が毎度のことながら、一呼吸を置いて場の空気を切り替える。
「そして、だ。我々は恐らく激戦地になるだろうと予想される佐波鈴地域へ、蓮都地域に対する本格的な進攻準備を陸軍が完了させるまで支援を行うこととなった。恐らく、陸軍が進攻準備を整えるまでには2か月から3か月程度掛かると思われる。出来れば我々はそのうちに、佐波鈴島を完全攻略しておきたいとの上層部の考えだ。激戦地であり、さらに拠点にもなるであろう土地を制圧すれば、我々の名誉も手当も多大なものとなるだろう」
その「名誉」と「手当」という語に、思わず感嘆の声で会議室が満たされる。
「現金な……まぁいい。本日正午より航行艦隊はここから出発し、およそ一週間弱で佐波鈴島に到着、戦闘を開始することになるだろう。それまでに、英気を養い、万全の体制にしておけ。佐波鈴島は以前と同様に寒くなると考えられる。途中で緒穂湊に寄港するが、その時に必要な防寒具などなどを整えておくように。最後に……名誉と手当が欲しければ、次の戦地にて、功績と敵の土地を己が力で手に入れろ。私からは以上だ」
この言葉で遂に会議室は沸き立ち、部屋は若干の混乱に見舞われるのであった。
同年 10月3日 浜綴海 北海島西部付近 航行艦隊 空母飛鶴 休憩室
「ふぅ……寒かった」
「お疲れ相坂、お前は何買ったんだ?」
「自分は……毛布2枚と私用の衣類一式を四日分。それに、征煤丸を12箱だな。小川は?」
「俺は……毛布を3枚、敷布団と掛け布団を一枚ずつ、衣類一式を同じく四日分、征煤丸を24箱だな」
「征煤丸、買い過ぎだろ……」
「生憎俺はあんまり腹が強くないんでね。それにお前も12箱も買っているんじゃ、五十歩百歩だろうが」
「そうか?」
「そうだよ。あとは……釣り具を二式。片方が本命で、もう片方が予備だな」
「釣りでもするのか?」
「航海が長くなると、多少なりとも食料に不安が出てきたときがあるだろ?その時に飯を少しでも得られるようにってな」
「そういえば、いつしか甲板で釣りみたいなことをしてたな」
「あれも釣りだよ。釣り竿は無かったけどな」
「はぁ……まぁ今度、飯に不安が出てきたら釣り方を教えてくれ」
「教えるって言っても、エサ無しのお粗末なモノになるから、よっぽどのことなんざ教えられないと思うがな」
「でも釣れる人間が少しでも多い方が良くないか?」
「まぁ、確かに」
そんな話をしながらも、艦隊は進む。
同月 6日 祟或海峡 航行艦隊 空母飛鶴
「風切隊一番機、発艦準備完了。いつでも出せます」
「了解。こちら風切隊、出撃する!」
「風切隊一番機、発艦開始、二番機、発艦準備確認」
「次も用意させておけよ。二番機発艦開始!……はい、次、用意!」
この日遂に、祟或海峡からの佐波鈴島戦線支援が開始された。
任務は、主として、一つは帝国陸軍と交戦している煤羅射の前線基地や前線の重要施設を破壊し、煤羅射が前進しにくくし、そしてもう一つ、更に後方の基地・施設を破壊し煤羅射帝国陸軍の継戦能力を失わせることである。
そして自分たち風切隊は、それを行う爆撃部隊を護衛する任務に就いている。
佐波鈴 北緯50度付近 西海岸近く 煤羅射陸軍臨時基地
「くそぅ……戦線が膠着しているな……」
一人の煤羅射の兵士が愚痴を吐く。
「そうだな。でも、東側よりはマシだろうよ」
もう一人の兵士が会話を紡いだ。
「東側は敵の海軍も相手にしなきゃならんらしいからな」
「こっちの相手は陸軍だけ。それに俺ら支援部隊は後方にいるだけだからな」
「しかも補給が来てそれを片付ける仕事が無い限りは外で震えることもなく、一日の大体を部屋の中で過ごせるからな」
「文句は言えんよな。徴兵された兵たちには特に」
「まぁ、俺たちも徴兵で来たけどな」
「はぁ……葉巻を一服でも……ん?」
「どうした?」
「何か音が……」
「音?」
「こう……低めの……何の音だ?」
「なんだろう……俺には聞こえないから分からんぞ。どこからだ?」
「上の方……空か?」
「空?変な鳥でもいるのか?」
「いや……」
「んー……望遠鏡はっと……何々……」
そうして、一人の兵士は望遠鏡を覗き込んだ。
「あれは……!?」
「なんだ!?どうした!?」
「変な大きなものがこちらへ飛んできている!あれが『飛行機』とやらなのか!?」
「飛行機!?それは友軍のものか!?」
「いや、流石に遠くて分からない……だが、何の連絡もなく結構な量の飛行機が飛んできたとなると……」
「敵……か?」
「まさか!?上層部は、敵はこんなところまでには来ないとか言ってなかったか!?」
「取り敢えず、あれが友軍か敵かは分からない。上官に連絡に行くぞ!準備しろ!」
「分かった!」
同地区上空 大浜綴海軍航空隊 第二〇一任務部隊 戦闘爆撃混成部隊
第二〇七爆撃大隊 戦拓隊
「こちら戦拓隊一番機。敵基地と思われる施設を確認。爆撃の準備を行え」
「戦拓二、了解」
「戦拓三、了解した」
「こちら戦拓隊四番機、既に爆撃準備は完了している」
「戦拓隊より護衛の風切隊へ。これより敵の支配下地域へ突入する。警戒を」
『こちら風切隊。了解した。敵対空兵装、及び敵戦闘機を発見次第、破壊若しくは撃墜、撃退を行う』
「頼もしい限りだ。よろしく頼む」
「観測手から投下手へ。もうすぐ投下地点に到達する。爆撃準備を」
「こちら投下手、了解。爆弾倉を開放する」
「爆弾投下地点まで……5、4、3、2、投下、今!」
「現在爆弾投下中」
「現在爆撃の効果を観測中。……敵施設への爆弾の命中を確認。しかし命中していない施設も存在する。反転して、再度の爆撃が必要であると感じられる」
「こちち操縦士、了解。反転時に爆弾が残っていれば再度爆撃を行う。この地点の進路上に爆撃を行うべき施設は確認できない。次の爆撃地点へ向かう。……こちら戦拓隊。作戦全機、これより次の爆撃地点へ向かう」
「「「了解」」」
同地区 煤羅射陸軍臨時基地
「はぁ……はぁ……はぁ……おい……生きてるか……?」
「あぁ……なんとかな。しっかし、なんて攻撃だ……司令部は残ってるか?」
「……くそっ!司令部も攻撃されてやがる!」
「どこに連絡したらいいんだ?」
「……さぁ?まぁ取り敢えず、さっきまで居た休憩所は攻撃されて無いみたいだから、何かあったらあそこに戻ればいいか……」
「あいつら、海から見て奥の箇所の基地とかに向かって行ったよな……」
「ということは、奥の基地に行くよりは、前線かさらに後ろの基地に行く方が良いのか?」
「だろうな。取り敢えず、海の向こうから来たとなれば、奴らは海の向こうに帰るはずだ。また来て攻撃されない様に、とっととここを離れるぞ」
「分かった」
運よく生き延びた数人の兵士たちの中のある者達は前線の基地へ、またある者達は後方の基地へと向かうのであった。
佐波鈴某所上空 大浜綴海軍航空隊 第二〇一任務部隊 戦闘爆撃混成部隊
第二〇七爆撃大隊 戦拓隊
「帰り燃料のことを考えておくと、もうそろそろか」
「はい。もうしばらくは敵施設が見つかりそうにありませんね」
「帰投する。針路260、回頭!」
「「「了解!」」」
「ふぅ……さて、本日最後の一仕事と行きますか」
……。
「最も海岸線の近い煤羅射の基地までおよそ一分で到着、爆撃地点に到達します」
「了解。……混成部隊全機へ、あと一分で爆撃地点に到達する。今日最後の爆撃。出し惜しみは無しだ。全てを投下して帰るぞ。戦拓隊全機、投下準備」
「「「了解」」」
『こちら風切。こちらの燃料に不安がある。できる限り早めの任務完遂を望む』
「こちら戦拓、了解。聞いたな、とっとと仕事を片すぞ」
「「「了解しました」」」
「行くぞ……投下地点まであと30秒」
「投下地点までの残り時間修正、残り20秒です」
「了解。……投下までの時間修正、残り15秒。……10秒前、8、7、6、5秒前、3、2、投下、今!」
「戦拓二、爆撃開始」
「戦拓三、投下」
「戦拓四、只今爆弾を投下中」
「爆撃効果観測……爆撃効果を確認した。しかし、一部壊し残しは有ります」
「了解した。その事項も報告の中に入れておく。……はぁ……、混成部隊全機、帰投する。……戦拓隊より風切へ。燃料が心許ないんだったな?」
『こちら風切、そうだ』
「着艦はそちらから優先させる」
『了解した。心遣いに感謝する』
「どういたしまして。これで、一段落付けるな……」
「隊長、帰るまでが任務ですよ」
「理解している。態々言わんでも良い」
「はいはい」
彼ら航行艦隊とその航空部隊が現れたことにより、佐波鈴戦線が膠着状態から徐々に解き放たれて行くのであった。
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