55話 新型機の行方
明海八年 9月9日 流先港 空母飛鶴 飛行甲板
「短い休みだったな」
「戦場で休みなんかがある方が変だったんだ。十分だ」
「それもそうか。それにこんな任務だしなぁ……」
遂にこの日、再び自分たち飛行機乗り達が戦闘に投入される時が来た。
この暫くの休みの間に陸海軍合同の、揚陸戦部隊を送り込み、流津・流先港を制圧。
さらに、流津―流先間及びその周辺も制圧し、陸上輸送路の確保や航空基地の設営が完了した。
流先からは陸軍が主だって進軍をするが、海軍も海沿いから支援をすることになっている。
主に陸軍は歩兵による進軍と、機関銃を使う機関銃士を中心とした陣地構築、要塞の奪取、または構築・設営を行う。
陸軍航空隊は空からの偵察、制空、支援爆撃を担う。
そして海軍は煤羅射の港を制圧しつつ、旧式戦艦による対地支援砲撃を行う。
海軍航空隊の我々は主に偵察や航空輸送とその護衛のみであり、爆撃は行わない。
これは、前線は混乱している中で、同じ陸軍内部でも航空隊との連携に集中力を多く割いているが、それに海軍航空隊との連携を可能とするだけの余力は見られない為である。
で、あるため、今から自分たちが行うのは偵察機の護衛である。
先の偵察機行方不明に不安を募らせた海軍上層部は、全ての偵察機に護衛を付かせることとした。
今現在飛んでいる、敵、煤羅射の飛行機はこちらの戦闘機はおろか、偵察機、ひいては機銃付きの爆撃機でさえ邀撃できるほどの性能差が存在する。
しかしそれでも大浜綴帝国海軍上層部が偵察機に護衛を付けたのは、もしも偵察機が墜落するようなことがあったときの為、そして、偵察機が鹵獲されたとして、煤羅射の飛行機の戦闘力が大幅に向上していたとするとき、更に偵察機が敵の地で落ちる可能性が上がってしまうためであった。
そして今から、その偵察機の護衛任務に就く。
正直言って敵は先の戦闘で撃滅し、恐らく運用し始めで練度が少なかったとはいえ、激戦地に送り込まれた部隊がそうなってしまっては、士気は最低になり、開発にも資金の分配率が低下するだろう。
だからと言って、それが表になって飛行機の開発力が減衰するのは少し先の話だろう。
こちらの軍も、この戦争中に航法補助装置などが付いた新型輸送機夏空が開発され、自分たちが休んでいる間に制式化されたのだ。
敵だって開発している訳だから、技術も少しは進歩するだろう。
そしてそれがこちらの新型偵察機の技術が盛り込まれた戦闘機であった場合、かなり拙い。
そして、その戦闘機とこちらの飛行機が遭遇した場合、今までの一方的な戦いが止まり、泥沼の戦いとなるだろう。
そして広大な土地を持つ煤羅射で戦線が一時的に止まるということは、敵に兵力を増幅させられる期間を作ってしまうということでもある。
こちらの数少ない極端な優位性を保持する航空機でその優位性を失うことは避けたい。
煤羅射の海軍は全体として壊滅したため、海軍力の優位性をこれ以上活かすこともないだろう。
陸軍の力と、そしてこれから寒くなり、その寒さに耐えられる力は浜綴を高く上回っている。
ここでの更なる飛行機の優位性の低下は避けたいのである。
「ふぅ~……準備は出来たか……出るか」
「もう偵察機はとっくに出たからな。いくら追い付けるとは言え、これ以上離されるわけには行かん。早よ行け」
倉田が急かす。
それもそうだな。
こうして第二〇一偵察飛行中隊、海鷹隊を追い、第二〇五戦闘飛行中隊、風切隊が追った。
極東煤羅射某所 上空
「ふぁ~……眠ぃ……」
「小川、それは分かるが今は任務中だ。私語は慎め」
「へいへい」
初日の今日は運が良かったのかどうなのか、接敵することは無かった。
自分もそうかもしれないが、皆、浮足立っているな。
今日はアイナの誕生日ということもあり、送った手紙がしっかりと届いたか多少の不安で任務に集中し切れていないと感じたのである。
強引な縁で婚約者となったが、それなりに自分もアイナを意識し始めているらしい。
他の皆も、今までの戦績と、久しぶりの戦場ということもあってか、気が抜けているな。
どうにかしなければならないな。
同月13日 極東煤羅射
今日もいつものように、偵察機の護衛任務である。
基本的に航法は、偵察機に付いて行くのみであるので、技能の精度が落ちてしまうかもしれないな。
しばらくしたら航法の訓練もしないと。
そんなことを考えていると、偵察機からの入電だ。
『海鷹隊隊長より全機。前方、一時の方向に複数の不明機。注意せよ』
「こちら風切隊隊長。撤退はしなくて良いか?」
『あともう少しで丁度良いところなんだ。あと2分……1分だけ我儘を聞いてくれ』
「……分かった。但し、敵が敵性のものであると判明した場合は即時に撤退だ」
『了解。引き続き、護衛に感謝する』
まぁ、不明機とは言え、偵察機の電探に引っ掛かったのみ。
こちらに向かってきているかどうかは分からない。
まだ最上の警戒を敷かなくてもいいだろう。
『こちら海鷹隊隊長!不明機を目視にて確認!計6機!形状から、煤羅射の新型飛行機と思われる!』
考えた傍からこれか。
しかし、これで風切隊の皆の気持ちが引き締まることだろう。
決して悪い時期という訳でもないようだ。
ここで勝って、兜の緒を締めよう。
と、その前に。
「こちら風切隊。即座に撤退を!殿は我々が務める!」
これは言っておかなければな。
『了解した。海鷹隊、直ちに離脱する!』
海鷹隊の機は反転し、自分たち風切隊はそのままの針路を保つ。
『機体に弾が当たった!敵の銃も改良されているのか……?』
そして叫びと疑問の聞こえる無線。
「大丈夫か!?」
『大丈夫だ……。早く追っ払ってくれ!』
「「「「了解!」」」」
「風切隊、6機の不明機を全て敵機と判断、交戦開始!」
こうして、敵の新型機との戦いだ。
敵機は、天風の模倣型よりも純粋にその能力が向上していると言えるだろう。
「こちら生機、一機撃墜」
「……杉、一機撃墜」
「こちら小川!一機撃墜!」
しかし、それはこの黍風の足元にも及ぶような改良とは言えなかった。
「相坂、一機撃墜」
そして自らも一機を屠った。
敵機の残りは2機である。
敵の飛行機は全ての性能、それは機動力、速度、搭載銃の威力も向上している。
しかしそれでも、この黍風に追い付かないのは、先の煤羅射の飛行機が初期型の天風の劣化版くらいの性能としたならば、今戦っているこの機は、天風改より少し強いか、といった程度である。
少し強い、というのは、機体の性能がほぼ同じでありながら、搭載銃が恐らく陣地構築に敷くのであろうガトリング砲、いや、ガトリング銃を搭載しているため、連射が可能となっており、威力も天風改のものより、そしてひいてはこの黍風以上の威力を誇る為であろう。
「相坂、更に一機撃墜」
しかし機体の性能が足りない。
圧倒的とも言える差であった。
「生機、最後の一機を撃墜」
戦闘があっけなく終わった。
敵の新型はある意味こちらの期待を下回り、がっかりさせられたのである。
「……敵勢力の全ての排除を確認。先に行った海鷹隊を追って帰るぞ」
「「「……了解」」」
大国とは言え、これが飛行機に着手し始めたような国家の限界。
そう思ってしまったことが、後々の後悔を生み出すのであった。
同月17日 煤羅射 某所
「ポポフ局長!新型機が行方不明になったようです!」
「そこまで声を張り上げなくても分かっている。Pp-2では今の彼らの主力の飛行機の能力に到底太刀打ちできるものではないからな」
ここの長である技師ポポフが局長と呼ばれているのは、Pp-1の開発成功により、航空設計局の設立がなされたためである。
「は、はぁ……で、でもなぜ、予想通りならPp-3の開発に先に着手しなかったのですか?」
「それはだな……この研究所の将来の為の力……だ」
「将来の為の力?」
「そうだ」
「それは、どういう……?」
「我々が我々の力を以って飛行機を作らず、敵の飛行機の鹵獲と分析だけで作るというのはいつしか自分たちが敵の力頼みになってしまい、向上心が無くなってしまう可能性があるからな」
「しかし、Pp-2が敵に全て落とされたともなれば、国が黙っていないのでは?」
「だろうな。そこをどうするか……Pp-3の進捗は今どうなっている?」
「全体計画の四分の一も進んでいません。なにせ計画が始まったのが丁度10日前、エンジンはPp-2のものを初期生産型として流用するとしても、流石に全ての解析も済んでいませんし、形を流用すれば鹵獲機をそのまま使ったことが分かってしまうでしょう。どうにか形を変える事さえできれば……」
「Pp-1からPp-2にしたように、翼の平面形を変えれば良いんじゃないか?」
「それも考えましたが、それでちゃんと飛ぶのか……それに、飛行特性を調べるにも、今の我々には量産を見据えた上での試験機を作る予算は有りませんよ」
「だなぁ……発注された分の納入金も、負債の返済に殆ど使ってしまったし……」
「取り敢えず、設計した機体形状で飛ぶのかくらいが分かる試験機が作るところまではなんとかしますが、そこからの資金集めは後から考えるとしますか」
「やはり、研究を続けるしかないよな……」
「局長、資金集めには局長も出て貰いますからね?」
「交渉は苦手なんだが……」
「ここに交渉が得意な人間なんかいませんよ。だから局の頭の局長が出るしかないと思いますが」
「はぁ……それしか無い様だな……」
「ある程度予算が増えて、大きくなったら交渉用の人員でも雇ったらいいと思いますが、それまでは局長、あなたが頑張ってくださいね」
「分かったよ……はぁ」
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