54話 一時の休養と
明海八年 8月31日 流先港 空母飛鶴 飛行甲板
今日は戦地ではあるが、流津・流先港の攻略が一段落したため、飛行機乗り達は休みになっている。
極東煤羅射最大の軍港、蓮都品野染里軍港から“ちょっかい”を出されぬよう、駆逐艦や巡洋艦で哨戒をしている。
「しっかし、敵地で休養とは、全く心が落ち着かないな」
「そうだな」
小川のボヤキに、適当に相槌を打つ。
その通りではあるが、態々口にまで出すほどのことだろうか。
休養とは言え、飛行訓練が無いだけで、自主訓練や自主鍛錬は最早誰が言わずとも行われている。
飛行訓練のない日の航行訓練、または戦場までの艦隊行軍とほぼ同じようなものだ。
「それにしても、結局あの偵察機は見つからなかったらしいな」
小川が艦内新聞を広げ見て言う。
「森の中に垂直に落ちて爆散したか、鹵獲されたか?」
「鹵獲だろうな」
「やっぱり?」
「例え森の中で爆散したとしても、流石に煙の一筋でも見えるだろ」
「そりゃそうだな。にしても、鹵獲されたのならかなり拙いな」
「鹵獲されて研究でもされたら、こちらの戦闘機の優位性が大きく揺らぐからな。なまじ今の偵察機は速さに特化しているから、乗っている機関を真似されて、」
「幸先よく進軍しているとは言え、全く憂いは着くことが無いな」
「そうだな」
そんな話をしてから、自主鍛錬の走り込みで出た汗も冷え、休憩室に戻った。
空母飛鶴 休憩室
休憩室に戻ると、何やら机の上の紙を見て唸っている倉田が居た。
「よう倉田」
「お?おぅ、相坂か……」
「お前らしくもない。そんなに静かなのは」
「うるせぇ」
「その紙は何だ?」
「新しい戦闘機の設計図案だ」
「殆ど何も書かれていないが」
「そうなんだよな~。何かいい案ある?」
「んー……。もう少し航続距離があっても良いと思うな。今の黍風の二倍強位なら集中力もぎりぎり持つくらいだと思う」
「航続距離が二倍……と、他は?」
「被弾して分かったけど、もう少し防弾性能を良くしても良いんじゃないか?今のままじゃ、不安でたまらん」
「防弾性能ねぇ……ほい。次は?」
「機銃は今のままでもどうにかなりそうだが……もう少し威力のある機銃を載せてもいいかもな。こっちの防弾性能を上げると向こうの防弾性能も上がるかもしれないし。……もういいか?」
「機銃の威力向上……と。最後にもう一つだけいいか?」
倉田は両手を合わせ、軽く頭を下げた。
「ん~……これはあくまで“出来たら”で良いんだが……」
「なんでも来い!」
「航続距離を二倍以上に伸ばすなら、自動航行装置が欲しいな」
「何とも難しいことを仰る」
「あとは……そうだな。そんなにないとは思うが、飛行機同士でぶつかりそうなときがたまにあるから、それをどうにかできる装置だな。飛行機同士じゃなくても、鳥とかもな」
「こっちもこっちで難しそうなのが来たな……」
「ただの思い付きだから、そんなに真剣に考えなくても良いと思うがな……」
「いやいや、そういう思い付きでも、必要だからな。それにいつかは誰かが作るはずだから、それを俺らが作ってもいいだろ?」
「お前らが倒れなければ俺たち飛行機乗りはそれで良いけどさ……。というか、なんでこんなところで戦闘機の設計なんかしているんだ?やっぱり、“例”の件か?」
「ああ、その通りだ。なんともまぁ、軍の上層部や『ハチ』の連中は偵察機が鹵獲された可能性が高いっててんてこ舞いさ」
「それほど拙い状況か?鹵獲されたって言っても、解析とか、複製とか、量産とか、必要な工程も山ほどあるはずだろ?」
「あのなぁ、戦闘機開発を何だと思っているんだ?そもそも向こうが開発し始めたらこちらも後手に回って開発したところで普通に考えても見たらこちらが後に完成する可能性が非常に高い。さらに向こうは“複製”だ。一から戦闘機を開発するよりも簡単なはずだ。その内に煤羅射が新手の飛行機を作って量産してみろ。一気に形勢逆転すらも有り得るんだぞ?」
「あー、済まなかったな。そりゃ上層部もてんてこ舞いにもなるもんだな」
「まぁ、分かってくれたらそれでいいよ。取り敢えずその案とかを参考に頑張ってみるわ」
「応、良い機体を期待しているぞ」
「へいへい」
どうやら次の新型戦闘機製作も動き始めたようであった。
同年9月7日 極東煤羅射 某所
「はぁ……またか」
「ええ……またです」
「我々も忙しい上に、こちらの計画は我が国の飛行機生産の国力に関わるものなのだがなぁ……」
「仕方ありません。どうにもこちらが作る飛行機より、敵の最新の飛行機の方の性能が優れているということは紛うことなき事実です」
「はぁ……我々の技術力の無さが憎らしいな」
「こればかりは、仕方のない事です」
「で、だ。これから情報を取って作るのをΠπ-3(Pp-3)とすることは明らかだが、Ππ-2(Pp-2)の計画は省略しないし、凍結もしないぞ」
「しかしPp-2の開発の後だと、更なる遅れを取るのでは?」
「なにもPp-3の開発がPp-2の後とは言ってないぞ?」
「え……?と、いうことは……まさか……」
「そのまさかだ。Pp-3の開発はPp-2の開発と同時並行にするぞ」
「できるのですか?」
「事実、Pp-2の省略は国家にとって良くないことだと思うし、進捗で見れば、工程の半数……いや、四分の三以上は修了している。できなくはないはずだ」
「明らかに人員が足りない気もしますが……」
「そこは国に言えば何とかなるだろう」
「そう言うものでしょうか……?ばれたらやはり首が……」
「そんなこと言うな、縁起悪い!って、そもそもPp-1を作ったときからそのことについてはもう無駄なはずだ。それに、だ。国家が戦争で押されているときに、兵器開発に力を入れない馬鹿が俺たちの上に立つ人間だと思うか?」
「いえ……」
「取り敢えず人員はそれで間に合う……はずだ」
「はずですか……」
「仕方ないだろ?出来る出来ないは最早運と言っていいだろうな。これは」
「最終的に我々が頑張るしかないという話ですか……」
「いつの世も変わらんはずだよ。兵器開発は」
「はぁ……」
「さてと、じゃ、Pp-2の製作の続きをするぞ。鹵獲した機の調査分析はまたあとだ。気になるとは思うがな。それに、敵は進軍を一時的に停止しているそうだ。今が好機だ」
「分かりました」
両国に於いて、着々と戦争の次の戦いに投入する飛行機開発に燃えているのであった。
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