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凪の中の突風  作者: NBCG
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53話 数的劣勢

明海八年 8月24日 流先港上空 風切隊


「三番機から隊長機へ。戦闘中の飛行機と同型と見られる飛行機が現れた。敵機と見られる」


「数は?」


「三機だ。煤羅射は三機一編隊としているかも知れない」


「了解だ。援軍は必要か?」


「敵戦闘機のことを考えれば必要ないだろうが……」


「分かった。各機、戦闘を続けろ。自分と生機は新手に当たるぞ」


「「「了解」」」


彼らが大きく動きを乱すことなく、戦闘を続けるのであった。


第四飛行偵察隊


「敵のものと見られる飛行機、四つで間違いないようです!」


「友軍で残っているのが二機、我らは三機、計五機。数では我らが多いのだが……敵戦闘機の能力はこちらより高いはずだ。気を引き締めていけ!」


「「了解!」」


第三飛行偵察隊


「数的劣勢が回避されただけマシだが……大丈夫だろうか……」


ロザノフの不安の声は誰に聞かれることもなく、空の風に消えたのであった。


そして、それぞれの飛行機たちが動きを乱し、それぞれがそれぞれの赴くままに再び戦闘が始まった。


風切隊


「二機食いついて来やがるな……」


生機大尉が呟く。


彼の思う「天風」の機動力の限界を超えて振り切ろうとするが、一機を振り切ってもまた一機に捕捉されてしまう。


「どうするべきか……」


そう言いながらも生機大尉は機体を操り、今のところ二機からの銃撃には、一発たりとも当たってはいなかったのだが。


「ふむ……」


「天風」の特性を考え直し、戦術を練る。


「……良し!」


自らの中で答えが決まったのか、逃げるばかりの機動を止め、そして、攻め入る姿勢へと移ろうとする。


第四飛行偵察隊


「上がり始めたぞ!」


「追え!」


生機の機を追っていた煤羅射の飛行機乗り達は彼を追って空を昇る。


「そんなに逃げたって、俺たちは……ああっ!」


「どうした!?……うわぁっ!?」


「天風」から模倣して作られたPp-1ゴルボイは、多くの諸元がほぼ「天風」と同様のものである。


そしてPp-1の積んだエンジンでは、黍風のエンジン程の馬力も、高高度能力も備えていなかったのである。


そのため、黍風が飄々と昇る空へは着いて行けず、その機体は失速し始め、堕ちていく。


「落ち着け、落ち着け、落ち着け」


煤羅射の飛行機乗りの一人がそう自分に言い聞かせ、冷静に対処しようとする。


開発したポポフも、そして煤羅射自体も飛行機の失速特性については調べていてので、その対処もされてはいた。


しかし、実戦の空でそれが行えるとも限らない。


「どうすれば、どうすれば……、えぇと、あ……」


ほぼパニック状態になっていたもう一人の煤羅射の飛行機乗りは、対処を思い出そうとするも、パニックで手元がおぼつかない。


第三飛行偵察隊


「援軍の一機がやられた!」


生き残りの隊員は叫ぶ。


「クソが……」


隊長ロザノフは更に緊張し、焦りが言葉となって表れる。


現状、援軍が来たとは言え、追われる状況が大幅に変わった訳ではなく、煤羅射の飛行機が追えていたのは先ほどの生機機一機であり、状況が優勢に変わった訳ではなかった。


「このままじゃ報告さえできずに全滅か……」


緊張、焦燥、その中でも、最後の冷静さを失わずに状況を判断する。


そしてロザノフは判断を下す。


「全機、撤退だ!」


この空の友軍の全ての機に対して号令を叫ぶ。


煤羅射の全員から見ても、この状況は芳しいものではなかった。


敵は自分たちよりも強い機体に乗り、高い練度を備えている。


一度は数的優勢にあったのにも関わらず、すぐにまた劣勢に追い込まれようとしている。


いや、総合的に考えて、“既に劣勢”であるのだろう。


今撤退しても、“敵前逃亡”だと非難する者も少ないはずであろう。


つまり、そう判断したのは賢明だったのかもしれない。


しかし……。


「嫌です!弱小国家に背を向ける訳には!」


比較的近場にいる生き残りの隊員がそう叫び返した。


「……クソッ!俺は報告するために帰るからな!」


そう叫び、機体の機首を自らが来た方向へと向け、戦線を離脱した。


第四飛行偵察隊


「隊長!第三飛行偵察隊の一機が離脱します!」


「戦闘を続けろ!構うな!」


「了解!」


劣勢となった彼らは、戦うこと以外に選択肢が無いとも言えた。


風切隊


「敵機、一機が離脱します。追いますか?」


「いや、こちらを引き込む作戦かも知れない。追うな」


「了解した。戦闘を続ける敵機へ意識を向ける」


「相坂機、敵機を一機撃墜した」


「喋りながら敵機を撃墜とは……隊長やるな……」


「無駄口は叩かなくても任務は出来るぞ、小川」


「了解。戦闘を続けます」


彼らは戦闘を続ける。


第四飛行偵察隊


「第三飛行偵察隊の残りの一機もやられた……クソが」


第四飛行偵察隊隊長は考える。


敵はこの世で最も先進的な飛行機に乗る、恐らく最も先頭経験のある手練れがこちらの倍の数。


既に戦線離脱した機があり、また援軍も見込めない。


そして、第四飛行偵察隊の隊長は決断した。


「第四飛行偵察隊、撤退する!」


「了解!」


友軍がたった2機になってしまった空で、二つの声が響いた。


風切隊


「敵の飛行機、俺たちを“引っ掛ける”機動じゃなくて、完全に逃げる機動になったな。どうする隊長?」


「こいつらを追えば、先ほどの逃げた一機も見つけるだろう。最大の速度で逃げさせるために牽制射撃を行い続け、その一機が見つけた時に落とす。奴らを追う」


「「「了解!」」」


彼らは逃げる二機を、機銃で脅かしながら追って行った。


ロザノフ


「はぁ……もう少しで基地か……部下を一人、失ってしまったな……」


感傷に浸りながら独り言をいうロザノフ。


「この音は?」


すると、音が聞こえてくる。


「あいつらか……なっ!?」


振り返ると、第三飛行偵察隊の二機が自らを追って帰還してきた。


帰って来たのが三機でなく、二機であったこと、たとえ二機だけでも、帰ってこられたこと、その両方が驚くべき事実ではあったのだが、さらにその奥から、浜綴の機がついてきていることが最も彼を驚かせる事実であった。


「クソが……これじゃあ降りても上から撃たれるし、どこが飛行場の基地かも知られてしまう……戦うしかないのか!」


ロザノフは機体を叩いた。


そして彼は操縦桿を倒し、基地に向かうのを止め、戦闘を再び始める。


風切隊


「あの機は……こんなところで行動中一機のみは怪しいな……さっきの機だな」


「先を行く機が反転。こちらに向かってきます!」


「そろそろ良いな……戦闘を再開!今度は敵を全滅させる!自分と小川はこの二機に当たる。生機大尉と杉大尉は向かってくる一機の相手を頼む」


「「「了解!」」」


そして再び、風切隊が散開する。


「こちら相坂、一機撃墜」


「こちら小川、一機撃墜!」


回避機動をしているとは言え、ほぼ一直線に逃げるだけの低性能な機を落とすことなど、黍風をもってすれば造作もない話である。


ロザノフ


「クソがあ!」


目の前で二機がやられ、思わず叫んでしまうロザノフ。


「一機だけではどうにも……しかしだからと言って基地の場所を知らせる訳には……」


それでもまだ尚、彼は一定の冷静さを保っていた。


「……来る!」


友軍の二機を打ち破った敵の二機は、幅を取り観戦とでもしているのだろうか、しかし攻撃を与えなかった残りの二機は着々とこちらへ迫っているのが見えた。


カァン!カカァン!


敵の機銃が撃った弾が三発、翼に当たる。


ただそれだけでは飛行機にとって致命的なものではない。


しかし、一人の飛行機乗りを精神的に追い詰めるのには十分なものがあった。


「どうすれば良い!?どうすれば……」


カァン!カァン!


その答えは、唐突に飛行機の機体を貫いた。


先ほど正面から来た敵が、回り込み、自分の背後を取り、そして再び撃ってきたのである。


そしてそれらの弾は、一発は翼を、一発は飛行機の胴体を貫いたのであった。


多くの被弾をした翼はやがて揚力が低下し、そして機の胴体に当たった弾は、機体の面両タンクか、またはその周辺を貫いていたらしい。


タンクからは燃料が流れ出し、また揚力を失いつつある今、基地に帰還することは困難だと、ロザノフは判断した。


「あそこは少し開けているか……」


木々が生い茂る森の中でも比較的開けたところに降下しようとしたのであった。


風切隊


「敵機、炎上はしてはいませんが……高度が下がり始めています」


「了解した。死体蹴りはしない。帰還する。方位170を取れ」


「「了解した」」


ただ淡々と生機と杉は返事をし、針路を変えた。


森の中


大きな音をたて、不時着の音が響く。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


その機体の主である、ロザノフは緊張と集中から、息も途切れ途切れになっていた。


「……」


そして息が落ち着いたころ、彼は無言で飛行機から降りる。


飛行機に乗る時には、浜綴の飛行機乗りと同様に航法を学び搭乗するが、流石に戦闘状態になったときにはそれを再び確認する術はなかった。


そして命からがら敵の銃撃から回避し、目に映った適当な場所を不時着地点に選んだため、此処がどこかも分からなかったのである。


しかし、ここが飛行機基地の近くであるということは間違いが無く、また海岸線からも近い。


森に行けば迷う可能性があるが、海に行って、海岸線を辿って軍港に辿り着き、さらにそこから飛行機基地に行くのが賢明であると考えた。


そう考え、ロザノフは不時着する寸前の位置関係を思い出し、海へと歩き出したのであった。


……。


「あれ……は……」


ロザノフが歩き出してから数十分が経ったとき、彼の目の前には“あるもの”が現れた。


「浜綴の……飛行機」


そこには、墜落したであろう飛行機と見られる大きな翼の付いた金属の塊があったのだ。

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