52話 流津・流先港同時攻略戦
明海八年 8月13日 浜綴海 航行艦隊 空母飛鶴 第一会議室
「諸君、楽にし給え」
司令がいつも通りの言葉を掛けてくる。
「以前より計画していた、蓮都品野染里軍港……以降は蓮都軍港と呼ぶが……その強襲の前哨戦として、流津及び流先港を同時に攻略する」
その言葉により、会議室に少しほど緊張感が張る。
「改めてこの二つの港について説明する。この港らは軍民共用の港だ。そして、この港、蓮都軍港より南にある為、南で取れる作物を蓮都軍港に送る為の重要な拠点となっている。しかしこの二つの軍港は距離として近く、その抵抗は、これら二つの港を各地ごとに制圧するにはその港に存在する純粋戦力と比して予想より甚大な被害が出ると上層部は判断し、同時攻略こそが、もっとも戦費が安く済むと判断した」
司令は一息置いた。
「そして我々は、新型空母真龍の戦力化に伴い、真龍を浦呉に一時的に充て、その計画の一つ前の辰飛、辰見を擁する浦呉基地所属艦隊と合同でこの二つの港を攻略する計画を立案した。比較的戦力的に不安の残る浦呉基地所属艦隊があらゆる距離から見て敵の援軍が流先以外からは届きにくい南側の流津港を、練度があり、戦力としての不安が少ない我々、航行艦隊が場合によっては流津以外にも蓮都軍港や他基地からの援軍の可能性がある、北側の流先港の攻略を行う。まあ、同時攻略を行うから、連携が想像より遥かに超えて取れている訳でもなければ、流津と流先は相互に援軍は寄越せないはずだがな」
再び司令は一息置く。
「それに、東唐海の戦いの時と比べ、戦力の優位性はこちらがあるし、第二航空戦隊も戦力として投入される。そこまで気を張ることは無い」
その言葉で、会議室の緊張は少しほど解ける。
「とは言え、相手が列強であることに変わりはない。気は抜くな」
「「「「「応!」」」」」
「返事は良いな。ではその良い返事だけの戦果を期待する。以上、解散!」
浜綴海 空母飛鶴 飛行甲板
「司令はああ言うが、そこまで気を張ることか?今まで負けは殆ど無いし」
小川がのんびりと海を見ながら言う。
「こういう今だからこそ、だろ?」
「そうか?」
「そうだ。こういう時に気を抜いて、命を落とすことも珍しくはないだろ?」
「浮足が立つってやつか?」
「ああ」
「正直言って、浮足立つとまでは言わないが、そこまで気を張ってやってるつもりもなく勝てている気もしないではないけど」
「それでも、だ。お前の悪運もいつまで続くか分からん」
「そりゃそうだな」
「特に小川はいつも浮足立っているような感じだから、死ぬときはぽっくり死にそうだ」
「酷いな」
「戦場で死ぬときはいつも突然、だろ?」
「否定はしない」
「兎も角、死んでくれるなよ。一人でも飛行隊から欠けたら、それだけでも充分な戦力不足と考えても良いだろう」
「真面目だな」
「不真面目な方が良いか?」
「いや……相坂隊長はそのままでもいいか」
「なんだそれは……?」
「人には正確そのものにも向き不向きがあるかと思って」
「やはりわからんな」
「生機大尉も普段は砕けた感じだから、それでも十分かと思って」
「まあ……戦場に“在り得ない”は“在り得ない”から、柔軟な発想ができる者がいないといけないか」
「そこまで硬い考えを持たなくても良いと思うがよ……」
同月 24日 流先港近海 浜綴海 航行艦隊 空母飛鶴
「偵察機が一機、戻ってきてないようですね」
「祥雲か?」
「はい。千鶴の機が」
「隊の奴らは何か言ってるのか?」
「いえ、集合地点にただその機のみが数分待っても集合しなかったとのことです」
「仕方ないか……戦闘機部隊はその機の捜索もさせるか?」
「はい。しかし、敵の飛行機も存在するので、航空優勢が取れてからですね、捜索は」
「はぁ……精鋭とは……」
「いくら精鋭とは言えど、航空優勢がこちらに無いうちの捜索は危険です」
「分かっている。制空権が取れたのち、爆撃機は爆撃を、戦闘機は救難捜索を、偵察機と戦闘機の一部は周辺哨戒を任せる」
「了解しました」
「取り敢えず制空権を取るしかないな。時間は……そろそろか」
「はい。艦内放送を?」
「ああ。行ってくる」
空母飛鶴 航空要員休憩室
『全ての航空要員に達する。出撃及び、偵察機からの情報を伝える為、直ちに飛行甲板に集まれ。なお、整備士は飛行準備を続け、いつでも飛べるようにしておけ。以上』
「だってさ」
「分かった。風切隊行くぞ」
「「「了解」」」
空母飛鶴 飛行甲板
「全員居るな?」
この問いに、無言の肯定を操縦士達が伝えた。
「では、偵察機からの情報を伝える。本日0800から偵察機が流先港及びその周辺を偵察した。見られる兵器は港に巡洋艦2隻、駆逐艦4隻、護衛駆逐艦4隻が見られた。そして湾港防衛設備として、銃座、砲台が複数見られた。目視可能圏内に飛行場は存在していなかったが、局地防衛のための戦闘機が現れることも予想できる。気を付けろ。そして、空母千鶴の偵察機、祥雲が一機、流先港周辺に於いて消息不明となった。見つけたら報告を頼む。報告は以上だ!各隊出撃準備!」
「「「「「応!」」」」」
操縦士達は駆け足で自分の搭乗機に向かって行った。
……。
「風切隊、出撃用意良し、発艦はじめ!」
「風切隊隊長相坂、出る!」
「風切隊二番機小川、出撃開始」
「風切隊三番機生機、発艦」
「風切隊四番機杉、発艦します」
戦闘飛行中隊一つが、空母飛鶴から飛び立った。
「風切隊の発艦を確認した。天貫隊、出撃用意の確認を!戦拓隊も飛行甲板後部に展開し、出撃及び、発艦準備を行え!」
そして次々と飛行機が空へと飛び立とうとするのであった。
浜綴海 上空 風切隊
「出港中の敵大型船舶を確認。爆弾を投下する。各機、高度500まで降下」
「「「了解!」」」
「……高度500まで到達。爆弾を用意」
「了解。爆弾投下準備……二番機小川、投下準備完了」
「……三番機生機、爆弾投下準備完了」
「四番機杉、爆弾投下準備、完了した」
「投下準備確認。風切隊全機、各自の判断で投下せよ」
「了解。二番機小川、爆弾投下!」
「三番機生機、投下!」
「四番機杉、投下した」
「各機、投下の完了を確認。戦果は分かったか?」
「こちら杉。効果の一切を認められず」
「高度500でこれか……正直これより高度を下げることは難しいが……やはり、爆弾投下の訓練は必要か……」
「仕方ねぇよ隊長。こちとら移動に、移動に、戦闘に、戦闘、だ。皆、疲れているだろうから、これでも成果は上がった方かも知れないぜ」
「はぁ……取り敢えず、こちらの爆撃大隊が到着し、任務を完遂するまで制空権を維持する。敵航空機を発見した場合、報告せよ」
「「「了解」」」
バストーシナヤ・ジミリア陸軍飛行場基地
「各位!整列!」
その基地の兵士たちは一列に並び、体勢を整える。
「ルツ及びルソン軍民共用港より攻撃を受けているとの連絡が入った。バストーシナヤ・ジミリア軍港に停泊している、長旅をしてきた海軍の負け犬共からの情報によると、飛行機と艦砲による攻撃があったとのことだ。つまり、ルツ・ルソン港にその攻撃が向けられる可能性が高い。今更負けて来た彼らを守るのも癪だが、それでも我が母国を脅かす敵に晒されていることに変わりは無く、そしてここ、バストーシナヤ・ジミリアに食糧を送る為の重要な拠点であることが、何より重要な事柄である。今日我々が彼らを守らなければ、明日の君たちの飯はない物と思え。良いな?」
「「「「「「了解!」」」」」」
「そして、4か月前に消息を絶った1個飛行隊があったことから、彼らはほぼ確実に諸君らを狙うだろう。諸君らは最早、只の偵察部隊ではなく、我ら祖国の空を護る守護者の任を任されているとの自負を持って戦え。私からは以上だ。全部隊、発進準備!」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
そして集まった彼らは駆け足で自らの乗る飛行機へと行くのであった。
バストーシナヤ・ジミリア陸軍飛行場基地
周辺上空 煤羅射帝国陸軍 極東第一飛行群 第三飛行偵察隊
(いよいよか……)
第三飛行偵察隊の隊長、ロザノフは考える。
(あいつは、偵察任務中だったが、生きているのだろうか……)
彼は第二飛行偵察隊の隊長と同期であり、軍の中で最も仲が良かった。
(もしかしたら、どこかの島で暮らしているか、それとも捕虜になっているかも……それは望み薄か……。あいつは任務中で敵機に遭って、戦闘したのだろうか?それに比べたら俺は、まだマシなのかもな……。だが相手のことを考えると、それはほんの少し程度の運の差しかないのかもしれないな……。あいつは遭遇戦で小数を相手に一部隊で、こちらは恐らく敵の大部隊をたった二部隊で迎撃しなければならないから、相手の数と場合によっては俺の方が運は悪いのかもしれない……)
「隊長!」
通信設備はPp-1には無いため、隊員の一人が大声で喋り掛ける。
「何だ!?」
「場合によってはそろそろ敵に遭遇する可能性があるかと!考え事は後にしてください!」
「分かった!」
そしてロザノフは、頭を切り替えて、敵と戦う覚悟を決める。
流先港 周辺上空 風切隊
「12時の方向!不明機発見!」
「敵機の可能性がある。一旦昇れ!高度1200!」
「了解。上昇する!」
「あれは友軍機か?敵機か?」
「……分からん。もう少し近づこう」
「分かりました」
「しっかし、こんなところで北から来るのは煤羅射の機くらいしか思いつかんがねぇ……」
「消息不明の祥雲かもしれないだろ?」
「……あれ、3つに見えるんだが」
「……国章を確認するまで友軍機か敵機かの判断はしない。向こうから撃ってでもこない限りはな」
「へいへい……」
「高度1200到達」
「国章確認。浜綴機にあらず!しかし、軍機かどうかは……」
「無いとは思うが、民間機の可能性もある。背後から廻って、警告を行うぞ」
「「「了解!」」」
同空域 煤羅射帝国陸軍 第三飛行偵察隊
(何か音が……)
隊長ロザノフは隊内で逸早く空の異音に気付く。
「……何っ!?あれは!」
その直後、彼の機に影が映り、ロザノフが振り返ると、単葉の飛行機が彼らの隊の背後に回り込んでいた。
「各機散開!敵機だ!!!」
「何だと!?くっ!」
「了解!」
ロザノフの早い反応が、彼らを戦闘態勢に移行させるのに十分にさせた。
風切隊
「散開したな……この三機を敵機と判断。交戦を許可する!」
「小川了解。交戦開始!」
「生機、了解した。交戦する!」
「杉、了解。交戦を開始する」
「……小川より隊長へ」
「こちら相坂。何だ?」
「こちらの“荷物”が届いたみたいだ」
「了解した。彼らがしっかり届け終わるまで、航空優勢を保つぞ!」
「「「了解!」」」
『―――こちら、天貫隊。風切隊へ』
「こちら風切隊。どうした?」
戦闘開始の意気込みを入れたところで、航空無線が入り、それに相坂が対応した。
『そちらの隊を目視にて確認した。加勢するか?』
「風切隊より天貫へ。ありがたいが今は良い。周りの警戒を頼む。外からの新手か、こっちから逃げる奴を頼む」
『了解した。だが、手柄は残しとけよ―――』
「できたらだけどな」
相坂は相手が聞こえているかも分からない無線に呟いた。
「隊長、他の隊と駄弁ってないで戦闘に参加してください」
「済まない。戦闘に参加する」
相坂は生機隊員に督され、戦闘に参加した。
第三飛行偵察隊
「クソッ!一機増えやがった……!」
他の隊員も、彼、ロザノフも、会敵した隊の各一機ずつに追われ、逃げるのに精一杯である。
こちらは三機、向こうは四機、明らかに不利である。
撤退する事すら儘ならず、今はただ、敵の攻撃を避ける以外に意識を割く余裕がない。
逃げる途中で隊員を狙う敵機を捉え、攻撃をしようと数回ほど思ったが、その度に自分を追う敵の銃撃が機体を弾き、再び逃げに集中することを余儀なくさせられる。
そんな状況に敵機がさらにもう一機が加わるのである。
危機。
その言葉はそれ以外、何も必要が無いほど今の状況を捉えつくしている。
逃げと追いを繰り返す中、再び眼前に敵機が現れる。
「今だ!」
ロザノフは、機銃の引き金を引いた。
風切隊
「杉大尉!大丈夫か!?」
「ああ。機体、それも翼に一発、敵の銃弾が当たっただけだ。心配するな、隊長」
「了解した。小川機の支援を続けておく。必要になったら呼んでくれ」
「杉、了解」
「こちら生機、一機撃墜!」
「前と技量は変わらないな……。後方には既に爆撃部隊が展開している。とっとと片すぞ!」
「「「了解!」」」
第三飛行偵察隊
「当たった様ではあったが……駄目か……。それに、こちらの機が一機落とされた」
隊長ロザノフは更に焦る。
(2対4では分が悪すぎる……これはもう撤退も視野に……)
そう考えたその時だった。
「あれは援軍か!」
彼は逃げ回っている中、複葉機をその目に映した。
周辺上空 煤羅射帝国陸軍 極東第一飛行群 第四飛行偵察隊
「なんだありゃぁ……」
第四飛行偵察隊の隊長が言う。
「こちらの飛行機と思われる、羽が二枚の飛行機が二機、そして浜綴の飛行機と思われる、羽が一枚だけの敵機が四機、見えました」
隊員の一名が現状を伝える。
「恐らく戦闘中かと」
「ならこちらの方が劣勢ということになる。助けないとな」
そして彼らも、戦闘態勢になるのであった。




