51話 東唐海に沈む
明海八年 7月20日 東唐海 航行艦隊 旗艦 戦艦香椎
「敵艦隊、速度を上げてこちらに突入しています」
「フム……彼ら自身の戦力低下を危惧して早めに旗艦の撃沈を狙っているな」
「どうしますか、艦長」
「早めになってしまったな……面舵一杯!艦隊は旗艦に続くように!」
「面舵を取り、活用砲数を増やす……ということですね?」
「そうだ。後方の砲手も気を抜くなと伝えろ」
「分かりました」
「面舵一杯!」
「船速は如何いたしますか?」
「そのままで良い」
「了解しました」
「さて……バルチック艦隊が突撃を開始したから、この戦いの終結も早まったのかもしれん。恐らく、この突撃、この面舵一杯が、この戦いを決するものとなるだろうな」
煤羅射帝国海軍 第二太平洋艦隊 旗艦 クニャージ・スパルタク
「敵艦面舵を取っています!」
「構わん!突撃は止めない!最大火力を以ってかの敵艦らを沈めろ!」
「了解!砲撃継続!怯むな!」
「敵後部砲もこちらへ向けて発砲しています!」
「やはりそれが狙いか……だが、我々は突撃あるのみだ!いいな!」
「了解!」
「飛行機の支援に加えて、新たな戦法……もしかしたら、この戦争を以って戦争の形が変わるかも知れないな……撃て!撃ち尽くせ!」
「敵飛行機第二陣、去っていきます!」
「今が好機だ!敵主力艦艇に集中して砲撃せよ!」
「敵魚雷艇が展開していますが……」
「構わん!敵の指揮能力さえ奪えれば、勢いがこちらの味方になってくれるはずだ!」
「現在位置確認。あと一時間弱で浜綴海に入るかと」
「となると……西海島北に浜綴の海軍基地があるな」
「はい。ですが今戦闘中の彼らは基地所属の海軍ではなく、所謂海軍直属の“航行艦隊”との見方が有力です」
「戦況は常に最悪を考えねばならんからな……そう考えると、数十分で敵の援軍が到着するか……」
「ええ。戦力評価部もそう判断しています」
「つまり、今が山場だな」
「はい!」
そう士官が返答した直後、この戦艦、クニャージ・スパルタクに爆音が轟いた。
「本艦に被弾した模様!」
「損害状況を報告せよ!」
「第一砲塔に被弾!その他人的損害等は確認中!」
「被弾した第一砲塔が燃えています!火災発生!消火班が只今、消火活動を実施しています!」
「消火と排煙を急げ!」
「弾薬庫の近くに被弾しなかったのが不幸中の幸いだな……」
「第二戦艦隊旗艦、戦艦イリア・ムーロメツ、被弾!火災発生!弾薬庫に火の手が回った模様!誘爆しています!戦艦イリアから情報が来ません!詳細状況不明!」
「駆逐艦プロスヴェトリィニィ(煤:啓蒙な)、敵戦艦の主砲弾に直撃!復旧は不可能とのこと!間もなく轟沈します!」
「クッ……艦隊の被害甚大!艦隊の被害甚大!司令!」
「進め!」
「しかし!」
「我々はどう足掻いても進むしかないのだ!バストーシナヤ・ジミリアに到着しない限り、援軍も来ないし、補給も出来ない!例え引き返したとしても、追撃を受け、その後は全滅しか考えられない!」
「わ、分かりました。進撃を続けます……。攻撃を続けろ!そして第一砲塔の鎮火を急げ!但し復旧は考えなくても良い!バストーシナヤ・ジミリア軍港に着くまでの辛抱だ!」
「了解!」
「巡洋艦ダニーラ・マヌィチスコイ、延焼が止まらず、誘爆した模様!沈没します!」
「巡洋艦ダニーラは救命ボートか小型ボートは出しているか!?」
「いえ……それどころではないようです」
「こちらも戦闘中で忙しいし……病院船クルガンあたりに任せるか?」
「病院船クルガンに搭載されている小舟程度では全員の収容に非常に時間が掛かり、救命できる数が限られるかもしれません」
「……そうか……しかし我々にはこの場で使える小舟は無いし……」
「後方の駆逐艦に任せましょう。取り敢えず我々は戦闘を」
「そうだな……」
「敵魚雷艇を一隻撃破!」
「こちらの駆逐艦が敵駆逐艦に主砲による攻撃を命中させました!」
「少しずつだが、こちらも向こうの勢いを押し返してきているぞ!」
その時だった。
二発の砲弾が、戦艦クニャージ・スパルタクに命中した。
「被弾した!」
「そんなことは分かっている!被害を報告せよ!」
「一発は一番砲塔と二番砲塔の間に、もう一発は三番砲塔に被弾した模様!」
「一発、至近弾です!この衝撃で数名が海上に投げ飛ばされました!」
「誘爆の恐れあり!延焼止まりません!先に被弾した一番砲塔の鎮火も儘なりません!」
「消火班!どうなっている!」
「消火不可能です!火災拡大範囲が消火範囲より大幅に広いです!」
「司令、僚艦である、戦艦インペラートル・アレクセイ四世に移乗を」
「艦長は?」
「私は生き残っている船員の退避を確認してから……」
そう言いかけてから、再び衝撃。
「敵の魚雷に被雷した模様!司令!早く移乗を!」
「分かった。移乗する。艦長、武運を」
「分かりました」
同海域 救命筏
「なんとか救命筏はまだあったか……」
「司令、出ます」
「ああ、出してくれ」
救命筏がクニャージ・スパルタクの僚艦、インペラートル・アレクセイ四世に移動しているそのときであった。
背後の艦から爆音が聞こえ、衝撃と熱が感じられた。
「艦隊旗艦が……」
振り返ると、誘爆を引き起こしたのか、戦艦クニャージ・スパルタクは艦の中腹部から炸裂し、爆沈していた。
「……」
その艦隊司令、ザウル中将は、ただその姿を見つめることしか出来ないのであった。
艦隊旗艦の爆沈より、明らかにバルチック艦隊のほぼすべての艦から戦意の喪失が戦っていた航行艦隊からも見て取れ、早々に艦隊戦が決したのであった。
浜綴側の損害は魚雷艇三隻喪失、駆逐艦及び巡洋艦の小破数隻、戦死百余名であったのに対し、煤羅射の損害は20隻沈没、被拿捕6隻、中立国抑留6隻、戦死者5千名弱という数にまで登ったのであった。
さらに浜綴海の中で1隻が機雷に被雷し、沈没。煤羅射の艦隊の内、バストーシナヤ・ジミリア軍港に到着したのは海戦に参加した、特務瀬含む38隻の内、たったの5隻であった。
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