46話 初戦の行方
明海八年 2月23日 浜綴海上空 空母飛鶴所属 第二〇一任務部隊 戦闘爆撃混成部隊 風切隊
「敵は互いの艦隊の射程に収めている。こちらが向こうに圧力を強く掛けないと、敵の数の勢いに負けるかもしれんな」
「そうだな」
「敵に飛行機は無い。各自、爆撃機を狙い、対空砲撃を行う砲を自由に攻撃せよ。散開!」
「「「了解!」」」
単発単葉の黍風は機動性が良い。
その機動性をもって敵の対空砲撃を軽やかに避け、機首に付いている7.7㎜機銃を敵の方に向けて放つ。
一回目の出撃は行動半径を心配し増槽を付けていたが、今はその心配は無いので三号爆弾二発を付けている。
こちらの艦隊に最も近い駆逐艦などはこちらの戦艦の砲撃に狙われ、爆撃隊はそちらを狙わない為、彼らはその反対側の駆逐艦などを狙う。
それに合わせ、自分たちも反対側の駆逐艦の砲や機関銃を狙う。
「敵の機関砲一基、沈黙」
「機関砲類は大方片したな。あと……二隻か?」
「そっちも片すぞ」
「了解」
……。
「隊長、機銃の弾が切れた」
「分かった。爆撃隊と合流する。爆撃隊は……あそこか。風切隊全機、方位、160を取れ」
「了解しました」
浜綴海 煤羅射帝国海軍第一太平洋艦隊 駆逐艦オグロンニ(煤:広大な)
「あの飛行機共は行ったか?」
「ええ。こちらには来ないようです」
「はあ……他の駆逐艦はどうなっている?」
「分からない。進んでいるから機関はやられてはいないでしょうが、こちらの艦は砲を撃っていないから、戦力になるかどうかは……。敵の戦艦の砲撃を受けている方の何隻かは砲戦力の喪失、酷いものは炎上しているようです」
「そちらは戦艦の砲を受けたものだろうが……あの飛行機たちからの爆弾が一体どれほどの威力があるのか……」
「そちらも正確には……。敵飛行機の攻撃の第一陣の攻撃によるものか、その攻撃で起きた混乱による事故かは……報告には敵の爆弾が直撃したとありましたが……」
「戦場だからな。一体どれほど信用の足る情報なのか……」
「複数艦から上がっている情報ですので、一応は信用に足るのかと」
「集団心理による集団の思い込みという可能性もあるわな。戦場では思いもよらないことが多く起こってしまう物だからな」
「否定はしませんが……」
「なに。取り敢えずはこちらへの攻撃が一度来ないと分かったことを……おや?」
「ふ、再び、敵の飛行機がこちらに!」
「敵の飛行機、爆弾のようなものを投下した模様!」
「く、来るぞ!」
「総員、衝撃に備え!」
浜綴海上空 空母飛鶴所属 第二〇一任務部隊 戦闘爆撃混成部隊 風切隊
爆音と水柱が上がる音が後方から、機関の音に遮られながらも聞こえる。
「命中したか?」
「あー、至近弾だ」
「やはり戦闘機で狙うのは難しいのか?」
「本職の爆撃機乗りですら当てられるかは賭けみたいなところがある。俺たちが当てられなくても、至近弾を当てられただけでも充分かもな」
「そうか……。全て爆弾は落したな?」
「ええ。出し惜しみはしていない」
「了解した。全機、帰投する。戦拓隊に着いて行くぞ」
「「「了解」」」
浜綴海 臨時緒穂湊所属艦隊 空母飛鶴 飛行甲板
「取り敢えず、初戦で死ぬことは無かったな」
縁起でもないことを倉田が言う。
「向こうも飛行機に対するまともな攻撃手段を機関砲以外には持っていなかったからな。駆逐艦に載ってある、小型砲も、旋回速度が遅くて当たるどころか、こちらにいた方に砲が向くころには自分たちは反対方向に居るからな」
「ま、死ななくて良かったよ」
「縁起でもないこと言う前に、そっちを言って欲しかったがな」
「悪かった」
「別にいいが……。まあ、でも、この戦いで敵も飛行機に対する有効な手段を考え始めるだろう。もしかしたら近々こっちの飛行隊とかが大きな被害がでるかもしれないな……」
「言ったそばからお前が縁起でもないこと言ってるんじゃねえ」
「これからの話だからな。危険があると考えられるなら、その危険を考えるのは兵士なら当たり前だろ?」
「……それもそうだな。なんか釈然としないけど」
「……自分の意見としては、死ぬ危険性が高い奴が低い奴に言うのは兎も角、低い奴が高い奴に縁起でもないことを言うものじゃないと思うが」
「悪かったよ……」
「言い方がきつかったな。こちらこそ済まない」
「ああ、じゃあこの話は終わりだ」
「ああ」
同月 24日 極東煤羅射 バストーシナヤ・ジミリア港 海軍基地
「何!?第一太平洋艦隊が壊滅しただと!?」
「司令、声が……」
「済まない……だが、どうしてそのようなことに?確か艦の数と戦力自体はこちらの方が優勢だったはずだろう?」
「はい。しかし、敵の飛行機からの攻撃により、指揮系統が混乱し、情報の共有が儘ならなくなり、主に駆逐艦が大規模な被害を受けました」
「確かに殆どの被害が駆逐艦だが……だが主力艦自体の被害も見逃せないぞ、これは……。戦艦一隻は健在、残る戦艦一隻は小破、巡洋艦六隻の内、一隻が敵戦艦の主砲弾の直撃により、弾薬庫にて誘爆、轟沈。一隻が中破し、二隻が小破……。無事だったのは二隻のみ。駆逐艦とフリゲートからなる艦隊護衛艦群18隻に至っては、一隻が撃沈、一隻が完全な行動不能、三隻が大破、四隻が中破、航海に問題は無いが全ての攻撃手段の沈黙が三隻、残り六隻全てが小破。これをどう上に報告したものか……私の首で足りればいいがな」
「……」
「まあそう暗い顔をするな。最低でもなんとか、第二、第三太平洋艦隊が到着するまでこの基地を死守すればいいだけだ」
「はぁ……」
「それに少し明るい話をしよう。今日報告された中では、浜綴が占領している広連港付近で、我ら海軍の軍艦が浜綴の輸送艦二隻とフリゲートを一隻、沈めることが出来た。これで、向こうも広連からの援軍は、しばらく程は届くまい」
「それは……確かに朗報ですね」
「それに、陸軍では飛行機部隊の習熟訓練の殆どが終わったらしい。近々、近くの陸軍基地に配備されるはずだ」
「飛行機に痛手のもととなる状況を作られたところを見れば、その対抗策として飛行機を投入できることは素晴らしいことですね」
「さて、我々は後どれほど持つのだろうか……第二、第三太平洋艦隊はあとどれほどで到着だったか……」
「確か……出港が今年1月の中旬から下旬辺りだったので、到着は早くても7月、遅くなると9月程にまでになるかと……」
「あと半年も持ちこたえなければならないのか……」
「陸軍による抵抗が行われているものの、この海戦での打撃が強く、侵略はおろか、守ることすら危うい状態です。今すぐの壊滅は在り得ませんが、長期戦は確実に不可能です」
「なにより現有の主力艦隊の壊滅だ。こちらでも造船は行ってはいるが……すぐに出せるものは無く、すぐに出せるにしても戦力にするための習熟の時間が必要になる。今の造船所にあるのを戦力化するのは早くても4か月は欲しいところだな。それでも補充されるのは巡洋艦で、戦艦などは向こうでのみ造られているからな」
「この戦いで戦力を多く失ってしまったのは兎も角、戦艦を失わなかったことは不幸中の幸いですね」
「笑えないな」
「それでも、残る戦力で対応しなければならないことに変わりはありませんからね」
「この戦いでの壊滅により、第二次侵攻は中止だな。少なくとも、第二、第三太平洋艦隊が到着するまでは」
「はい。それまでに、なんとか持ち堪えなければなりません」
「優勢だと思っていたらしいが、蓋を開ければこの有様……。戦力研究所め……たとえ私の首を責任として持っていかれようとも、奴らの首も道連れにしてやるからな……」
浜煤戦争の初戦は、多くの国家の予想とは裏腹に、浜綴の勝利に終わったのであった。
この後、大浜綴帝国軍は、バルチック艦隊到着までの間、繰鈩諸島防衛及び、佐波鈴島侵攻を主眼として軍を動かすことになる。
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