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凪の中の突風  作者: NBCG
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45話 浜綴海海戦

明海八年 2月22日 浜綴海 臨時緒穂湊所属艦隊 空母飛鶴 第一会議室


「諸君らに嫌なお知らせだ」


司令官が溜息を吐き、そう言いながら会議室に入って来た。


「群鶴所属艦隊が行った、流津・流先港の機雷による海上封鎖が失敗した」


司令官は話を続ける。


「機雷敷設艦が敵艦に見つかり、二隻が沈められ、残る二隻と護衛の艦も満身創痍で撤退に追い込まれたのでな。これにより、流津・流先の商船による補給を許すことになるだろう。それに、流津・流先に留まっている艦隊は港を防衛しているのみであるからそれほどの脅威にはならないだろうが、援軍にでも来られると厄介だ。彼ら流津・流先の艦隊が援軍として我らに抵抗する場合は直ちに回頭し、退却する。特に航空隊諸君は気を付けるように」


「「「「「了解!」」」」」


「話は以上だ。敵といつ接敵してもおかしくない海域に突入した。爆撃大隊、戦闘中隊諸君はもとより、整備士の皆、いつでも出撃できるようにしておけ。いいな?」


「「「「「応!」」」」」


「解散!」


空母飛鶴 休憩室


「はー寒い」


「そりゃあなぁ。仕方ないことだ」


電気発熱器の前に屈みこむ風切隊の面々。


「もっとこれ、熱くできないのか?」


「それ以上熱くしたら電熱線の消費が激しくなるから、それ以上熱くはならないようになっているぞ」


「使えないな……」


「仕方ないだろ。この小さな発熱器を買うのでも国税、血税だ。緒穂湊を出る前に得られて良かったってもんだ。諦めろ」


「そりゃそうだがよ、なんとかならんか?」


「もっと羽織れ」


「馬鹿言うな。今着ているものと代えの肌着以外まだ干し切ってない」


「艦内も寒いからな。というか肌着を重ね着したら良い」


「流石に代えの肌着が無くなるのは嫌だ」


「なら我慢しろ。乗る前に服を買ったり持ち込んだりしなかった小川が悪い」


「えぇ……」


「それが嫌なら飛行甲板で走ってろ」


「分かった!分かりました!我慢します!」


「そこまで叫ぶことでもないだろう……。取り敢えず、いつでも出撃できるようにだけはしておけよ」


「了解……」


「「了解」」


本当に何故小川だけこれだけ機嫌が悪いんだろうか?


寒がりなのだろうか?


さらに寒さからなのか、杉大尉と生機大尉の気力も、先の戦いよりは薄いようにさえ感じる。


いくら寒いからと言っても、気は抜くべきではないだろう。


こういうときこそ隊長の自分がしっかりしていなければならないな。


自分の心に、そう刻み込んだ。


翌日 2月23日 バストーシナヤ・ジミリア港(蓮都品野染里)付近 上空


臨時緒穂湊所属艦隊 空母千鶴所属 第一〇二偵察飛行中隊 証耳しょうじ


彼らは艦上偵察機祥雲からなる偵察機部隊である。


「電探に感。敵艦のものと思われる」


「対空警戒。敵航空戦力はないか?」


「……周囲を確認しだが、存在を確認できず。高度を程度下げ、敵水上戦力の目視での確認を具申する」


「了解。高度、750まで降下」


「了解した。高度を750まで下げる」


……。


「敵水上目標を目視にて確認。戦艦級2、巡洋艦級6、駆逐艦級15以上を確認」


「大艦隊か……」


「彼らにとって、極東はそれほど重要では無いことも踏まえると、これだけの艦隊は異常なほど戦力を投入していると言えるでしょう」


「まったく、嬉しい限りだな」


「……何がですか?」


「我々を、浜綴をそれほどまでに力があると、脅威であると認識してくれて」


「ええ、そうですね」


「帰投する」


「了解」


バストーシナヤ・ジミリア港(蓮都品野染里)付近 煤羅射帝国海軍第一太平洋艦隊

フリゲート・ラツルシェニイェ


「先の物はなんだったんだろうな?」


「さぁ?飛行機だっていう奴もいるが、本当のところ、大きな鴉とでも見間違えたんじゃないか?」


「だろうな。そもそも開示されている飛行機の性能じゃ、ここまでは来られないはずだし。それにそもそも俺は、空気より重いものが空を飛ぶなんて、今でも信じちゃいないぜ?」


「皇帝公認の飛行機もこの国で飛んだってなってんだ。流石に飛ぶんじゃぁないか?」


「どうだか。浜の国の嘘に合わせて、見栄を張りたいだけだったりしてな」


「そうか……?まあこんな極東じゃ、この国の飛行機なんかあっても、見る事なんざ、よっぽどのことが無い限り、そんな機会なんてないんだろうな」


浜綴海上空 空母飛鶴所属 第二〇一任務部隊 戦闘爆撃混成部隊


「風切隊隊長より行動中の全機へ。敵艦隊、目視にて確認!」


「戦拓隊隊長より風切隊長へ。こちらでも確認した。戦闘機部隊は敵航空勢力および、敵艦隊の対空兵装の破壊を頼む」


「了解した。風切全機、敵航空戦力の捜索を行え。制空権の獲得を確認次第、対空兵器への攻撃へ移る」


「「「了解!」」」


バストーシナヤ・ジミリア港付近 浜綴海

煤羅射帝国海軍第一太平洋艦隊旗艦 戦艦アドミラル・ウーソワ


「司令!駆逐艦ムージャストヴァ(煤:勇気・度胸)から伝令!敵飛行物体と思われるものを確認したと!」


「馬鹿者!そんなものはこちらでも既に確認している!」


「敵は一体どこから……そもそも飛行機はこんなところまで飛べるほどの航続距離は無かったはず……海戦では敵の飛行機からの攻撃は心配しなくて良いと聞いていたが……」


「そんなことはどうでもいい!敵を撃て!主砲でも副砲でも機関銃でも構わん!」


「了解!装填動作始め!」


「装填動作用意!……装填確認!装填準備完了!」


「撃て!」


「撃て!撃て!」


「命中確認、無し!」


「撃て!撃ち続けろ!唐国人の話だと、あいつ等は爆弾を落としてくるらしいから、その前に撃ち落とせ!」


「了解!次弾装填用意!」


「敵と思われる飛行物体、何かを投下してきます!」


「こちらに来るか!?」


「いえ……ただ、左前方のフリゲートか駆逐艦に当たる可能性は有ります」


「投下された物体、水柱を上げて着水していっています」


「艦隊への損害はあるか?」


「今のところ、明確な損害はありません。全艦健在です」


「駆逐艦チェートコェ、及びフリゲート・タイガが至近弾を食らった模様。死者及び艦の戦闘行為には異常は見られないとのこと。また、直撃を食らった艦はありません」


「了解した。戦闘を続けさせろ」


「了解、戦闘を継続」


浜綴海上空 空母飛鶴所属 第二〇一任務部隊 戦闘爆撃混成部隊


「第一次爆撃、効果を認められず」


「敵からも砲撃がありますが、そちらもこちらへの命中はありません」


「戦闘機部隊は?」


「艦隊の主力の護衛とみられる駆逐艦、護衛駆逐艦に対して攻撃を加えています」


「我々としては敵戦艦の主砲が恐ろしいから、そちらを叩いてほしいのだがな……」


「飛行機なら、大型弾も小型弾も、当たれば同じく落ちるので、戦艦の大型の主砲の様なものよりも、命中率や砲旋回速度で優れる、駆逐艦などに搭載されている機関砲や小型砲の方が脅威だと考えたのでは?」


「そうだとは分かっていてもだな……。まぁいいが」


「そろそろ第二次爆撃進路開始地点に到達します」


「分かった。左に旋回せよ。爆弾投下要員、しっかり掴まれ。爆弾投下用意も怠るな」


「了解。爆弾投下用意」


浜綴海 煤羅射帝国海軍第一太平洋艦隊旗艦 戦艦アドミラル・ウーソワ


「敵飛行機反転!こちらに向かってきます!」


「どうしますか?艦長」


「どうするもこうするも……奴らを迎撃するほかあるまい」


「了解しました」


「敵飛行機、再び爆弾と思われる物体を投下しています!」


「全艦に通達!迎撃をしながら回避!」


「了解!」


そして再び、煤羅射の艦隊に爆弾の雨が降り注いだ。


「損害を報告せよ!」


「駆逐艦二隻が大破!同一隻が中破!駆逐艦及び、フリゲートに小破多数!主力の戦艦、及び巡洋艦には目立った損害は見られず!」


「それだけの損害なら、まだ敵艦隊と合い見えた時、余裕はあるが……」


「敵の飛行機、退いていきます」


「……進撃を続けろ」


「了解。進路を維持、前進!」


浜綴海上空 空母飛鶴所属 第二〇一任務部隊 戦闘爆撃混成部隊


「敵艦隊、進撃を止めません」


「まあいい。通信士、通信で艦隊に『敵、未ダ交戦ノ意思アリ』と伝えろ」


「了解」


「さてさて敵の船を沈めることはできなかったが、数隻炎上させることはできた。帰ってあの硬い布団の上でとっとと寝るとしますか」


「恐らくもう一度くらいは出撃があると思いますがね……」


「云うなよ……」


浜綴海 煤羅射帝国海軍第一太平洋艦隊旗艦 戦艦アドミラル・ウーソワ


「見張り員が浜綴の艦隊と見られる艦影群を視認いたしました!」


「分かった。残っているフリゲートと駆逐艦を前線に出させ、敵の艦隊護衛の駆逐艦などの対応をさせろ。我々戦艦と巡洋艦は敵戦艦や巡洋艦と交戦距離に入るまで、力は温存しておくからな」


「了解。艦隊護衛艦群、前へ!」


「被害を受けた駆逐艦やフリゲートはどうなっている?」


「大破した艦は戦闘には参加できません。中破した駆逐艦と小破したフリゲートにより、曳航させて戦線から退避させています」


「4隻の離脱か……艦隊護衛艦群の残りはどれほどだ?」


「残り14隻です」


「艦隊は計22隻……敵の数がどれほどかによって、戦線は変わるが……」


「見張り員によると、敵艦の数は計12隻ほどだと」


「それならいけるか……」


「極東の猿どもに、目に物見せてやりましょう」


「そうだな……はぁ……心配して損をしたな」


「艦隊護衛艦群、戦闘を開始しました」


「了解した。敵味方どちらかの戦艦の射程に入ったら改めて報告しろ」


「了解」


浜綴海 臨時緒穂湊所属艦隊 旗艦 戦艦香椎


「敵の艦隊の護衛と見られる駆逐艦、こちらの主砲射程に捉えました」


「了解。主砲用意、撃て!」


「主砲用意……撃て!」


艦隊に轟音が響く。


「初弾、遠遠遠近、夾叉」


「了解した。砲手、そのまま主砲を発砲させろ。戦艦鹿妻に連絡し、同座標に砲撃させるよう伝えろ」


「砲手了解」


「連絡手了解。戦艦鹿妻に繋ぎます」


浜綴海 煤羅射帝国海軍第一太平洋艦隊旗艦 戦艦アドミラル・ウーソワ


「何!?敵の戦艦級はこちらの艦隊護衛艦群を主砲による攻撃を加えただと!?」


「はい。そのようです」


「敵の意図は……護衛の引きはがしか……?こちらの主砲は敵の護衛の駆逐艦群の射程に捉えているか?」


「いえ……ただでさえこの艦は旧式ですし、主砲は更に旧式の物を積んでいます。成国のものと原型が異なるほどの改造は施されていますが、射程、威力共にそこまでの向上を図れているとは言えません」


「こちらの主砲が敵艦隊を捉えるのにあとどれくらいだ?」


「あと5分もあれば、敵駆逐艦群を捉えられるかと」


「なら、そのときまで待つしかないか……駆逐艦等護衛艦群同士の戦闘はどうなっているのか?」


「敵の飛行機からの攻撃で主砲等が不具合を起こしているらしく、全力出し切れていないようです。また、敵戦艦からの支援攻撃もあり、こちらの対処に当たっている駆逐艦、フリゲート等の護衛艦群は不利を強いられています」


「私たちが駆逐艦の船乗りでなくて良かったな……。こちらも主砲に捉え次第、主砲による支援砲撃を行え」


「了解しました。砲手、主砲、射撃用意」


「主砲、射撃用意!」


「主砲、射撃用意良し!」


「敵駆逐艦を主砲の射程に捉えました」


「主砲、撃て!」


「主砲、撃て!」


浜綴海 臨時緒穂湊所属艦隊 空母飛鶴 飛行甲板


「おー、始まったな」


「倉田は暢気だな」


「慌てても仕方ないだろうが。ここは戦場だ。死ぬときは死ぬ」


「新婚一年目の奴が言う台詞じゃねぇな」


「新婚一年目でも使える奴は使うだろ。唐国を超えると言われている列強と戦ってるんだ」


「それもそうか……」


「お前も婚約者はいるだろ?それと少ししか変わらん」


「それは違うと思うが……」


「整備は終わりだ。機関も十分温めた。飛べるぞ」


「そうだな。戦拓隊に後ろからせっつかれない様に出ないとな」


「じゃあな」


「応。……風切隊、出ます!」


そうして、二度目の出撃に向かうのであった。

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