44話 浜煤戦争開戦!
明海八年 1月20日 緒穂湊海軍基地 緒穂湊臨時艦隊(第一航空戦隊)
航空母艦 飛鶴 飛行甲板
「さっむ……」
「冷えるな、相坂」
「ああ。本当に寒い」
「新型空母が完成するまでの間、ずっと飛鶴にいるとは聞いていたけど、まさか情勢の変化でこんなところに飛ばされるとは」
「お前もお前だな、倉田。新型の研究しようとしたところで自分の整備士だからって理由でこんな辺鄙な所に飛ばされるなんてな」
「それは俺が決めたことだから良いんだよ。だがな、紅葉に少し悪いなって」
「何かあったのか?」
「いや、子作りの最中だったし」
「ああ……、そういうことか。成程な」
「はぁ……もしかしたらこっちに配備している間に子供が生まれたりしてな」
「そうなりゃ運が悪かったとしか自分からは言えんな。こっちに来ること自体は倉田が決めたんなら」
「戦争は少ない方が良いけど、これ程多いと色々堪えるな」
「おいおい、実際に戦うのは自分たちだが」
「すまんすまん。でも後方も市民も戦争で疲れるのは同じだぜ。死ぬ危険性が最前線のお前らよりは低いってだけで」
「そりゃそうか……」
「とっととこんな緊張状態なんかが終わって、高須賀に帰りたいぜ」
「まったくだ」
同月 28日 煤羅射某所
「軍の準備は終わったか?」
「はい。皇帝陛下、第一太平洋艦隊はいつでも出撃できる状態にありますし、第二・第三太平洋艦隊、通称バルチック艦隊も成国をはじめとした飛行機同盟国からの妨害があったものの、今のところ順調に航行しているとの報告がありました」
「負けることなど、あるまいな?」
「飛行機を開発したとはいえ、たかが極東の小国。列強である我が国の西と東の主力艦隊が相手をするのです。必ずや、勝ちの報告をしに再びここに参りましょう」
「その言葉、確かに受け取ったぞ」
「ハハッ!」
(軍務大臣はこうは言うが、飛行機のみならず、戦艦の自国産能力さえ浜の国の方が上だと、口には出せないが、そう見えている。……慢心しなければ勝てるとは思うが……はたして)
同日 大浜綴帝国 万京
「バルチック艦隊の“出撃”を確認……か」
「ええ、この状況では、もう開戦は免れないかと」
「はぁ……前の終戦から一体どれくらいの平穏だったのか……」
「三年と半年、といったところでしょうか」
「ははっ。本当に短すぎて笑うしかないな。前の時もそうだったが、あれは浜唐戦争の前半と後半に分けたようなものだったが……」
「と、いう訳でして、陛下には詔勅を出して頂きたいと」
「分かった。書いておく」
「どうか、お願い致します」
2月8日 極東煤羅射 バスト―シナヤ・ジミリア港(和:蓮都品野染里:略称:蓮都)
バストーシナヤ・ジミリアは、軍民共用の極東煤羅射最大の港街であり、煤羅射太平洋艦隊が存在し、フョードル大帝湾の中央に突き出す、ベクマン・シチェルビナ半島の先端にある。
「最後通牒……ねぇ」
「極東の小国が、列強のこのメラシアに、一体何を仕掛けてくるっていうのか……」
「さぁな。とりあえず、あいつらが仕掛けて来たら、俺たちが相手をするってことだろ?あーやだやだ。国は負けなくても、最前線の俺たちは死ぬ可能性自体は十分あるってのに」
「馬鹿野郎!上官にでも聞かれたらどうするんだ!お前は兎も角としてもだ、俺まで処されかねないぞ!」
「どうせ聞いてなんかいねぇよ、上官は。それこそ浜綴の連中が仕掛けでも来ないと……」
「お前は本当、楽観的で良いよな」
「そりゃどうも」
「褒めては……あれ?」
「なんだ?」
「今日はこのあたりで漁でもしてる漁船ってあったっけ?」
「馬鹿言え。警戒体制だぞ。居るとしたら違法漁船くらいだろ。というか、この状況で海に出ようなんて思うか?」
「じゃあ、あれはなんだ?」
「あれ?」
「あの子船だよ」
「ありゃぁ……?もしかして、あれ……」
一人の煤羅射の兵士が“それ”について言おうとしていたとき、港に轟音が鳴り響いた。
「駆逐艦が!」
一隻の駆逐艦が、大きな水柱と共に、急激に傾いた。
「やっぱりあれは魚雷艇だったか!」
多くの歴史家が、この日を浜煤戦争開戦の日とした、蓮都急襲であった。
この翌日の9日、蛮逃半島という小さな半島の西側にある、西河港にある煤羅射の巡洋艦を攻撃、撃沈し、事態はより開戦へと進み、さらにその翌日10日、浜綴の「帝」が、『煤国ニ対スル宣戦ノ詔勅』が詔勅され、遂に煤羅射と浜綴は戦争状態になったのである。
この詔勅に於いて、広連の保全を脅かされたことを理由に宣戦を布告している。
また浜綴が送った宣戦布告を煤羅射帝国は受託、バルチック艦隊および太平洋艦隊を浜綴に対して正式に浜綴に対抗する部隊として、命が下されたのである。
またこれに際し、ツェティニェ公国も煤羅射に続けとばかりに浜綴に対し、宣戦を布告した。
浜綴に於いても、煤羅射の属国でもあり特殊な自治区である、蛮逃半島の地域の中でも最大の港、流津港と流先港を機雷による海上封鎖に向け、群鶴から艦隊が送られることとなった。
この日より、両国家が正式に、戦争状態へと突入したことになる。
同年 2月18日 緒穂湊海軍基地 臨時緒穂湊所属艦隊 空母飛鶴 飛行甲板
「さーて、とっとと終わらせてやるとしますか」
「慢心するなよ、小川。情報だと、煤羅射には飛行機があるらしい」
「分かってるって。伊達に相手はだだっ広い領土を配下にしているだけの列強の帝国じゃないってことは」
「そうか……」
自分たちは今、繰鈩諸島を防衛するために、極東煤羅射最大の軍港、蓮都品野染里、略して蓮都と呼ばれる軍港に向かい、その軍港と艦隊を撃滅しに行く。
「……」
しかし、今回は唐国と戦争をした時と違い、えも言われえぬ不安感を感じずにはいられないのであった。
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