4話 浜唐戦争開戦
明海元年 8月
時は少し遡る。
唐 首都 燕京
「それにしても、最近は雄州の列強国共が、港で好き勝手しているようだな」
「ヤツらは蒸気船を自ら開発したという自負があるのだろう」
「羅針盤に火薬は一体どこの国が作ったと思っているのやら」
「これは少し、見せしめねばならんな」
「なら、浜綴はどうか?他の近隣の小国は小さすぎる。彼の国は周辺国では大成帝国領は音打の成会矛のやつらよりは弱いが二番目には国力はあるだろう」
「大成帝国には阿片でお世話になって、何れ返してやらんといかんが、それは今ではないということか」
「まあ、あの国は本当に狡賢いからな。もっと準備が必要だ」
「そして、浜綴への侵攻はその足掛かりとなるだろう」
「では、海軍を用意しておこう。大成帝国から買った12隻と、我が国が作った蒸気砲艦3隻を全て投入しよう」
「それだと海賊からの沿岸警備が手薄になってしまうのでは?」
「なぁに、そんなのは帆船でもできる。それに、すぐに片が付くさ」
「彼の国も大成帝国から蒸気砲艦を買っていなかったか?」
「買っていたのは海跳と呼ばれる型の船が2隻、さらに独自に作ったとされる皆取、藤型の4隻の計7隻だが、内通者の話によると、新たな戦艦が配備されているとか」
「ほう……どのような?」
「どうやら監視用に飛べるようなものを装備していると。砲の大きさは通常と」
「気球を飛ばして偵察のための高さを稼ぐ、か。一応脅威として捉えておくか。数は?」
「4隻ほどかと」
「成程、分かった。それでは、戦争の用意をしようか」
同年9月12日 太平洋 航行艦隊
「つまり、唐国の海軍、東海艦隊及び南海艦隊は現在、西海道本島にある、広崎県瀬保海軍基地に向かい、瀬保基地所属艦を沈めたのちに西海道本島に上陸する予定らしい。これに対し我が海軍は、瀬保基地所属艦隊に加え、城都府は群鶴基地所属艦隊、厚島県は浦呉基地所属艦隊、そして本日の演習を終了した、海軍本部直属の我ら航行艦隊が対応に当たることとなった。我らにとって、帝國となって初めての戦争だ。そして敵は大国唐国、強敵であり、艦も強くはあるが、唐国海軍は砲を物干し竿代わりに使ったり、昼間から酔って問題を起こすなど、水兵の練度や風紀は高いとはいえず、我々が勝利するためには日々の訓練で培った経験を活かすことが重要となる。では終了!船を回頭させ、瀬保海軍基地に向かう!航空要員も一応用意しておけ!飛行機の使用許可も出ている!最後に、明日のこの時間には瀬保の海域に到着しているだろう。場合によっては瀬保海軍基地が堕ちている可能性も考えられる。心して掛かれ、以上!」
その言葉で、皆が小走りで戦闘配置に付いた。
同日 浜綴海 瀬保海軍基地近海
瀬保基地所属艦隊 旗艦 藤型戦艦二番艦箱立
「艦長、大丈夫でしょうか……」
「何、気にすることは無い」
「しかし、この艦を含めても、戦力になる戦艦2隻、蒸気砲艦2隻の計4隻のみです。帆船砲艦を加えても8隻ですし、それに対して敵は全力出撃を掛け、蒸気砲艦5隻、戦艦10隻の計15隻の大艦隊です。今の我々には手に余る戦力かと」
「我ら以外にもほか海軍基地から援軍を寄越していると聞いただろう?我々はそれらが到着するまで足止めをしていればいい。出来れば敵の戦力を大幅に減らしておきたいがな」
「はぁ……」
「気球観測監視員が敵艦視認!最大射程に入るまでおよそ15分!」
「分かった。初弾を発射後、取り舵一杯を取れ」
「艦長、それにはどのような意図が?」
「初弾は只の虚仮威しだ。そして逃げたと見せかけ最大火力の出せる横っ腹を見せる」
「それだと被弾が多くなるのでは?」
「今までの戦法であると、砲は半分しか使えないが、こちらは半分以上使える。それに、敵に倒される前に倒すための戦法だ。一度逃げたと思った敵が最大火力で迎え撃ってきたとなれば、驚くはずだろう。敵はこちらより早く砲艦類を手に入れたが、そのせいで機動力や速力が劣る。我々はそこを突く」
「そう上手くいくでしょうか……」
「ま。やってみるしかないな」
……。
「敵艦、効力射程に収めました!」
「発射!回頭準備!」
「発射!」
「回頭準備!」
「艦砲、唐国の戦艦一隻に命中!火災が発生している模様!」
「幸先良いな。この調子で行くぞ!」
「「「応!」」」
唐海軍 旗艦 趂遠
「撃て!浜綴のヤツらめ……この大唐帝国を虚仮にしおって!絶対に全ての船を沈めてやる!」
「浜綴の軍船、取り舵を取ります!」
「逃げる気か!?」
「恐らく、しかし……」
「ハッハッハ!!他より程度大きいとは言え所詮は小国!恐れるに足りんわ!陸に上がったときには全てを蹂躙しつくしてやろうぞ!進め!全速前進!」
「はっ」
「他の敵の軍船も、各砲一発ずつ撃った後に最前の船に従って取り舵を取るようです」
「ヤツらのことは良い。ヤツらの港にいる船をなぎ倒し、上陸する。ヤツらが逃げたことは最早どうだっていい。他に被弾した我ら海軍の船もないのだな?」
「はい」
「ならいい」
「分かりました」
「それより速度はこれ以上上がらんのか!」
「最大船速ですよ、艦長!」
「船は馬より速さが感じられんからこういうところが嫌だな。敵の軍港まであとどれくらいだ?」
「あと3時間程で着くかと」
「はあ、全く、敵の手応えがこうもないと暇だな」
「そうですが、船員の負担も減ります」
「暇で暴れなければいいがな」
「……ん?」
「どうした?」
「敵の軍船、去って行ったと思っていましたが、方向を転換してこちらへやってきています」
「何?」
「あれは先の気球と同じ物、つまり最新のもので、こんなに早く来られるのは去って行った彼らしか在り得ないかと」
「そうか。島国の連中の考えはさっぱりわからん。そんなに上が怖いのか?」
「逃げようとする司令を殺して水兵が反乱し、戻って来たのかもしれませんね」
「そうなら笑いごとだがな」
「もうそろそろ、こちらの射程に収めるはずです」
「敵は横から来る。動いていて当てにくいが、当たれば一撃で沈められる確率が高いし、的自体は大きい。敵はこの船よりも多少速度と旋回半径が小さいことを活かしているつもりらしいが、こちらが撃つこと考えてはいないらしい。若しくは馬鹿にしているか、だな」
「それは許せませんね」
「敵艦再び発砲!」
「ふん、まだ戦う意思があることは確かだな。こちらも最大射程に入り次第撃て!」
「了解!」
「最大射程に入りました!」
「撃て!艦前方にある全ての砲を浜綴の船に向けろ!」
「撃て!」
「全弾、敵の向こう側に落ちました!」
「砲仰角を下げ、急いで装填しろ!敵を滅ぼすために全神経を注げ!」
「敵艦砲、至近弾!」
「問題ないだろ!怯むな!自分の仕事を全うしろ!」
「敵の初弾に被弾した戦艦劉遠、火災を抑えられず、火薬庫に日の手が回り、誘爆したようです!劉遠の継戦は不可能である模様!」
「それがどうした!たかが戦艦一隻行動不能になっただけだ。敵はたった四隻で、我らは十四隻、圧倒的に有利であることに変わりはない!敵を沈めるために撃ち続けろ!」
「撃て!撃て!」
大浜綴帝國海軍 瀬保基地所属艦隊 旗艦 戦艦箱立
「砲艦巻留被弾!」
「唐国の海軍艦、一部回避行動をとっています!」
「回避しない船から撃て!当てられる船を先に沈めろ!」
「了解!」
「敵艦二隻に命中!」
「その調子だ!このまま撃ち続けろ!」
「こちらの損害はまだ小破一隻、向こうは行動不能一隻に中破一隻、小破一隻。いける、いけるぞ!」
「敵艦が後部副砲有効射程に入りました!」
「後部副砲砲門開放!撃て!」
「唐国の軍船は旧式で、船上に存在する殆どの砲が前方にある、そろそろ回避した艦が攻撃不可能になる。行動不能艦以外の攻撃不能艦に目標を変更して撃て!残りは砲艦に任せろ!」
「了解!目標変更!目標は行動中の攻撃不能艦!」
「再照準設定完了!」
「撃て!」
「撃て!!!」
「近近遠遠、夾叉、効力射!」
「了解!目標変更なし、撃て!」
「砲艦弥隠に至近弾!」
「向こうもやるな……」
「敵艦群、こちらへ集中砲火!衝撃に備えてください!」
「何だと!?」
唐海軍 旗艦 趂遠
「敵軍船一隻に命中!命中したとみられる敵軍船の一隻、砲撃が大幅に減っています!」
「この調子で他の軍船も沈めるぞ!」
「分かりました、砲撃を続けます!」
「そうだ!砲撃をしながら進め!」
やがて日は沈み、夜戦へと移行する。この日の戦いで、唐国の軍船の多くを沈めたり、行動不能にしたりすることが出来たが、浜綴の瀬保にある新鋭かつ唯一の戦艦を失い、残りの砲戦艦三隻の内、二隻が小破してしまう。
しかし、浜綴の数少ない救いとして、やはり多くの唐国の船を行動不能にしたことと、そして援軍が到着するまでに、敵艦の足止めをすることが出来たという点であろう。




