39話 二人の男と新技術
明海六年 11月29日 海軍技廠
「って言っても、コレ、学会でも評価されてないでしょ?それに、陸さんの方に先に持って行ったんですよね?」
「え、えぇ……そこでも評価されず……」
「まぁ、陸の方に否定されたらこっちに来るっていうのは分かりはしますが……」
「えぇと……」
「卯木さんに、矢田さんでしたっけ?」
「は、はい……私が卯木です……」
「私が矢田です……」
「仕方ないですが、うちもそこまで金がある訳でもないのでねぇ……敵に知られるかもしれない索敵装置としてなんて、とても使えるものではないですよ。見つかったら負けですし」
「そう……ですか……」
「ま、新しい物好きの変態共がたくさん居る、浜綴航空技術研究所、技研にでも持っていったらまだ評価されるかもしれませんね」
「は、はぁ……」
「と、いう訳でして、今回は縁が無かった、ということで……」
「いえ、お忙しい所、お時間を頂き、有難うございました」
「本日は有難うございました」
「いえいえ……。まぁ、向こうでも採用されるかについては保証はできませんが、一応紹介状くらいは差し上げましょう」
「は、はぁ……どうも……」
「有難うございます……」
帰り道
「結局、海軍技廠でも駄目だったか……」
「学会で駄目、陸技でも駄目、海技でも駄目。もうこの研究も止めてしまおうか……」
「はぁ……。若しくは、いっそのこと考えを変えて、雄州で一発やるか?」
「それも良いかもなぁ……ハハハ……」
「浜綴航空技術研究所……ねぇ……」
卯木と名乗った男が紹介状を眺める。
「確か、政府の組織だっただろ?どうせさっき以上にお堅い役人どもが居るんだろうさ。行っても無駄だよ、どうせ」
「でも新しい物好きってさっきの人は言っていたぞ」
「バッカお前、それは多少の希望でも持たせておこうっていう同情心で言ったもんだよ」
「そうか……でもまぁ、どうせ無駄なら紹介状がある分、敢えて一応行ってみるか」
「本気か?」
「本気だ。技研は政府か軍の紹介状が無かったら、出入りさえ禁じられているらしいから、一度行ってみないと、紹介状が無駄になっちまう。それで駄目だったら、諦めるか、それとも雄州に行くか、また別の選択肢を取るのか決めよう」
「そうだな。駄目だ駄目だと言われて、これで採用されたら、切ったあいつ等に国内で目に物見せてやれるしな!」
こうして、二人は浜綴航空技術研究所に行くことにしたようである。
翌日 11月30日 浜綴航空技術研究所
「成程、新たな索敵装置として、ですか……ですがうちも、マグネトロンと言われる、北銀で生まれた索敵装置に出来そうな技術の開発を行っておりましてね……」
「そう……、ですか……」
「親か……槌田部長、今良いですか?」
「無理だ。この通り客がいるんでな。……すいませんね、うちの若いのが」
「いえいえ……」
「そうだ倉田、これについてどう思う?」
「これは……なんですか?」
「このお二方が持ってきた、新しい索敵の技術の一つらしい」
「はぇー……。成程、分かりません」
「分かるか分からないかを聞いてるんじゃない。これをここで開発するかどうかだ」
「別に良いじゃないんですか?」
「とはいえ今は、北銀からの新技術の解析、開発に忙しいはずだけどな」
「この技術、雄州に広く出回っているんですか?」
「いえ……ハハハ……認められなくて、ここでも認められなかったら、雄州にでも売り込みにいこうかなとは考えてはいますが……」
「なら、尚更、ここで開発させた方が良いんじゃないですか?」
「何故だ?」
「何故って……そりゃ、雄銀に先手を取ってこの技術を手に入れることが出来るんでしょう?なら浜綴で独占した方が良いじゃないですか?それに、北銀の新技術は、ここだけじゃなくて海技や陸技でも開発しているんでしょう?なら、しばらくは、そっちの大部分は彼らに任せて、俺たちはこの技術を解析、開発したら良いんでは?完全な同時進行は新型航空機案もあって無理だとは思いますが、一旦マグネトロンの研究は事実上の一時停止でも良いんじゃないかと」
「そうか……それもそうだな」
「な、なら!」
卯木という男が席から立ち上がる。
「まあ、こちらも上に打診しないといけませんが……もし良ければ、ここで開発してみませんか?付属か所属になるかは分かりませんが……まあ最低でも、望めば付属にはさせますので」
「あ、有難うございます!」
「有難うございます!」
「まあ、今すぐには無理なので……そうだな、では一週間後の今日、また来て頂けますか?」
「はい、勿論です!」
「宜しくお願い致します!」
この後、哨戒機、偵察機、防空索敵装置の研究の一環として、浜綴航空技術研究所はこの技術の研究を行うこととし、また二人はこの分野の第一人者として、浜綴航空技術研究所の、“所属”の研究者となったのであった。
明海七年 3月6日 とある居酒屋
「それにしても矢田、まさか俺たちが政府職員とはな。驚きだ」
「半年前の俺たちに言っても、絶対に信じないだろうな」
「この3か月、本当に濃密だったな。人生の中で一番濃くて長い3か月だった気がするな」
「ああ。俺たちの技術が疑問視されて、結果を出すために三四式対空索敵装置に、それを小型化して乗せた積雲改、そして今はさらに小型軽量化したものを載せる偵察機の索敵装置を開発している一員だしな」
「飛行機にさえ使われる新技術を開発する技術者か……正に最先端の技術者だな」
「ハハッ……本当にな……。でもさ卯木よぉ、その最先端の政府職員の技術者がさ、店主にゃ悪いが安居酒屋で呑んでいるのはなんでだ?」
「俺は家を買おうと思ってるから、あんまり出費したくないんだよ。それに、支えてくれた嫁さんと、仕送りしてくれた親に恩返ししたくてな」
「かぁーーーーー!親思いで愛妻家気取りのつもりか?給料は自分の為に使おうぜ?」
「家を買いたいっていうのは紛れもなく、俺の為なんだがな」
「そうかいそうかい、分かった分かった……。ま、お前が家の一つでも建ててひと段落したらもっと良い店でぱぁーっと行こうぜ」
「分かったよ……ってか、お前はそんな高い店を楽しむ性分じゃないだろ」
「そうだが、偶にはいいだろ、偶にはよ」
「まぁな」
「ま、何はともあれ、これからも頼むぜ」
「応よ、任せろ」
同日 ほぼ同刻 浜綴航空技術研究所
「あの二人を入れたのは正解でしたね」
「ここに推薦した海技はおっかなびっくりといった具合らしいがな」
「親方も初めは二人を受け入れるつもりはなかったくせに」
「ハッハッハ、そこを突かれると痛いな」
「兎も角、飛行機と対空索敵装置、電波探知機に於いては我が国が他列強すら凌駕し得る力を得たのは、とても大きいですね。雄州に行かせなくて良かった」
「もし行かせていたら、この技術を浜綴が知るにはかなりの時間が掛かっていたかも知れないからな。引き留めてくれた倉田には感謝だな」
「もっと感謝してもらっても良いんですよ?」
「少しは謙遜しろタコ」
「へーい」
「それより、次の電探搭載偵察機の計画は順調か?」
「機体開発は順調ですよ。それに、あの二人が今行っている電探の小型化も順調なようですし、初飛行にも検収にも遅れることは無いと思いますね」
「そうか……なら良いか……。それはそうと倉田」
「何です?」
「整備に開発に忙しいと思うが、しっかり食って、しっかり休んでるか?」
「大丈夫ッスよ。それなりに休んでますし、整備も開発も好きですしね」
「そういう仕事馬鹿なところを心配してんだよ、俺は」
「ま、最近開発続きだったんで、次の機の初飛行が終わったら、しばらく休暇をとることにするッスよ」
「頑張りすぎんなよ」
「へ~い」
彼らは暢気に話すが、確かに、主に倉田の御蔭で重大な技術を浜綴が逃してしまうことを防いだのであった。
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