38話 新年度と転学
明海七年 1月12日 相坂家
「そういえば、アイナは来年……というか、今年……か。進学はどうするんだ?」
「……?」
「あー、ご飯食べてからで良いよ?」
進学となれば、あと二か月程度でどこに行くのかを聞いておいた方が良いのだろうか。
というか、成会矛の教育制度はどうなっているんだ?
「進学ハ、浜綴のコートー女学校ニ行こうト思ってイマス」
「え?なんで?」
「ソンナノ……慎太郎サンの妻ニ成る為ニ、浜綴の文化ヲより良く理解するにはソノ方が良いかと思っテ……」
「あ、あぁ……成程……」
しばらくの間、なるべく傷つけないように、心が離れるように色々試したが、効果は無かった様である。
それ以上に、逆効果だったような気がしないでもない。
「慎太郎サンは、ドウシテ半年以上も先のコトヲ、聞いテキタノデスカ?」
「え……?半年以上先?」
「エ?」
この後アイナと話し合ってみると、どうやら成会矛の教育制度は9月頃が年度の切り替え時期らしい。というか、雄州の殆どの国家は9月頃で年度の切り替えが行われるらしい。
まあ、それは良いとして。
「となると……アイナの年齢なら、中途転学、若しくは転校ってことになるね。浜綴の学校は4月が年度切り替えの時期だから、浜綴の高等女学校の一年が始まって半年弱経っていることになるし」
「ソウデスカ。少し混乱シテ、不安にナリマシタが、ホッとシマシタ」
アイナの父、エリックさんが後のこの話を聞き、驚いてはいたが全くの反対もせずに話を進めたため、どうやらエリックさんは婚約の話を特段嫌だとも感じていないようである。
……同棲の時点でそんな気もしてはいたが。
そうして、手続きが進み、本当に浜綴の高等女学校に入ることになったらしい。
同年 6月8日 相坂家
今日の軍役を終え、家に帰る。
「只今帰りました……と」
すると、トトトと足音を立て、彼女が自分の前に現れた。
「オカエリナサイ!慎太郎サン!」
「えぇと、その服は……」
「ハイ!これが戸部県立高須賀高等女学校ノ『セーフク』デス!」
玄関に現れたアイナは、落ち着いた灰色の袴を穿き、水平服を思わせる、白地に紺の二本の線の刺繍が入った半袖の上衣を着て、足には白足袋を履いていた。
どうやら今日転校する女学校の制服が届いたらしい。
「どう……デスカ?」
「あぁ、似合ってるよ」
「あ……アリガトウゴザイマス!」
そしてアイナが抱き着いてくる。
「少し、はしたないかな……」
「す、スミマセン!」
「別に家の中だから良いけどね……それに臭いが付いてしまうかも知れないし」
アイナの肩を持ち、優しく離した。
最近、アイナの体が女性らしくなって来ているため、少し緊張してしまう自分がいる。
以前は抱き着かれても、特に何も感じなかったのだが、第二次性徴に差し掛かってきているのが分かる通り、体つきは丸くなり、胸も密着していれば多少感じられるほどには膨らんできている……気がする。
「デハ、慎太郎サンにも見せるコトがデキタノデ、元の服に着替えてキマス」
「あ、あぁ……」
時々見せる朗らかさの中の妖艶さに、多少惑わされる。
ここまで仲良くもなったし、それにフレーザー家の跡取りとしてケイもいるので貴族関係の柵も少ないだろう。
さらに父親のエリックさんも多少乗り気なところがあるので、悪い気もしないが、やはり年齢のことを考えると、一考するところがある。
以前のように頑なに否定することはないが、やはり年齢差は考えるべき事柄ではあるはずである。
自分の中でそれらの葛藤が渦巻く。
……。
暫く考えてみたが、今は答えの出せる時期でもないと判断した。
女性が結婚可能な年齢は数年前から変わり、現在は16歳となっている。
あと4、5年は待てるので、それまでに自分の中で決心しなければならないな。
同年 9月1日 相坂家
「デハ、慎太郎サン、行ってキマス!」
「ああ、行ってらっしゃい」
「イッテラッシャイマセ、オ嬢様」
今日はアイナが、新たな学校、高須賀高等女学校に初めて行く日である。
それを自分とハモンドさんで見送りをする。といっても玄関までだが。
自分はこの後すぐに仕事があり、ハモンドさんが付いて行こうか聞いたところ、一人で大丈夫だと言っていたのでその通りにする。
この辺りの治安は良いのでその通りとした。
既に手続きは済ませてある為、アイナは学校に行くだけで良いらしい。
暫くして、自分も家を出る。
「大丈夫かな……」
思わず心配が口から漏れる。
通学路は治安が良く、そして以前より他の学校にも、交換留学ということで、こちらの学校にも人が来たことがあり、そこで重大な事件は起こっていないと聞くが、それでも多くの異文化の人々と触れ合うため、そこそこの心配はしてしまう。
「あ」
そこでもう既に自分の心の一部にアイナが居着いてしまっていると自分を俯瞰してしいまい、少しの照れが出てしまっていた。
「まあ、アイナは幼いし、親しくもなったし、赤の他人とも言わない位にはなったから、心配してしまうのは当たり前だな」
と、言い訳を自分に言い聞かせる。
「……、はぁ……」
そこで新たな制服に身を包み、抱き着かれ、小さくも確かに存在した柔らかな感触を思い出してしまい、罪悪感に抱かれるのであった。
「どうした相坂少佐」
そこで自宅通勤である生機大尉と鉢合わせする。
「いえ……まあ生きていたら溜息の一つも吐きたいことはありますよ……」
「……?……そうか、まぁ、お疲れ様です?」
「ハハハ……」
その気遣いに、愛想笑いの様な、苦笑いを浮かべるしかできないのであった。
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