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凪の中の突風  作者: NBCG
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37話 浜綴航空技術研究所

明海六年 2月14日 空母飛鶴 第一会議室


この日、上官から新たな配属?命令が下された。


「風切隊全員、新年度から、現在配属している、第一航空戦隊、飛鶴所属はそのままに、新年度から新設される、『浜綴航空技術研究所』付属になってもらう」


本当に突然の出来事であった。


浜綴航空技術研究所。


略称は浜綴空技、若しくは単に空技、技研である。


成語表記で“Hintey Air Technology Institute”となる。


ここは、現在『海軍技廠』及び『陸軍技廠』と呼ばれる組織の中でも、航空部門に携わっている人間が、新たに配属される、政府の組織である。


そう、『政府の』組織である。


また、自分たちの様な試験飛行に数多く携わった操縦士、また丸菱など企業の航空部門の技術者の中の、さらに政府に認められた者達だけが立ち入りを許可される、つまり先ほど自分たちが上官に言われた、“付属”となるらしい。


どうやら倉田も“付属”となるらしい。


倉田は配属を志願すれば配属されたようだが、配属ではなく付属を望んだのは、「相坂の機体の整備が出来ないなら、どこにでも行きません!」と、宣言したからであるらしい。


まあわざわざ俺の為に止めたくないとか変わっているが、そもそも操縦士との話で良い航空機開発の案も出て来るらしいので、まあそれでも良いのだろう。


政府の組織であるがため、技廠に居た時よりも給料は格段に上がり、付属となる自分たちも、結構な額が現在の給料に増額される。


付属であるので増額分は恒久的に出るのではなく、試験飛行など、研究に携わったときのみではあるが。


政府主導ではあるが、軍民、陸海問わず先進的な航空機の研究を行うために組織されたのである。


2月23日 どこかの居酒屋


「そういえば、変な組織ができたもんだな~」


「まあ、技術者を一点に集めて、よりよい開発環境で開発させるのが良いって考えたんじゃないか?」


「それは分かるんだがな」


「なら何だ」


「その先だ」


「その先?」


「何が作りたいのか、何を飛ばしたいのか、何を研究したいのか。何をしたいかが今のところ定まってない」


「成程な。まあでも、倉田がやりたいことを研究して、作って、飛ばしたらいいんじゃないか?」


「……それもそうか……。そうだな」


「……怒られない範囲で」


「そんな俺がいつも起こられているような言い方……」


「飛行艇と戦闘機は?」


「……それとこれとは別だと思う……よ?」


「自分は取り敢えず、倉田の作る戦闘機を待ってるよ。旋風の耐用年数は天風の比じゃないらしいからな。せめて旋風の耐用年数がくるまでは」


「はいはい!分りました!開発します!すぐに作り上げます!」


「別にそこまで責めてはないんだがな……。……本当のところ、飛行艇と戦闘機の開発はどうなってんだ?」


「飛行艇は試作機の段階までなんとか作った。あと二ヶ月もすれば試作機が飛ぶと思う。戦闘機は……まだ計画自体もまともにできてないからな……あと一年か二年くらいは掛かりそう……」


「そうか。まあそれほど待つんなら、待つだけ良い戦闘機が出来ていることを期待しておく」


「またそうやって圧を掛けてくるよなぁ……相坂は」


その一か月後、初の飛行艇が飛び、離水時の不安定性という欠点は持つが、離島など、飛行場が建設できない場所に於いて高速な輸送・旅客ができると考えられ、更にその2か月後に採用に至り、飛行艇の初飛行時から次世代戦闘機計画が始動し、戦闘機の開発が進んで行くのであった。


5月25日 再び居酒屋にて


「お疲れ、倉田」


「応。これでやっと戦闘機に本腰を入れられる」


「そういや、次の戦闘機の要件はどうなっているんだ?」


「相互音声電信技術は確定だな。あとは、航続距離の延長、武装の強化、派生機への余地」


「派生機への余地って?」


「爆弾を積んで戦闘爆撃機にさせる案とか、二人乗りにさせて偵察機や練習機にさせる案とかを政府とか軍が考えているらしい。ま、言ってて難しそうだが、派生機能はそこまで要求されていないから、ざっと簡単なもんだけどな」


「空技ではどうなってんだ?詳しいところ」


「今までとあまり変わりがないんだよな、技廠にいた時と」


「変わったところは?」


「陸の連中や民間の連中、政府の連中もいるから会議の三回に一回は大荒れになるってところだな」


「それは……ご愁傷さま」


「まとまって研究するには戦闘機開発がひと段落してからだな。元々陸にいた奴は陸用の戦闘機と爆撃機を開発しているままだし、政府の連中は政府専用機の拡張に執心しているし、民間の連中は必死に飛行機の勉強をしているから、それらも終わらないと空技がひとまとまりになって次に、ってのはそうそう行けないよな」


「そうか……」


「まっ、頑張って新型戦闘機を早く仕上げるようにはする」


「応。期待してる」


「お前いつもそれ言ってるな」


「いつも期待しているからな」


「そりゃどうも」


「期待に応える様な戦闘機を頼む」


「それは流石に知らん。何せ初めて知らない奴らと共同開発をするんだからな」


「そうかよ」


そしてこの後、陸軍技廠が陸軍初の飛行機にして、陸軍用戦闘機、栃風とちかぜを完成させ、丸菱は航空母艦発着艦実証機、御鷹みたかを完成させた。


そして海軍技廠は……


11月2日 高須賀海軍基地飛行場


「こうやって試験飛行に来るのは久しぶりだな」


「相坂たちが試験飛行に関わっていたのは水上機の試験が最後だったっけ?」


「そうだな、もう一年くらい経つか。他は戦拓隊の奴らがやってたっけか」


「ああ。もう大型機の試験は戦拓隊が担当しているよな」


「にしても、これ、新型戦闘機の案だろ?案外早く完成したな」


「複葉機の旋風から単葉機に変わったとはいえ、機体の2割くらいは流用しているからな。胴体から後ろの部分」


「で、諸元は?」


「それじゃぁ、もう説明しておきますね。今回試験飛行してもらうのは、新型戦闘機、谷津風やつかぜ……か、おろしか、東風こちか、南風はえか、春風はるかぜか……今海軍技廠じゃこれで大揉めしているところだな」


「……なんで?」


小川が素っ頓狂な声で訊いた。


「俺が推している谷津風は始めが『や』から始まっているから縁起が悪いとか言われて、颪は『堕ちる』を連想させるから縁起が悪いとか、東風は語呂が悪いとか、南風は『蠅』と同じ読みだから悪いとか、春風は船の名前と被りかねないとかで、とても揉めているんです。まあいい案があれば皆さんからも発案してください。それに決まるかも知れません」


「へ、へぇ~……」


聞いた割には、小川はさほど興味が無さげであった。


「で、重要な諸元ですが、武装は天風、旋風と同じ、二八式航空機銃が一門のみ、さらに開発されて、威力が上げられて、少しだけ弾詰まりが起こりにくくなった、三三式航空機銃が一門付けられました。二八式の口径が7.7 ミリでしたが、これ自体は変わってはいません。最高速度が旋風より毎時50 キロメートル程速くなっていて、毎時400粁となっています。航続距離が、機体比率が大幅に改善されたことでこれも向上し、旋風が800粁強くらいだったのが、こちらでは増槽付きで1200粁程にまで上昇しています。馬力は、機関が旋風にも搭載されているものの改良型で中村飛行機のもので500hp強程度。追加武装で三号爆弾(30㎏)が二発か五号爆弾(50㎏)が一発搭載可能です。複座にして練習機にする計画もありますが、今のところは単座で、という形になっています。勿論、相互通信可能な通信機が搭載されています」


「今回の試験はどのような条件で行うんだ?」


杉大尉は尋ねる。


「最重武装である、最大燃料、三号爆弾二発、機銃弾最大量を以って試験をしてもらうッス。それで、通常離着陸、発着艦試験、航空射撃試験、通信試験を行ってもらう予定ッス」


「今日は一機だけにしては少し多いな」


「まあ色々あるからな。仕方ないと思ってくれ」


前々から思っていたが、倉田、自分だけやけに馴れ馴れしいな。


同期の小川でさえも、ある程度丁寧な言葉遣いだが、小川より一応地位の高い自分に仕事上でタメ口はどうかと思う。


一応、仕事だしな。


後で話くらい、付けておくか。


取り敢えず、今は飛行機の試験か。


上空


中々に上々な機体だ。


天風から旋風に変わった以上に進化していることが伺える。


軽快な運動性。


これで計60㎏の重りを搭載している機動だとは思えないほどだ。


そして、更なる機銃の使いやすさ。


何よりこちらから通信できるというのは良い。


機体を揺さぶってでしか応答出来ないことに比べると、これは非常に自由度があるからな。


この機体なら、例え列強の飛行船ですら、何とかないそうな気がする。


根拠はないが、それほどの気持ちにさせる、良い機体であった。


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