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凪の中の突風  作者: NBCG
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35話 競合

明海五年 3月2日


「ふぅ……これで大分燃費が抑えられたんじゃないか?」


「やっとできましたね、倉田先輩」


雛祭りが明日へと迫るその日、新型機に四発搭載される機関の開発が、順調に進んでいた。


バァン!


すると、戸を勢いよく開く音がした。


「おい、お前ら!大変だ!」


「ど、どうしたんですか親方!」


「親方って……まあいいや今は、取り敢えずこれを見ろ!」


珍しく親方と言われて槌田整備部長が怒らなかった。


親方が持ってきたのは夕刊の新聞だった。


そして、そこに書かれていたのは……。


『軍の新型大型機、発の民製機、丸菱の飛行機を採用か!?』


と、見出しに大きく書かれていたのだ。


「これって……」


「まだ噂の域は出ないが、もしこれが現実になるなら、俺たちが今開発しているやつが、不採用になるかもしれん」


「それは手痛いですね……」


「しかも、民製初の飛行機ともなると、政府は企業の勢いや、成長を見込んで、採用する可能性もある」


「どうすれば……」


機関の完成間近となった今、この情報は開発部全員を狼狽させるには十分なものであった。


「いや、まだ道はある」


親方言った。


「と、いいますと?」


「方向性だ」


「方向性……」


「ああ、つまり、飛行機としての特性が違えば、丸菱の奴さんを邪魔せずに、こちらも採用される可能性はあるってこった」


「まあ、それは分かりましたが……互いに大型機だから、どうしても競合してしまうことはあると思いますし、それに、丸菱の飛行機がどんなものか分からないと、方向性を競合しない様にするのは難しいのでは?」


「今考えたばかりだが、俺にはそこそこいい案があってな」


「いい案……とは?」


「新聞を見ると、丸菱が開発しているのは双発の大型機らしい。晴空を原型にした、天馬型の拡張型、改良型といったところだろうな」


「はぁ……」


「そこで俺は考えたんだが、俺たちの四発機を大型機ではない種類にすればいいんじゃないのかって考えたんだ」


「まさか小型機を?」


「いや、流石に四発機で小型機は無理だし、それは燃料槽が積めずに、航続距離が稼げないから、無理だ」


「ではどのように?」


「超大型機だ」


「「超大型機?」」


後輩と声が被ってしまった。


親方はたまに、突拍子もないことをいうな。


「双発機に出来ないことを四発機にさせればいいってだけだ」


「具体的には何を?」


「それは今から考える!」


「「えぇ……」」


こうして、俺と親方と後輩で、案を考える羽目になったのだが、この後一週間になっても、いい案が浮かぶことは無かった。


3月10日


「結局、良い案が浮かびませんでしたね……」


「そうだな。馬力を上げるのも、燃費を上げるのも出来たが、それだけでは流石に解決とは言えないからなぁ……。丸菱の飛行機を潰す訳にはいかないし、困ったもんだな」


「ええ……どうすれば良いのやら。機体の方も殆ど完成しているんですよね?」


「ああ……」


バタン


「あ、親方」


「部長」


「……」


前は怒らなかっただけだが、今回は怒るどころか反応すらしなくなっていた。


「親方?」


「部長?」


親方大丈夫なのか?


「上と話をしてきたんだがな……」


やっと喋った。


「軍の次の輸送機は……」


俺と後輩が、息を呑む。


「丸菱のものに決まったらしい」


「「……」」


思わず絶句する。


「じゃあ、今開発している四発機は……どうなるんですか……?」


「分からん……未定だそうだ……」


打ち切りでは無いだけまだマシだが、それでも不安は拭えない。


というか、次の導入がそこまで決まっているというのなら、計画中止はほぼ決まったも同然なのかもしれない。


「はぁ……」


「「……」」


親方が溜息を吐き、俺たちは押し黙ってしまう。


「取り敢えず……続けるしかないな、開発を」


親方は項垂れながらも、そう言って、自らを鼓舞しているような気がした。


3月29日


新年度が近づく3月の末。


今日も今日とて俺たち技術部は、例えこの機が採用されなくとも、何れ、何かの時の為にこの研究と実績は役に立つのだろうと信じて四発機の開発を進める。


バァン!


そのような、少し暗く、半ば投げやりな空気を醸し出すこの部屋の戸が、久しぶりに大きな音を、その部屋に響かせた。


「お前らやったぞ!」


「ど、どうしたんッスか親方……」


「部長やけに元気ですね……」


「暗いぞお前ら!いいか、よく聞け。俺たちが開発している四発の機関の新型機がな……、採用されたぞ!」


「「え?」」


素っ頓狂な声を出した二人。


「だぁかぁらぁ!採用されたんだよ!俺たちの四発機が!」


「え?……え?」


「それ……ほ、本当ですか?」


俺は未だ、狼狽えていたが、いち早く状況を少しだけ理解した後輩が、親方に聞いた。


「ああ、本当だ!こんなシャレにならねぇ嘘は付くような趣味はねぇからな」


「ち、因みに……何として……採用されたんですか……?」


「聞いて驚け……政府専用機だ!」


「「政府専用機~~~~~~!!!!!????」」


どうやら現在政府専用機として使われている人員輸送機晴空は機能から考えれば小さく、生産・量産を第一に考えられ、その拡張版のような形となる、丸菱の新型機ではその役割は果たせないと考えられ、それより大きい機体を政府が要求したため、四発機が採用される方向となったのである。


「こりゃあ、急いで完成を目指さなきゃならんくなっちまったな!」


「まあ、ほぼ完成しているんですよね、あれ。納入はいつになるんですか?」


「今年の10月末までにはって話だ」


「全然大丈夫じゃないですか……。打ち切られるかもしれなかったとか考えていましたけど、計画としては一応来週初飛行ですし……」


「ま、政府専用機は絶対に納入に遅れちゃいかんからな!今日から引き締めて行くぞ!」


「「はい!!!」」


図らずも、親方が以前言っていた、『飛行機の方向性』が丸菱の新型機と異なった形となり、競合は回避され、新型の四発機の計画が頓挫することは無かったのである。


同年 8月31日 高須賀海軍基地飛行場


丸菱の軍用新型陸上輸送機、遠空とおぞらが制式化して遅れること三か月弱。


この日、政府専用機、また超大型輸送機として、初の四発機が、制式化が行われようとしていた。


ここ、高須賀海軍基地飛行場と、さらに複数の飛行場がこの飛行機の重さに耐えられるのか不安が出てきたため、飛行場の滑走路を広く、そして地盤強化の工事さえ行われるほどである。


そして、特別に、政府専用機ということで、総理大臣である、牧田清守総理がその名前を決めたとのことである。


それが今日、ここで、その名前が制式化と共に発表される。


「そして、新たに決まったこの航空機の名前が……」


総理は薬玉の縄を思いっきり引っ張った。


「それがこの、『浜空はまぞら』となります!」


歓声と共に、大きな拍手が沸き上がる。


今日この日、四発輸送機、浜空はまぞらが制式化されたのであった。

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