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凪の中の突風  作者: NBCG
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34話 技術者としての自負

明海四年 5月某日


「う~~~ん……」


「倉田班長、まだ悩んでいるんですか?」


「あ、ああ」


俺が今悩んでいるのは、次の戦闘機である。


現在、悲しいことに、旧四四艦隊計画で就役した辰飛と辰見には、旋風ではなく、旋風の機関を載せた天風である、天風改が載せられている。


あんなに旋風がボロクソに言われていたので、次こそは何の文句も言われない戦闘機を作ろうと、技術部とその関係者全員が意気込んでいたのは良い物の、その案が未だ出せずにいた。


性能自体は文句なしに上がっているはずなのに、叩かれた旋風は、何が悪かったのか。


「とはいえ、電気関係は専門外だしなぁ……」


己の持つ分野の狭さを嘆く。


「言っても仕方ないですよ」


後輩が慰めてくれるのは良いが、それでは何も解決しない気がする。


確かに通信機の軽量化はその畑の人たちに任せるしかないが、こちら側の人間でも、なにかできるはずだ。


すると、後輩が口を開いた。


「そもそも、翼が二枚である必要はあるんですか?」


「そりゃお前、一枚より二枚の方が安定するし、なにより一枚に不安があっても、もう一枚がなんとかしてくれるって思えるじゃないか」


「それもそうですけど……じゃあなんで晴空は翼が一枚なんですか?」


「そりゃあれは銃を撃って空を廻る訳じゃないし、なにせ発動機が二基もあるからな」


「じゃあなんで発動機一機で翼一枚が駄目なんですか?」


「そりゃあ……それだと、推進器の反動で、機体が回転荒ぶるように回転するからだ」


「それ、本当に回転したんですか?」


「そういえば……そんな実験してなかったな」


「じゃあ、実験してみればいいのでは?」


「どうやって?」


「翼を少しずつ狭めていって、調べればいいのでは?」


「……」


「どうしました?」


思わず俯く。


自分の今までの愚かさに反吐が出るな。


取り敢えず、これで翼が二枚から一枚にすることで、機体の軽量化がなされ、通信の送信機が載せることが出来るかも知れない。


試してみよう。


同年 6月某日 高須賀海軍基地飛行場


「飛んだ……」


「飛びましたね……」


因みに、飛んでいるのは相坂である。


もしかすると機体が非常に回転するかもしれないと言ったら、露骨に嫌な顔をされたが、彼が死んで俺が死ぬまで相坂の死霊に恨まれるようなことはなくて良かった、ということが、目の前で実証機と相坂によって証明、実証されている。


俺は多少の感傷に浸っているが、隣の後輩は、自分の理論で飛んだ航空機ということに多少の感動を覚えているのだろう。


負けていられないな……。


同年 8月


単葉実証機が飛んだあの日から、俺は寝る間も惜しんで様々な航空機案を作成した。


海や、ある程度広い海でなら水面で着“水”、離“水”ができる、通常の飛行機に“浮き”を付けた、水上機。


水上機の中でも、さらに大型にして、胴体部分を船体のようにした、飛行艇。


晴空よりも大型にした、四発の機関を搭載する陸上用大型輸送機。


さらにそれを爆撃機や司令偵察機などに改造、派生させる案。


爆撃機、または輸送機に大砲と機銃を大量に乗せ、対地制圧のみを考え、それに特化させた、対地制圧攻撃機。


魚雷と呼ばれる、大型の戦艦さえも一発で葬ることも夢ではない兵器を運用可能にする、攻撃機(雷撃機)。


そしてまたしても用途の最初から改めて考えた、新型偵察機案。


今回は戦闘機の開発は、他の開発に力を入れ、そこで出た技術を戦闘機にでも取り入れようとの考えがある為、考えない。


この二ヶ月で、様々な案を出し、よって最後には水上機、飛行艇、陸上用大型輸送機とその派生案、攻撃機(雷撃機)、そして新型偵察機の案が実際に、正式に開発部で考察、実験される対象となった。


で。


最も実現可能そうである新型偵察機は試験機がそろそろ完成間近となり、次に実現可能でありそうな四発の陸上用大型輸送機開発は、今のところ、燃費問題以外の問題は出てきてはいない。


今のところは順調で、特に問題はないと思っていた。


同年 9月


が、攻撃機(雷撃機)の考察に着手した時、問題が起こった。


その問題とは、「低速安定性問題」である。


まず始めに魚雷とは、水中を駆ける兵器であり、それを水中に投下するには特に安全性、安定性が重要視される。


速い速度で投下すれば、壊れ、最悪の場合、爆発し、攻撃機に乗る人名まで危険に晒しかねない。


そこで、飛行機は低速にすればいいのだが、それでは飛ぶのに必要な揚力を得られず、機体が不安定になる。


不安定になった機体は、失速して海面に突っ込み、恐らく搭乗員は即死だろう。

・・・

ここで最も簡単な案として、翼を大きくするという案がある。重量が重くなり、搭載できる魚雷の大きさがより制限される形となるが、一応低速安定性を一番楽に得られるものとなっている。


しかし、ただでさえ水中航続性のない魚雷をこれ以上小さくはしたくないし、搭載炸薬も、一応最低限の効力が分かる分までは減らしたので、これ以上減らしたくもない。


「どうしたものか……」


思わず声が漏れる。


試製の航空魚雷に目をやる。


……ん?


そこには、航空魚雷に取り付けられた、安定用の翼があった。


これは、投下時に魚雷が横回転を起こすために、取り付けられた案を採用したものであり、これは木製で、投下後は水圧と衝撃で取れる形となり、水中でなるべく魚雷の邪魔をしない様に設計してある。


この時に、何か、話していたような……。


翼……。


飛距離……。


空気抵抗……。


抵抗?


空気抵抗がどうのと話しているとき、若干何か違和感の様なものがあったな、そういや。


衝撃……抵抗……水中で取れる……あ。


いつしかのように、頭を抱えてしゃがみ込む。


どうして気づかなかったのか……、俺も、皆も。


木製の、耐衝撃装置を魚雷の先端に取り付け、水中で取れるように設計すればいいのではないのか。


嗚呼、なんで気づかなかったのか……。


無理に低速の安定性に拘る必要性は無かったのか……。


取り敢えず、また再び忙しいことになりそうなものである。


同年 11月2日 高須賀海軍基地周辺


「これまた、責任重大かもな」


相坂は眠そうな目をしながら言った。


結局、攻撃機は基本的に海上で運用することになる為、艦上機にはできなかったが、陸上機としては一応のところ試作機は完成したため、魚雷攻撃実験を行うこととなった。


何故艦上機としての完成を待たずして、陸上機として完成させたのか。


それは、予算がそろそろお上の眉間の皺がより深くなるほど計上したため、新型偵察機以外に成果を急がせたためである。


そして、相坂が責任重大と言ったのは、この予算のことだけではなく、今回の標的にも理由がある。


今回は旧式の砲艦が標的となる。


そろそろ捨てたいと海軍上層部が考えていたところ、技術部が標的として使いたいと申請して、時期が伸びすぎて、海軍の艦砲の標的艦になるかも知れないという話が出たためである。


また、標的艦を用いることによって、失敗したときの評価の大幅な低下は免れないだろう。


取り敢えず、この標的艦実験の成功を祈るしかないと言ったところだ。


そして、実験は始まった。


標的艦は、海岸から見えるところで浮かんでいる。


相坂の乗った、試製木星が一発の魚雷を搭載し、標的艦に向かった。


因みに、なぜ攻撃機(雷撃機)の名前が木星なのかと言うと、攻撃機(雷撃機)の命名基準が星、または宇宙関係と(暫定上だが)なり、俺が木製の耐衝撃材や安定用翼についてある種の感謝をしているため、木の文字が宛がわれたのである。俺が命名したのは初めてだな、そういえば。


「試製木星、魚雷を投下しました!」


望遠鏡を覗く後輩が大声で伝える。


そして、緊張の静寂。


多くの技術者が見守り、息を呑む。


この成功は、今後の研究に大きく関わってくるからだ。


すると、標的艦に、水柱が大きく上がる。


「「「おお!」」」


多くの者が感嘆の声を上げる。


「まだだ!」


親方の声が、皆を慎重にさせる。


そして標的艦を見守り続けると、次第に標的艦が傾き、沈んでいった。


「「「……」」」


皆、それに驚き、声が出ない。


「やった……」


技術者の一人が呟く。


「や、やったぞ!」


「ぅおっしゃーーーーー!」


「これで開発が続けられるー!」


すると黙っていた皆が、続けて思い思いの言葉を叫んだ。


「ふぅ……」


思わず安堵の溜息が出た。


相坂が成功してくれた御蔭である。


今度何か、奢ってやろう。


……給料はあいつの方が上だけど。


同月12日 とある料亭


あれから十日経ち、上から航空魚雷、三一式魚雷と、攻撃機木星の制式化が決定された。


「お疲れ倉田」


「珍しいな相坂、俺を労うなんて」


「まあ、それなりに頑張っているところは見ていたしな。自分はお前の試験に付き合っていたこと以外はそんなに忙しくはなかったからな。今年度入ってからのこの半年強は」


「なんだかんだ、空母が配備されてから、いや、飛行機が作られてから、忙しくなったもんな。特に俺は、相坂と違ってずっと開発していたからな。戦争の時以外は」


「それもそうだな」


「まあ取り敢えず、今まで、研究して首が飛ばされ無かったり、戦死しなかったりだけでも祝っておこうか」


「じゃ、乾杯」


「乾杯」


酒を飲む。


「そういえば倉田、新型の戦闘機の話はどうなったんだっけ?」


「痛いとこ突くなぁ……今はまだ計画すら出来てないぞ。少なくとも俺らのとこは」


「大体いつくらいに計画が出来上がるんだ?」


「さぁ?俺や他の奴らが出した飛行機の計画を実行して暇を潰しているだけだな。通信機の軽量化が完了するまでに」


「へぇ~……。今出されている計画って、どんなものがあるんだ?」


「あ~、海とか湖とかを滑走路として使える水上機とか、推進器の力で揚力を得るものとかだな。今開発中なのは、前に言ったかもしれないけど、機関を四つ付けた大型の陸上輸送機だな」


「色々あるんだな」


「通信機の開発はうちではやっていないから、取り敢えず色々暇つぶしで技術力が飛躍的に上がりそうな計画とかもあるんだけどな。というか、通信機が開発されないから、こちらからでも色々頑張ってんのに、無駄無駄って言って財源切るのは納得いかん」


「つまり話を戻すと、通信機の開発次第ってとこか?次の戦闘機は」


「そうだな。今年は絶対無理そうだから早くて来年か……まあ再来年ってくらいか」


「それまで自分はあの酷評されたあいつを乗るって訳か」


「言ってくれるなぁ~。手厳しい。まあでも、今開発中の四発機は今のところ燃費以外問題無いから、今までの開発よりもぬるっと緩く作れるから、しばらく俺らものんびりできるな」


「とか言ってどこからか足元掬われたりして」


「縁起でもないこと言うなよ」


同日 首都万京


「部長、ようやくですね」


「そうだな。これで、我が社初の、民間製飛行機が完成も間近ってことだな」


「これなら民間用の空港が開く前に完成して、その空港の初飛行も夢ではないですね」


「ああ」


倉田が気を抜いているそのとき、同じ国のとある場所で、空に執念を燃やす男たちも、またいるのであった。

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