28話 小川の捜索
明海三年 8月9日 唐国首都 燕京周辺地域上空
このあたりで小川が墜落したはずである。
「しかし、こんなにも熱気球が落ちているとは」
生機少尉の言葉に同意する。
敵飛行船を破壊する本隊が退却した後、予備部隊が残りの滑空機や熱気球を破壊するために出撃し、残敵掃討を行ったらしい。
とは言え、既に滑空機はおらず、熱気球も退却を余儀なくされたため、既に残敵自体おらず、余り破壊できなかったと聞くが……。
それは兎も角、小川の捜索だ。
森の中に落ちてしまったため、探すのは困難を極める。
大きな飛行機が堕ち、その周辺の木々が倒れ、見つけやすくなるとは言え、それでも空から見渡す程度ではあまり分からない。
それに、未だ残敵も居ると考えられるため、それらにも気を付けなければならない。
「隊長、北西の方角に、森の茂みが空いているところがあります」
「分かった。そちらに向かおう」
それにしても、上官たちが、このようなことを認めてくれるとは思わなかった。
あくまで部隊に損失があっても、戦闘機部隊は海上哨戒任務、爆撃機護衛の任務に充てられるはずだった。
それをなんとか掛け合って、小川の捜索、もとい墜落した友軍の捜索の助力を行えることとなった。
今回は損害が大きかったので、人的資源を考え、生き残った操縦士の回収は最優先事項に据えられたのだろう。
「あそこだ……隊長」
「やはりなかったか……」
そこには、人はおろか、飛行機も存在しなかった。
「不自然に木が倒れているな……再度離陸したか、鹵獲されたか……」
「まあ、鹵獲の方だろうな。これほどなら、離陸は難しいだろう」
「そうか……」
「報告用に覚書して、次に行きましょう」
「了解」
このようにして、捜索は続いた。
同日 夕方 空母飛鶴 飛行甲板
「結局、一人も見つけられず、か……」
「そう見つけられるものではないが……悔しいな」
「そうだな。……隊長も黙ってないで、なんとか言ってくださいよ。隊長でしょう?」
「ええ……明日も頑張りましょう」
「人は見つけられなかったが、機体は二機見つけた。鹵獲される前に回収されたとも聞いた。今日の成果はそれだけだが、それだけでも良かったってことにしましょうや」
最初の対飛行船戦闘作戦時、小川が不時着したときは、機体や小川自身も余裕がある程度あったため、そこまでの心配はしなかったのだが、あの状態で落ちていってしまったため、未だに心配は拭えない。
小川は悪運の強い男だが、今回の件は流石に自分の心に堪えるな。
同月10日 空母飛鶴 飛行甲板
本日も、小川は見つからなかった。
今回の捜索活動では、遭難者が一人、そして鹵獲されずにいた飛行機が三機発見された。
昨日より成果はあったのだが、それでも心が落ち着くことは無かった。
飛行甲板にいる倉田が、海鳥が汚した糞を長柄刷毛で甲板を擦って洗っている。
その光景がなんだか、とても虚しいものに見えてしまった。
同月11日 唐国首都 燕京周辺地域上空
今日も捜索活動に従事している。
敵飛行船はおろか、軍用気球もなく、おかげで空は、陸からときどき聞こえる銃撃戦の音以外は基本的に静かなものである。
そしてその静かさが、自分の中の不安感を一層煽るものであると分かっているが、不安を自らの感情で拭うことなどできないのであった。
「隊長!あれ……!」
突然の杉少尉の言葉に、思わず目を向けた。
「あれは……!」
森の中、不自然に木が減っている場所。
その中には、小川はおらず、そして少し変形していたが、あの時と同じような血痕を残す飛行機が見えていた。
うちの隊員が生きている可能性が出て来た。
それだけでも、十分な期待であり、再び捜索を奮起させることのできる情報ではあった。
同日 空母飛鶴 飛行甲板
結局、小川は見つけることはできなかったが、奴が生きている可能性があるという情報を手に入れることが出来た。
また、落ちていった飛行機乗りの生存者が数名見つかり、また鹵獲される前の飛行機が二機回収することもできた。
その結果と、自分の目の前の夕焼けに飛ぶ海鳥が、自分の折れかけた心を支えるのであった。
同月14日 空母飛鶴 第二会議室
「戦闘機による捜索の打ち切り……ですか……」
「もちろん、偵察機による捜索と、地上部隊による救助活動は続けていく。が、君たち戦闘機部隊も戦線に投入しないと、心もとないと陸軍からせっつく声が来てね。何せ、陸軍の飛行機部隊は半数程度が失われており、その残りの数機も修理が必要で、稼働状態にはない。我が海軍の飛行機部隊を用いての支援が必要だと感じたらしい」
「分かり……ました」
小川の飛行機と思われる残骸を発見してから丸二日以上が経ち、これ以上の戦闘機を用いた捜索は非効率であると判断され、終了することになった。
「隊員が行方不明……操縦士は貴重であるし、気持ちも分かるが、これは戦争だ」
「そういうことは、分かっているつもりです」
「……納得は、戦闘が開始する前に付けておくように」
「……了解しました」
納得はできそうにないが、それでも戦闘には支障が出ない様に、気を付けることにしよう。
同日 空母飛鶴 飛行甲板
「相坂、ちょっといいか?」
任務を終え、黄昏ていると、倉田から声を掛けられた。
「……なんだ」
「司令から、お前を呼んで来いって」
「どこに行けばいい?」
「一旦は、第二会議室に来いって」
「一旦は?」
「兎に角、早めに行った方が良いと思うぜ。司令からの“命令”らしいからな」
「あ、ああ。ありがとう」
こんな時に、一体何の話があるのだろうか。
第二会議室
「司令、話とは?」
「ああ、それについてだがな、少しついてきてくれるか?」
「……はい」
面倒な話か……?
艦内医務室前
「医務室?」
「そうだ。相坂中尉、君から入りたまえ」
「いいんですか?」
「ああ」
「それではお先、失礼します」
艦内医務室
ガチャ
「……お前……」
「おいおい、御無沙汰して、久々にかける言葉が『お前』一言って、冷たいぜ“隊長”」
そこにいたのは、小川の姿だった。
「心臓が止まるかと思った」
「流石に隊長も、これだけ席を開けていたら心配もしてくれるか?」
「いや、単純に幽霊が出たって」
「やっぱり冷たい気がするぜ……」
互いに乾いた笑いをする。
「まあ兎も角、隊長、これからは俺も加わって、また四人で飛べるな」
「あー、言い忘れていたが小川少尉」
今まで見守っていた司令が口を出した。
「なんです司令?」
「君の分の機体が回収できなかったのでね……」
「飛べないんですか……?」
「今すぐにはな。そして、本国に先に帰ってもらって、飛行機の訓練を行ってもらいたい。飛行機は今も本国で生産されているから、本国で再び空いた分の訓練をして能力を取り戻しておいてくれたまえ」
「飛べないどころか、先に帰るんですか?俺……」
「そういうことになるな。すまないが、ね」
「えぇ……」
と、いう訳で、小川が居ない風切隊が戦場で活動することには変わりがなかった。
因みに、この一週間弱、小川がどうしていたかと言うと、まず、対飛行船後、滑空機に撃たれたとき、左の二の腕を銃弾が貫通し、疲労と銃創の衝撃で気絶。しかし、森の中に墜落した時にその衝撃で目覚めたらしい。
血は二の腕から出たものが機体に付着したらしい。
あの中で銃創以外の怪我、鞭打ちなどがなかったのは、不幸中の幸いだと小川は語る。
つくづく悪運の強い男である。
そして不時着後、命からがら、唐国の兵士に見つからない様に、そして流れる血と疲労で意識が朦朧としている中で、休憩するうちに、かなりの時間が経っていたらしい。
そうして、小川が先に帰った後も、風切隊が様々な任務に就くことになった。
ほぼほぼ終戦へ向けた戦場へのものであったはが。
良ければ是非ともご評価・ご感想を頂ければと思います!
ブックマークもお願いします!
書く気力に繋がります!




