26話 首都燕京までの道
明海三年 7月25日 空母飛鶴 食堂
大浜綴帝国陸軍の飛行機部隊が21日に到着したことで、そこで臨時飛行場設営を開始し、設備、備品、飛行機の陸上輸送で3日、飛行場設備設営で2日を要し、今日から実質的な運営となる。
ここで陸軍は、戦闘機中隊を8個、爆撃大隊を4個という大部隊を運営することになる。
「はぁ~……哨戒任務があるとは言え、暇になるな……」
「飛行船を二台も葬った英雄様はお気楽だな、相坂」
「倉田……自分は葬ってはいないぞ。葬ったのは爆撃大隊だろ」
「論点はそこじゃねぇ」
「どこだよ」
「お前らの任務が格段に減っても、俺たちの仕事は殆ど変わらないってことだ」
「そうか?」
「そうだ。今も格納庫は忙しいぜ。前よりはマシって程度には仕事は減ったがな」
海軍はほぼ海上護衛・哨戒以外はお役御免となり、整備士以外は暇になる……はずであった。
8月5日 空母飛鶴 第一会議室
バタンという大きな扉の音。
「はぁ……」
司令が頭を押さえ、溜息を吐きながら、第一会議室に入って来た。
「君たちに、悲しいお知らせだ」
会議室にいた多くの兵士、下士官たちはギョッとする。
「まず先日、8月2日に何が起きたか概要を説明する」
司令は大きく息を吸い、説明を始めた。
「君たち海の飛行機乗り達が対地任務から解き放たれて一週間が過ぎ、航空対地任務は完全に陸軍のものへと移り変わったと言えた。しかし、先に述べた8月2日、敵、唐国は飛行船を戦線へ投入。対飛行船戦闘はおろか、まともな戦場に居たこともない陸軍の飛行機乗り達は敵飛行船を落とすことはできず、事態は双方が消耗する戦闘へとなって行った」
司令は一呼吸置く。
「しかし、敵も情報を掻き集めたのか、練度が格段に向上していった。そして更に一台のみの投入だった敵飛行船は二台に増え、熱気球、そして滑空機さえ戦線へ投入した。熱気球は確認しただけでも20台以上、滑空機は更にそれ以上だ。ついに陸軍航空隊は疲弊から大きな損失を出した。その日の損害は一爆撃大隊の全滅、一戦闘中隊の全滅、一戦闘中隊の壊滅、残りも少なからずの損害を被った。それに対し戦果は熱気球、十数台、滑空機数機、飛行船に取り付けられたガトリング砲台数台に留まった」
報告書の擦れる音が、静かに会議室に響く。
「これを統合司令部は戦略的且つ戦術的大敗と結論付け、対敵飛行船の為に、戦果著しい海軍の航空隊を加えた陸海共同での航空作戦を立案した」
ここで司令は一時目を瞑り、黙した。
「それは良いのだが、一番の問題となるのは、この作戦上の代表は陸軍であるということだ」
会場で溜息が上がる。
「まあ気持ちも分かる。対飛行船戦闘を行ったことが無いのは陸軍全体として同じだろうと。だがこれは統合司令部の決定だ。反対はできん。だが、現場でのある程度の自由行動については、ある程度なら私が責任をとる。自由に行動に移り、唐国の飛行船を落としてくれ。私からは以上だ」
「「「「「応!!」」」」」
自由行動の責を司令に取られた海軍の飛行機乗り達は意気揚々としていた。
8月8日 天心港西部上空
敵飛行船二台の投入により、またしても戦線を一時的に引き上げることとなり、消耗を強いられてきたが、今再び、唐国首都燕京を落とすために多くの航空隊が集められていた。
陸軍航空隊、爆撃大隊2、戦闘中隊4。
海軍航空隊、爆撃大隊2、戦闘中隊3。
他偵察部隊など。
以前の損耗で、陸海共に出せる航空機が少なくなっていた。
しかしこれほど多くの航空機が上げられたのは、敵の飛行船の位置が判明したためである。
一台は天心港から直線的に首都燕京を守る配置に置かれ、もう一台は首都燕京周辺をぐるぐると回っている。
唐国の工業力から考えて、あともう一台程飛行船を所有していてもおかしくない様な気もするが、確認はされていない為、敵飛行船二台の破壊の作戦を立てられている。
比較的に首都燕京から遠い場所を飛ぶ哨戒している飛行船を迅速に叩いて落とし、援護に来たもう一台も更に破壊する。
唐国が飛行船を失えば、唐国の航空戦力が著しく低下し、戦争終結への時間が早まるだろう。
「見つけたぞ!あれだ!」
戦闘機乗りの一人が大声をあげ、皆に知らせた。
「各機、戦闘開始。爆撃機が敵飛行船を爆撃しやすいように上部ガトリング砲台などを破壊せよ」
「「「了解!」」」
いつものように命令を下し、空の戦場が繰り広げられた。
「ガトリング砲台一台を天貫隊の機が破壊!」
やはり、早くなっている。
今日はあまり風がなく、滑空機が上がっては来ないというのも円滑に攻撃できる原因でもある気がする。
陸軍の戦闘機は未だ飛行船の周りを巡り、攻撃の機会を伺っているようである。
「ガトリング砲台、一台頂きました」
一つの飛行船に、7つの戦闘中隊。
既に結果などは目に見えているようなものである。
「ガトリング砲台、三台目、陸軍機がやったようです」
「そうか。最後の一台は自分が貰う」
機を飛行船へ向け、銃の発射ボタンを長押しし、ガトリング砲台に撃ち込む。
「隊長機、ガトリング砲台を破壊。あの飛行船の全てのガトリング砲台を破壊しました」
「爆撃機が来たな。爆撃大隊を案内してやれ」
「了解」
余りの早さに少し拍子抜けである。
慣れたということか。
この慣れで足元を掬われない様にしないといけないな。
「爆撃機、爆弾を投下しました」
「……爆弾、一発が命中しました。敵飛行船、現在爆発し、炎上しています」
「敵飛行船を破壊、無力化を確認。進行方向を戻し、唐国首都燕京へ向かう」
「了解した」
……。
「しばらく飛んでいるが、全然飛行船が見えないな」
「援護に来るとは言え、飛行船は足が遅いから、援護も遅くなっているんだろうさ」
「そうか?何か嫌な予感がするが……」
「残る飛行船は一台だ。気のせいだろうよ」
唐国 首都燕京
「伝令だ!例の奴を出せ!」
「アレをですか!?今は調整で、これが終わらないと実践投入には……」
「調整は最終調整だろうが!?」
「そうですが……」
「なら今すぐに出せ!そこを省略しても戦えたら文句はない!!」
「分かりました……。調整用に炉は温めておいてあったので、人さえ乗せたらすぐにでも出せます!」
唐国 首都燕京東部上空
「見えて来た……首都燕京……それと、飛行船」
「しかも二台と来たか……」
「報告にはあったが、本当に作っていたとは……」
「二台に増えても仕事自体は変わらない。落とすだけだ」
「隊長はいつも冷静だな。確かにそれはそうだけど」
「褒め言葉として受け取っておく。全機、敵航空戦力との交戦を許可する。陸軍が進軍しやすいように、敵航空戦力を見えるものから全て無力化せよ」
「「「風切隊、全機了解!!!」」」
この時、ここにいる全ての浜綴軍人は気づいていなかった。
この目の前に映る二台の飛行船が、この戦争の中で、最大の敵であったということを。
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