24話 空中空母
明海三年 7月13日 天心港西部上空
今日は、自分たち第二〇五戦闘飛行中隊、風切隊がこの天心港西部上空の哨戒、及び偵察を行っている。
天心港西部上空、つまり、天心から首都燕京に最も近い哨戒位置である。
未だ、陸軍航空基地設営隊を乗せた輸送艦は、天心港に届きそうにはないらしい。
以前が上手く行き過ぎただけで、たった三週間で終わる戦争も少ないだろう。
当時は唐国の海軍の軍艦が六割以上沈没し、士気が下がったこと。
それから唐国陸軍にガトリング砲の整備運用体制が整っていなかったこと。
それに加え、浜綴政府が他国からの干渉もあってか、占領地域を妥協したこと。
これらの要因から、三週間と言う、戦争にしては短期間での終結が実現できたのである。
しかし、今回は、唐国に様々な兵器が取り揃えられており、唐国の軍の士気は未だ高く、また浜綴政府も妥協をしない為、まだこの戦争は続くのであろう。
そういえば、第二航空戦隊はどうなっているのだろうか。全くこちらへ情報が来ない。
大丈夫なのだろうか?
「隊長」
考え事をしていると、二番機小川が話しかけてきた。
「見えました……飛行船です!」
再び、飛行船との、一個飛行隊による直接対決が始まる。
「隊長、爆撃機の援軍を呼びましょうか?」
「どちらが良いんだろうな?」
「考えを放棄しないでくださいよ……」
「杉少佐、生機少佐、援軍の要請をお願いします」
「「了解した」」
「さてさて、二人が戦線から退いたが……援軍が到着するまでどうするよ、隊長?」
「ガトリング砲台の破壊が最優先だな。程度の高度を取られているし、爆撃機が高度を取っていても被弾するやも知れん」
「了解。高度を取り、敵飛行船上部のガトリング砲台を破壊する」
自分と小川の機は、二機のみで対応にあたる。
戦線の縮小を行ったため、まだこちらの占領地域に距離的な余裕がある。
滑空機を出して来たら、それらの破壊を優先するべきかもしれないが、まだ大丈夫だろう。
「隊長、この飛行船、上がってません?」
「それがどうした?」
「いえ……不可解かなと」
「どうせ爆撃機を恐れているんだろう。機動性が悪いから、既に上げる用意をしているんだろうな。あまり気にすることは無いが、あれだけの大きさ、気流の変化には注意が必要だと思う」
「そうですか……」
「そろそろガトリング砲台と合い見える。戦闘を開始する」
「了解。戦闘に移行する」
機体の高度を上げ、敵飛行船上部へ到達した。
「ガトリング砲台は4基か……」
「多いですな……。というか面倒だな」
「弱音を言っても状況は変わらん。攻撃開始」
「了解」
向こう側の攻撃を躱しつつ、敵砲台に銃撃を加える。
「ガトリング砲台、一基撃破」
「案外こちら飛行船の練度は低いな」
「相手はガトリング砲、気を抜くな」
「それにしてもこの上昇気流、厄介ですな」
「照準よりやや下に狙いを定めたらいいだけだ。攻撃を続けろ」
そんなことを話していると、飛行船の周りから、「何者か」が上がって来た。
「なんだあれ……」
「滑空機!上昇気流で上がって来たのか?でもここらはまだ戦線からは遠かったはず……」
すると、その滑空機に乗った唐国の軍人と見られる搭乗員が、こちらへ発砲してきた。
数は……2、4、6、8、……だいたい15,6くらいか。
「どうする隊長!滑空機はあまり強くはないけど、こうも数が多いとこちらも重大な被弾をするかも知れないぞ!」
「ガトリング砲台に攻撃を続けろ。ガトリング砲台が最優先破壊目標だ」
「無茶言う!了解!」
続けてガトリング砲台に攻撃を加え続けるが、翼などに滑空機やガトリング砲台からの被弾を受け続ける。
「ガトリング砲台一基破壊!」
小川機が一基破壊し、残りのガトリング砲台は半分。
「隊長!」
「なんだ小川!」
「破壊した時に被弾して、飛行の安定性が失われた!戦線の離脱を許可できるか?」
「了解。帰還する方位は分かるな?」
「ああ。戦線を離脱する。気を付けろよ」
「お前もな」
こちらが一機となり、かなり不利な状況になってしまった。
周りの滑空機は五月蠅くも飛行船の周りを飛んでいる。多少数は減っているので、一部は陸に降りたかも知れないが、今日は上昇気流が強いためか、それとも飛行船の推進力の為に燃やしている風を受けて再び舞い上がっているのか、余り数は減っていない。
しかし小川は大丈夫だろうか。奴は悪運が強いが、それがいつまで続くのやら……。
あと、もし戦闘機が不時着し、鹵獲でもされれば、それはそれで拙い。
しかしまあ、そっちは先にあの飛行船が来た時、三機墜落しているため、彼の機が鹵獲されても責任問題自体は何とかなるかも知れないが。
「……援軍は……距離から考えて、もう少し時間が掛かるか」
援軍はまだかと悪態を吐きたいが、時間のことを考えて、それは無理かと考える。
「あともう少しだ」
「杉少尉……驚かせないでくださいよ」
「俺もいる」
独り言を吐いていると、援軍を呼びに行ったであろう二人が戻って来た。
「状況は?」
「ガトリング砲台を二基破壊したが、あと二基残っています。爆撃機が到着する前に破壊しましょう」
「言いにくいが、小川は?まさか、敵前逃亡を?」
「彼の機が被弾して、安定性を欠いたらしいので、離脱させました。ここからは三機で飛行船の対応にあたりましょう」
「了解だ」
「それにしてもこいつらが滑空機か……俺たちの範囲まではかなり距離があるが、もう既に出しているのか?」
「彼らの目標は自分たち戦闘機らしいです。高が滑空機と気を抜いていると、滑空機乗りに撃たれてしまいますよ。それに、上昇気流を使っているのか、蒸気の風を使っているのか、中々数も減りません」
「分かった。気を付ける」
「しっかし、飛行船から滑空機、空中の空母のようだな」
「こちらの飛行機のようなものは、重いし大きいのであまり有用だとは思えないね」
「お喋りは後で良いですか?戦闘を開始します」
「了解。交戦を開始します」
「了解。失礼した」
「ガトリング砲台から集中的に攻撃して下さい。爆撃機の邪魔になりそうです」
「滑空機は?」
「飛べるとは言え滑空機、そこまで長居はできないはずです。それに、使っているのは旧式の銃、連射性はないので、そこまで脅威だとは考えられません。彼らはガトリング砲台を破壊してから対応にあたりましょう」
「了解した」
そして再び銃弾が双方に飛び交う空中の銃撃戦が始まった。
「こちら杉、ガトリング砲台、一基撃破」
「こちら相坂。ずっと戦っていたから銃弾が切れた。しばらく飛び回って攪乱する」
「杉了解」
「生機了解。気を付けて」
そして数分後、援軍が到着した。
「爆撃機、来ました。杉少尉、生機少尉、爆撃機大隊の援護に入ってください。こちらは続けて攪乱します」
「「了解」」
結局のところ、残ったガトリング砲台のうち、一基は破壊することが出来なかった。
そして、爆撃が始まる。
「爆撃が開始されたが……外したか。再びガトリング砲台の破壊を命じたいが……届かないな。次はこうならない様にしたいが、考えるのは帰ってからでいいか……」
爆撃機が反転し、再攻撃に向かう。
飛行船は黒煙を燻らせて、方向を変え、出せる全力を出しているのだろう。
爆撃機が再び爆弾を落とすが、飛行船が出来得る限りの回避の功を奏したのか、その攻撃は全て外れてしまっていた。
ガトリングなのか、それとも滑空機か、それは分からないが、それらが銃撃を爆撃機に浴びせ、翼に煙を噴かせる。
その爆撃機一機が離脱し、他の機は攻撃をし続ける。
「まだ当たらないか……」
飛行船は戦線を離脱しようとしているらしい。
「飛行船の操舵席の前でも横切れば、方向を元に戻そうとするか……?」
取り敢えず、物は試しと、高度を下げてみることにする。
そして、飛行船の操舵席であろう場所を横切る。
が、しかし元の軌道に戻る気配がない。
「むしろこちらがあいつらのガトリング砲の弾丸を一発受けただけだったな。流石に露骨すぎたか……」
三度目の正直とばかりに、爆撃機たちが爆撃を仕掛ける。
「当たったか……だが……」
落とした爆弾の一つが、飛行船の尾翼に当たる。
が、それが墜落の原因とはなり得ずに、ただただ片方の尾翼を破壊しただけであった。
安定性を欠かせることはできたが、垂直尾翼を壊したわけではないので、恐らくこのまま還るつもりなのだろう。
「相坂隊長、大丈夫か」
臨時の護衛から、二人が帰って来たらしい。
「護衛は?」
「これ以上は爆弾が無いからな、長居しても危険だと判断したんだろう。爆撃機大隊は帰って行った」
「俺たちは今から何をしたらいい?ガトリング砲台の破壊か?」
「いや、自分たちも帰還する。それに、先に還った小川も心配だ」
「了解」
こうして、飛行船の迎撃には成功し、飛行船も一部破壊することはできたが、目標とする飛行船破壊までは達成できなかったのであった。
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