23話 対飛行船爆撃作戦
明海三年 7月9日 〇八三〇時 空母飛鶴 第一会議室
「これより最終の作戦確認を行う。皆よく聞いてくれ」
まだ瞼も明けきれない朝。
艦隊司令でさえ、若干眠そうにして、話をしている。
「昨日までの偵察、索敵から、おおよその飛行船の予想位置が汲み取れた。諸君らはこの情報から、敵予想位置へ向かい、飛行船を爆撃機によって破壊する。なお、飛行船には、ガトリング砲台が二基、取り付けられている。一基は第二〇五戦闘飛行中隊、風切隊によって一度破壊したが、既に修理されている可能性もある。もし飛行船が高高度を飛行していた場合、爆撃乗り諸君は十二分に気を付けてくれ。そして、戦闘飛行隊諸君らは、その爆撃大隊を守る為、爆撃大隊に随伴して欲しい。ガトリング砲台により爆撃機に対する迎撃を始めた場合、早急なガトリング砲台の破壊を行え。尚、空母千鶴の戦闘機及び、爆撃機部隊は、天心港の海軍陸戦隊及び、駐屯する陸軍の航空護衛、局地防衛、航空支援を行っている。つまり、この作戦の成功は、千鶴の飛行隊の奴らにも一泡吹かせることが出来るという訳だ。生意気なあいつらに目に物見せてやれ。いいな?」
「「「「「応!!!」」」」」
会議室にいた、整備士含む飛行隊員一同が、先ほどまでは寝ぼけ眼を擦っていた奴らだと思えぬほどの声を張り上げて、その声に応じた。
それほどまでに、彼らが千鶴所属の飛行隊員のことをどう思っていたのかが分かる。
「作戦は一〇〇〇時からだ。機体の整備を怠るな。機体を温める時間も間違えるなよ。では、これにて最終確認を終了する!」
飛行隊員一同が声を張り上げたことで艦隊司令も眠気が醒めたようであった。
同日 一〇〇〇時 空母飛鶴 飛行甲板
「第二〇七爆撃飛行大隊、戦拓隊、全て上がりました!」
「次は……第二〇五戦闘飛行中隊、風切隊だな」
「一番機と二番機は発艦準備、完了しています」
「出せ!」
「了解」
「風切隊一番機、発艦します」
相坂の駆る戦闘機が空へと舞い上がった。
「風切隊一番機発艦確認」
「風切隊二番機、発艦!」
「三番機と四番機を飛行甲板の発艦開始位置に移動させろ!」
「了解しました。風切隊の三番機と四番機を移動させます」
飛鶴の飛行甲板から、多くの飛行機が飛び立っていった。
飛行船 飛行予想空域
「そろそろ指定された空域だ。気を引き締めていけ」
「了解」
飛行船がいると予想された空域に、一爆撃大隊と二つの戦闘中隊が飛んでいる。
一空母の、全力出撃である。
「飛行船確認。一時の方向」
「低空飛行している……運がついているな」
機体を揺さぶって、爆撃機にも飛行船が近くにいることを知らせる。
後方にいる爆撃機が、こちらの取っている方位に合わせ、さらに高度も上げる。
「爆撃機が爆撃体勢に移行したことを確認」
「上部のガトリングは爆撃機を射程に収めているか?」
「これほどの高度差なら、当たらないかもしれないが、我々はぎりぎりながら、当たってしまうかもしれない」
「自分たちの仕事は爆撃機の護衛だ。敵ガトリングの攪乱が出来たらそれでいい。撃って来たらその都度避けたらいい。それに、第二〇六戦闘飛行中隊、天貫隊がガトリング砲台を破壊しに行く。余計な心配はしなくていい」
「了解」
「無茶を言うね~隊長は」
「最悪被弾したら機関を止めて、滑空して港の方向に向かって、不時着したら陸路から港に戻ればいいだけの話だ」
「そう言うところが無茶だって言っているんだが。躰に穴が開くかもしれんってのに」
「小川、五月蠅いぞ。作戦は既に始まっている」
「へいへい」
「第一波、爆撃を開始した」
「……第一波、爆撃を終了した。弾着を観測」
「全て外したな」
「第一波だ。外しても仕方ないだろう」
「それもそうだな」
「反転して、第二波爆撃を敢行させる」
「了解した。先行を」
「了解。着いて来い。爆撃機にはある程度高度を下げても大丈夫だと伝える」
「分かった。着いて行く」
……。
「爆撃大隊、第二波爆撃を開始。効力弾あり」
「飛行船の浮遊源は水素だ。誘爆したら大爆発を引き起こす。早急に退避を」
「了解。退避する」
すると、激しい爆音。
「言った傍から……。っく!機体が爆風に持っていかれる!」
「相坂!飛行船は!?」
「飛行船、高度を下げていっている。恐らく撃墜した。あと、小川、作戦中は隊長と……」
「よっしゃぁぁぁああああああ!!!!!!!」
「小川、作戦中に叫ぶな」
「相坂隊長、別にいいじゃねぇか。初めてあんな大物を、飛鶴所属の飛行隊だけで狩ったんだ。こんな時ぐらい浮かれさせてやれ」
「生機少尉……分かりました。今日位は多めに見ましょう。各機、艦隊に帰還する」
この作戦により、唐国は大規模な航空戦力を一台失い、大きな打撃となり得るだろう。
この戦争も終わる日が、もう近いのかもしれない。
今この時、自分は、いや、この空域に居た全ての浜綴海軍の飛行機乗り達は、そう考えていただろう。
しかし、帰還したのちに、その希望は打ち砕かれることになる。
同日 作戦終了後 天心港
「なんだ……これは……」
「港が……燃えている……!」
帰って来た自分たちが目に映したのは、奪還したはずの天心港が燃え盛っているという、非常な現実であった。
空母飛鶴 飛行甲板
自分たちが船に降り立つと、艦隊司令が飛行機乗り達を招集し、ここ、天心港で起こったことの経緯を放し始めた。
「諸君ら、まずは、敵飛行船の撃墜、おめでとう。私からも祝福する。だが、ことはそうのんびり君たちに祝賀会を開く余裕を許さないらしい。まずこの港に何が起こったのか、君たちが一〇〇〇時にこの空母を発ってから、天心の防衛も万全だったのだが、一三〇〇時、敵飛行船がここ、天心港に現れた。まず始めに空母千鶴所属の戦闘機部隊が対応に当たったが、その分厚い装甲は、彼らの銃撃に耐え、侵入を許した。そして、ガトリング砲などによって三機の戦闘機を落とし、また地上部隊にもその銃砲を向けた。そして、未確認物体をその飛行船から出した。見た兵士からの情報と、既にある帝国軍の情報から照らし合わせて、それらは恐らく、滑空機という物であるということが分かった。なぜ今まで分からなかったのかと言うと、それら滑空機は軍用航空機として注目されていなかったからだ」
隊員達は、黙って司令の話を聞いていた。
「話を戻す。滑空機から降りた唐国の兵士によって、数多くの死傷者が出た。さらに、突撃と撤退を唐国の兵士が繰り返し、戦場は混乱。一四三〇時には既に唐国の兵士、及び飛行船が撤退し、敵に対して有効な攻撃も加えることが出来なかった。状況から考えて、我が軍の圧倒的な敗北であると司令部も捉えた。そしてこの敗北に対して事態を重く見た司令部は、首都燕京に向け進ませていた陸軍を一時撤退させ、戦線の縮小を行った。そして陸軍は、地上に飛行機部隊を設営するために、海軍に輸送艦に設営具と飛行機を乗せ、輸送することを要求した。海軍はこれを了承。そしてそれまでは、我々海軍航空隊が現地軍の防衛を行うこととなった。我々、空母飛鶴の飛行隊は、爆撃機一機が以前に修理が必要なほどの損害は受けたが、なんとか死者はでていない。しかし、空母千鶴は、今回の天心港防衛戦に於いて、戦闘機三機を失い、内、操縦士二人が死亡した。これにより、司令部は飛行船が対地航空戦力としてだけではなく、対空戦力としても有効であると判断した。まあ、これは飛行船に搭載したガトリング砲台が、だがな。これから、偵察機の索敵範囲を広め、敵飛行船の破壊を最優先とした。君たちには、明日より、飛行船を発見し、それらを破壊し、他の敵飛行船を発見次第、それを破壊することを再優先目標とすることとなった。少なくとも、現在確認されている敵飛行船一台を破壊し、陸軍が到着するまでは、航空支援ではなく、敵飛行船破壊が第一の目標となる。長い話に付き合わせて悪かったな。今日は敵飛行船を破壊したということで、細やか乍ら、今日の晩飯は多めに現地から仕入れている。今日は晩飯だけだが、堪能してくれ。祝賀会はまた後になってしまうが、それまでにくれぐれも死なないでくれよ」
「「「「「了解」」」」」
「では、解散」
こうして、第一航空戦隊の全ての飛行隊は対飛行船に、偵察を行うようになった。
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