21話 未確認飛行体報告
明海三年 6月28日 広連港 空母飛鶴 飛行甲板
翠島港を制圧した数日後、浜綴海軍は広連港の制圧に取り掛かっていた。
陸地から唐国首都燕京まで最短で辿り着くには天心を制圧するのが良いのだが、軍部は態々近場の軍港を制圧せずに、そのままにするのは危険であるという判断を下したためである。
と言っても、ここ広連の港も時期に制圧されるだろう。
今日も任務が終わり、力も抜け、飛行甲板で黄昏るのみである。
「おお、ここにいたか相坂」
すると四番機の杉が声を掛けて来た。
「何です?」
「艦隊司令からの次の作戦について、全ての飛行隊の隊長を呼んで来いって言われてな。場所は第一会議室だと」
「他に用件は?」
「いんや?」
「分かりました。通達ありがとうございました」
しかし、艦内放送があるのに、なぜ口伝なのだろうか。
第一会議室
「君たちに来てもらったのは、一部の人間に伝えたように、次の航空作戦、天心港奪還と、そこから始まる、陸軍侵攻の足掛かりとなる空から彼らの一部支援を行うことだが、陸上の偵察部隊から、不可解な報告があった」
場がざわつく。
「それは、艦隊司令部が予想していた敵航空勢力の姿とは違ったものだった。この予想していた敵航空勢力について、今から話すが、その情報は軍の機密情報であるので、この艦内でもなるべく喋らないこと、そして艦外の人間には絶対に漏らさないことだ」
多くの操縦士達が頷いていた。
「その敵航空勢力とは、飛行船だ」
再び会場がざわついた。
「もちろん軍学校で習ったはずなので、知っているとは思うが、再び説明すると、飛行船とは、通常の空気よりも軽い気体を用いて運航する空飛ぶ船のことだ。唐国はどこかの国から支援を受け、それを保有、運用しているとの情報が上がったためその予想を出していた」
皆が聞こうとするため、今は逆に会議室が静かになっていた。
「これについて、今後、君たちに留意してもらいたいが、先に話した、その飛行船とは違う、航空勢力が確認された。それは、我らの旧式飛行機、早風や太刀風のように、翼をもち、さらに早風や太刀風とは違い、全く音をたてずに、人が乗って飛んでいたということだ。艦隊司令部は最初、見間違いとして取り合わなかったが、報告が他にも挙がったため、その情報を君たちに話すに至った。本当は飛行船の話だけになる予定だったが、艦隊司令部も予想外の情報で、この情報を君たちに話すことになった。飛行船、及び未確認の飛行物体について、上陸作戦時に気を付けておいてほしいということだ。そしてこの二点について、艦内においてもなるべく話さず、艦外においては絶対に口にしないでくれ。艦隊司令部からは以上だ」
飛行船に、未確認の飛行体。
先の浜唐戦争とは違い、大規模な航空戦があるのではないかと、緊張なのか、それとも期待なのか。
兎にも角にも、この胸の高鳴りを抑えることはできそうにはなかった。
7月3日 坊海 天心港近海上空
「気球発見、台数は四台」
第二次浜唐戦争が勃発してから三度目の上陸作戦。
その前哨戦である航空戦。
唐国海軍及び陸軍は、自分たちに対する対空攻撃で有効打を与えることはできず、我ら大浜綴帝国海軍は進撃の手を止めることは無かった。
しかし、未だに唐国は浜綴からの遷都要求および現首都燕京の譲渡に応じようとはしていない。
航空戦において敵気球は自分たちに銃を構えるも、各地にて殲滅してしまうため、戦闘情報の共有が出来ていないのか、拙い攻撃ばかりであり、こちらへの被害は未だ出ていない。
爆撃機はとっくに帰還し、残りは地上の敵に打ち込むのみ。
この状態のまま、敵を薙ぎ倒しながら進む。
「敵気球、上がっているものは全て破壊した。これより、上げようとしている敵気球及び、敵ガトリング砲への攻撃を開始する」
「「「了解!」」」
そして、上空の敵気球以外の兵器などを破壊し、地上さえ見えるものは機銃の弾が尽きるまで、撃ち尽くした。
「各位、撃ち尽くしたな。これより帰還する」
事前に敵に飛行船やら何やらがあると聞いていたが、それは陸軍が相手にするかも知れないな。
ある種の安心と、戦えないかもしれないという残念な気持ちと共に、空母飛鶴へ帰還した。
7月4日 天心港近海上空
今日も昨日と同じく、敵を滅ぼす。
昨日と違う点は他の港の制圧作戦と同様に、揚陸する陸戦隊の援護を行うことである。
「二日目はいつも対空目標がないから暇……だな」
しかし、今回の作戦は、陸戦隊の支援のみではなく、陸軍の支援も行う。
他の港では、陸軍の防衛拠点を再構築のみであったため、偵察と地上から来る敵に対する攻撃以外には行わなかった。
この港では、唐国首都燕京に繋ぐ道の構築を空からの手助けを行う。
陸軍航空隊は、この土地で臨時でさえ飛行場を開くことは短期間ではできない為、航空支援は自分たち海軍航空隊が行う。
陸軍航空隊の飛行場は、一応上陸後に作成されるが、完成するころには終戦しているはずであるし、その飛行場が使われることとは、戦いの泥沼化を意味している。
つまり、全て自分たちで何とかしなければ、この戦いを不必要に長引かせる原因となり得ないという訳だ。
「ん?あれは爆撃機?」
昨日制圧した先へ攻撃した後、港上空を哨戒していたところ、浜綴海軍の爆撃機を見た。
「しかし何故煙を噴いている……?」
同日 空母飛鶴 第一会議室
「噂で知っている者もいるかと思うが、説明する」
司令官が重い雰囲気を漂わせ、席について話し始めた。
「本日一六〇〇時、第一〇七爆撃飛行大隊の一機が敵航空勢力から攻撃を受け、翼に被弾。幸い死傷者は出なかったが、翼が燃え、その機が修理の為に使えなくなってしまった」
何時しかのように、会議室がどよめく。
「そして、その機に被害を与えたというのが、先日にも話した……」
司令官は息を吸い込み、場は静まる。
「飛行船だ」
7月5日 天心から燕京に向かいおよそ70㎞ 上空
「しっかし隊長、飛行船とは言え、あの鈍足で飛行機を落とすって、一体唐国は何を乗せてんでしょうね?」
二番機小川が話しかけてくる。
「さぁな。それは報告にはなかったから、目で見て確かめるしかないな」
「ですよね。それに、飛行船は構造的に銃とかには弱かったような気が……」
「駄弁ってないで周りを調べろ」
「了解」
今日は雲が多い。
積乱雲は無いのだが、積雲が多く、敵航空目標が隠れているかもしれない。
既に作戦内の陸戦隊の支援は終わり、後は昨日爆撃機に攻撃した飛行船を探している。
「……ん?あれは何だ?」
三番機の生機が何かを見つけたようだ。
「あれは……雲……違うな」
もう少し近づくと、その物体が何か分かった。
「あれが唐国の……飛行船!」
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