17話 新年と新型機試乗
明海三年 1月4日 高須賀海軍基地飛行場
「新年早々一個飛行隊を呼び出して、何する気だよ、倉田。三が日が終わったからって」
「そりゃあもう、決まってるだろ?相坂」
「まあ概ね分かってはいたが、これ、報酬出るんだろうな?」
「出す出す。桐山と天風の開発が大成功だったから、今回もお上から結構な報酬がでてるんだよ。戦時手当ほどには出せないけど、それなりには出せる」
「はぁ……分かったよ。で、新型機ってのは?」
「いつもの研究用格納庫にある。今回は3機だな。皆には三機に乗って扱いやすさを比べて欲しい」
「扱いやすさ?」
「新型の大型機を開発したは良いが、未だ研究は理論だけの状態で、それを調べるためにな。調べるためには大体同じ飛び方をしてもらう。これでさらに研究して、三か月後にさらにここから得られた情報で制式化に向けた新型機を開発するって訳だ」
「名前とかあんのか?」
「新型機は三つとも機関の数が違ってて、機関が一個、二個、三個ってあるんだが、一個から順に、試製三〇式重航空機一型、二型、三型ってな感じだ」
「面白味が無いな」
「まだ試製だしな。制式化されたらしっかり名前がつくはずだ」
「機関が複数って聞いたが、これは爆撃機か何かか?」
「いや、決まってない」
「決まってない?」
「この研究はなるべく大型の機体を作って、後の研究に活かせるようにするのが第一で、これが輸送機になるのか、爆撃機になるのかはまだ決まってないな」
「それらもこの研究で決まるのか?」
「そうかもしれないし、後の実験で決まるかもしれないな」
「というかなんで風切隊なんだ?他の隊でもいいだろ。例えば千鶴の奴らとか、爆撃大隊のやつらとか」
「千鶴の方の部隊は……言えば貴族の連中だろ?事故でも起こったら技廠全員の首が飛びかねないからな。物理的に」
「それはそうか。でも、爆撃大隊の奴らは?あいつらは使う機種から言って、近いだろう?」
「爆撃大隊は新設されたばかりだから、練度向上が先決だ。あと数も少ないし。それは偵察中隊も同じだな。あと、こういうのもなんだが、爆撃大隊の皆は相坂たちより飛行の技能が下だ。成功する方が良いし、それにあくまで、熟練で且つ、まだ代わりが居る方がいろいろと助かるんだよ」
「代わりって」
「まぁまぁ……これでも技廠の皆は貴方たちのことをかなり信頼してるンすよ?代わりが居るって言っても、これはどちらかと言うと新型機に乗りたいとか抜かしやがる貴族のボンボン向けの扱いで。彼らは『代わり』いることを君たちよりも極端に嫌うからね。分かってくれよ」
「まぁ、そういうことにしといてやるか」
「本当だって!」
「どうだかな。取り敢えず、試験をしようか」
「ウィーッス……」
試製三〇式重航空機一型
運動性能を確認する。
確かに、全体的に重くなっている気がするな。早風や天風よりも遥かに運動性能が低く、桐山よりもさらに重く鈍い動きであると感じられる。逆に言えば安定していると言ったらいいのだろうか?しかしそれは着陸の時でないと分からないか。
しかし、これを他のと比べるのに、どういった判断材料としたら良いのだろうか。
兎に角、試験を成し遂げる。
着陸を行うが、機体の挙動は他の航空機とあまり大差ないものであった。
試製三〇式重航空機二型
これに先に乗っていた小川曰く、「とんでもねぇじゃじゃ馬」らしい。
さらに、上下配置にされていた機関の内の下側の機関が熱し過ぎて機関が停止するという事態が発生したらしい。
確かに、いろいろと扱いにくい。
まず、前方に機関が二つ、推進器も二つある為、前がかなり見にくい。
そしてその二つが合わさった機関の振動がとてつもなく気持ち悪い。
前に熱が籠っているのは他でもそうだが、それが二倍であり、風防があっても結構操縦席に熱が溜まってしまっている。そのため、熱いとまではいわないが、不快ではある。
そして運動性能。
稈を倒しても最初の方はあまり機体が傾かないが、ある点を境に急激に傾いてしまう。
小川が言っていた「とんでもねぇじゃじゃ馬」とは、このことなのだろうな。
上昇・下降に於いても機関が二つあることで先ほどの一型のそれよりも機動性が悪い。
ブロロロロロロ…ロ…ロ…ロ……
下の機関が停止し、推進器は風を受け、逆方向に回転し始めた。
カチッ
壊れない様に下の機関を止めた。
どうやら二型に於いては、快適さ、機動性、安定性、保守性の全てで一型よりも下回っている。燃費については未だわからないし、馬力はあるが、じゃじゃ馬が故、それをどうにも活かせそうにない。貨物をより多く載せるというのなら分からないが。
そして、着陸姿勢に受ける。
機体が大きく揺れる。
本当に安定性に欠けている。急激に機体が傾かないか不安を抱えたまま、着陸した。
試製三〇式重航空機三型
先ほどは結構焦ったな。
聞いていたとはいえ、飛行中に機関が勝手に止まるとは。
こちらは二型よりも更に動きが鈍くなっているが、安定性はある。じゃじゃ馬ではない。
戦闘機動をする訳でもないのなら、これが良いのかもしれない。
先ほどのは正直言って酷すぎた。
機動性もなければ安定性もないのだから。
熱も、拡散されているのか、多少不快だが、あまり熱くはない。
二型の不快感よりもマシだな。
着陸をするが、やはり二型のそれよりは安定していた。
機関のどれかが止まるということもなかった。
高須賀海軍基地飛行場
自分以外の三人が今、飛んでいる。
「相坂から見て、あの三機はどうだった?」
倉田が聞いてくる。
「一型と三型はそれぞれまずまずってところだな。二型は……正直って酷い。褒めるところが考えつかん」
「これは手厳しい」
「俺と小川は途中で機関が止まってんだぞ」
「前試験のときはしっかり動いたんだけどな……」
「あと、三型の不満を言うなら、後ろに推進器の羽があって怖い。当たらないと分かっていてもな」
「そっか……ふむふむ。他には?」
「やはり前に二つも機関がついていると本当に見えにくいな。特に二型の方は」
「二型には特に厳しいな」
「あれだけは制式化されても俺は絶対に乗りたくないな」
「本当に容赦がないよな~相坂」
「ならもう少しマシなもの作ってくれよ。分かっていたとは言え、空で機関が止まるって、心臓が止まるかと思うくらいには怖かったからな」
「悪いとは思ってるよ……お前と小川には」
「そうかよ……お、帰って来た」
試験していた三機が帰還した。
「あぁ~じゃあ、この報酬はあとで渡すので、受け取ってください。明後日の朝のここの受付か、研究用格納庫に来てください。では、ありがとうございました」
そして、これらから得られた情報を基に、新型機が作られることとなった。
同年 3月2日 高須賀海軍基地飛行場
「またこのメンツでここ……ってことは」
「そうだ。前々から言ってたように、新たに制式化される陸上機の試験だな」
「因みに前から気になってはいたんだが……」
「何です、杉少尉」
「これは大型で、そして陸上のみで扱うんだろ?」
「はい、そうッスが……」
「なんで陸軍が率先してやらないんだ?」
「扱うのが海軍だからッス」
「仲が悪いからなのか?」
「それとこれとは別ッス。陸軍が率先して扱いたい機体は陸軍が、海軍が扱いたい機体は海軍がそれぞれの技廠にそれぞれの要求をすることで、効率化を図っているンス。確かに互いにあまり仲は良くはないッスが……。それに、相互に螺子や鈕など、程度互換性があった方が良いものは規格が決められていやスので、どちらもそれに合わせていやス。ただ仲が良くないというだけで、呉越同舟できない訳ではないッス」
「ほぉ~~~、で、名前は?」
「切り替えが速いな……。これは陸上輸送機の『晴空』になる予定ッス。今はまだ制式化されてないので試製晴空ってことになりヤス」
「輸送機か」
「はい。人や、あとは航空機用の機関など、重要で数の少ないものを運ぶためでスね。人に関しては、これで空母には乗せられませンがね……」
「人ってことは、明空みたいに椅子を追加して乗せることもできるのか?」
「そうッスね。物資輸送機の場合、搭乗人数は四人、搭載量は600㎏、搭載量を極端に抑えて人数に割いた場合、乗員四名に加え、乗客八名、搭載量は50㎏になりやスね。搭載武装は明空同様ありやせン。晴空は爆撃機やその他の用途の為に改造される計画もありやス」
「他の用途?それは……」
「それは出来てからのお楽しみって奴ッスね」
「そうかよ」
「取り敢えず、研究用格納庫に向かいやしょウ」
研究用格納庫
「これが晴空か?」
「そうッスね」
「前に見た三つどれよりも形が違うな」
「一型で高められた馬力と燃費の機関を二つ、三型の前方の二つのように、横に配列させてるから、一応三型のそれとどう挙動、操作性が違うのか、それを調べるために来てもらった。あと翼が複葉から単葉になっているのもどう違うのかもな。先に言っておくと、耐久は調べてあるから大丈夫だ。一応理論値では明空よりもあるからな。あと先に飛ばしてもあるし」
「なるほど。分かった」
「そういえば、前の三つはどうなったんだ?」
「あいつらは倉庫で保管だな。実用で使うことは無いけど、情報を集めるために残しておいているンス。じゃ、まずは相坂からだな」
「またか」
「自分の苗字が『あ』から始まって、次の文字が『い』であることを恨むンだな」
「ほいほい」
「いつにも増して対応が雑だな、おい」
試製晴空
確かに挙動は重いが、試製三〇式重航空機二型のそれより極端ではないし、三型よりは軽い。扱いやすさは一型のそれより少し鈍いくらいに抑えられている。それが機関を二つ横に並べた特性なのか、単葉の特性なのかは分からないが。
この手の比較的大型の航空機は目に付ける風防がいらないので、目元が蒸れないことが良いな、やはり。
そんなことを考えながら、悠々と飛ぶのであった。
後にこれは問題無く、制式化されたのであった。
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