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凪の中の突風  作者: NBCG
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15話 近海練習航海後、休暇二日目

明海二年 10月3日 相坂家


朝飯は成会矛の朝食を真似て、パンと目玉焼き、そして野菜の盛り合わせである。


これ自体はこの家でもたまに出る朝食の一部と同じようなものではあるが、目玉焼きについては、今日は塩と胡椒で味付けをしてある。


アイナは子供であるので、そんなに胡椒は多くは掛けてはいないが、それでも味付けとして、十分な程度を掛けている。


というか、アイナはいつも何も掛けないで目玉焼きを食べている気がする。美味しいのだろうか?一度それで食べてみたが、不味くはないが味気ない、足りないという印象であったのだが。


「~~~、amen」


「頂きます」


アイナの祈りの言葉が済んだようなので、自分も食前の礼を述べ、食べに移る。


「ソウイエバ、シンタローサンは、ドノ宗教に属しテイルのデスカ?ワタシはイェムス教ケィソリカ、デスケド……」


「どの宗教……家は何だったかな……確か嘉奈立教の……清土宗だったかな……清土真宗だったっけ?」


「覚エてイナイのデスカ?」


「そんなに気にしたことは無いからね。その宗教そのものはその宗教で言う、信仰の対象である嘉奈立様は、もう既に自分たちを救っているから、毎日感謝しなさいっていう教義だった気がする。あんまり覚えてないな。葬儀以外でまず日ごろから関わることなんてないし」


「ソウナノデスカ……」


「何かあったのかい?」


「イエ……ワタシモイツカ、シンタローサンの家のモノにナルノデ、シューキョーヲ変えるベキカナと思いマシテ……」


家の者って……二ヶ月で程度諦めの方向に考えさせるように、そういった雰囲気作りとかはなかったのだろうか……。


「別に変える必要なんてないんじゃないか?」


「ソウナノデスカ?」


「っていうか、アイナの国でも、ケィソリカとプロテスタントの人が結婚することはあるし、その後も宗派を変えてないって話、聞いたことあるけど……」


「ソウイウノハ、ショースー派デス。特ニ田舎デハ、カナリ嫌わレテシマイマス……」


「はぁ……。まぁここは浜綴だし、別に良いんじゃない?浜綴では昔から、神嘉習合って言って、もともとあった氏神って考えと嘉教が合わさったものもあったんだし。ま、浜綴が帝國になってから、神嘉分離とか言われているけどね。別にそれで困ることは無いんじゃないか?」


「デモ、ココでは昔、イェムス教が弾圧サレテイタ時期がアルト聞きマシタ……」


「そりゃ誰でも、神社や寺を異教だからって焼かれたり壊されたりしたら怒るだろう?」


「ナ、ナンダカ済みまセンデシタ……」


「別に自分は怒ってないですよ。アイナは関係ないし」


「Seaanデハ、宗教ヤソノシューハ、ハバツハトテモジューヨーナモノと考えラレテいるのデ、トテモ昔のコトをトリアゲテ暴レル人もイルノデ……」


「氏神の考えは何でも取り入れるからね。他の神とかなんでも。荒らさなければ良いんだよ。どの宗教でも、どの宗派でも」


「Seaanではソノヨウナ考えハ余りナイデス。デモ、トテモ良いト思いマス!」


「そうか……取り敢えず食べようか?」


「ア、スイマセン……話ニ夢中ニナってシマッテ……」


「別にいいよ、じゃ、改めて頂きますっと」


そして二人で朝食を摂る。


因みにハモンドさんは別室で召し上がってもらっている。


最初は見られているだけでは緊張するので一緒に食べようかと誘ったのだが、どうにも成会矛女中の精神からか、一緒に摂るのだけは断られ、別室に居てもらう、と言うのが妥協案になった。


嗚呼、家で食べる飯が美味い。これならずっと自分が作った方が良いのかもしれない。


アイナの口には合っているのだろうか?


「美味しいかい?」


「ハイ、トテモオイシイデス!」


「それは良かった」


いつもとそんなに変わりないからか、取り敢えず問題は無い様で良かった。


この後、自分は筋力鍛錬、アイナは成会矛の公立小学校の浜綴分校での宿題を熟すらしい。時間が余れば家事でもするか。せめて何がどこにあるか自体も、分かっていた方が良いだろう。


ほぼ同時刻 海軍技術廠


「あぁ~~~~分からねぇ~~~~~~~~!!!」


「う……るさ……い……ぞ、倉……田……」


開発案を考えている内に、遂に朝になってしまった様だ。


親方に至っては今さっきまで開発の個人用卓で寝ていた。


他の技術者の中で、実家通いの者は帰り、寮生活の者は未だここで寝ている。


「取り敢えず、朝飯食うか……倉田」


「へぃ……」


「皆を起こしてくれ」


そして皆を起こし、食堂で朝飯を食う。


「うめぇよぅ……味噌汁が五臓六腑に染み渡る……」


「今日はあれらの件は止めて、別の考えに移るぞ」


「何か他にありましたっけ?」


「あー、なんだったか。……食った後に考えよう」


「考えるのやめましたね」


「うるへぇ!」


「ご飯粒飛ばすの止めて下さい」


「一瞬で真顔になるなよ怖いなぁ」


そんなこんなで朝食を摂り、再び技廠に戻る。


「で、新たな案とは?」


「より大きな陸上機の開発だな」


「と、いいますと?」


「『桐山』の輸送機型を出したはいいが、余り多くは積めないだろう?だからより大きな航空機がいつか必要になるかと思ってな。陸上機って言ったのは、あれ以上に大きく重くすると、今の技術じゃ船には載せらんねぇからな。この開発で、何か得られるかもしれないから、取り敢えず作ってみるという考えだ」


「なるほど、何か前構想はあるんで?」


「いや、全くない。だから皆、自由に発言、案出しをしてくれ」


そして会議が始まる。


この案出しの会議では、陸上機でも良いということで、双発や三発の航空機案も考え出され、結果、単発機、双発機、三発機の三種類の試験機の開発がなされることになった。


単発機の案は、今まで通りの設計に準じ、機関の軽量、高馬力化のみを強く焦点に当てる。


双発機は翼に二つの機関を乗せる案が出てきたが、上下に配列させるのか、それとも左右に配列させるのかという意見が残り、ここにも開発の案の自由さが見て取れる。


三発機は双発機の左右配列案に、さらに尾翼にも機関を搭載する形となっている。双発機の上下搭載案のようにならなかったのは、そうすると中央に重さが偏り過ぎるのではないかという懸念があったためである。


三発も機関があると、旋回時にかなり過激に機体が傾いてしまうのか、逆に旋回しにくいのではないかという問題が考えられた。


そんなことはない、必ず安定するはずだという意見もあり、それが双発機の二つの案で残った形となっている。


「さて、大型の航空機の開発はこれくらいでいいか」


「じゃあ少し休憩を挟んで……」


そう言いかけた時、外から人がやってきて……。


「倉田さん、一般の方がお目見えです。知り合いというらしいのですが……」


「どこに行けばいいですか?」


「東の応接室です」


「分かりました、すぐ行きます」


「倉田、今日は元々休日だから、時間は気にせずにな。別に用事が入ったら帰っても良いし」


「はい、では失礼します」


東側応接室


「失礼しま……」


「遅い!」


「うぇ?」


顔と手を手拭いで拭いながら応接室に入ると、そこには幼馴染の紅葉がいた。


「アンタ帰ったらスグ帰ってくるとか言ってたのに、なんですぐ帰って来んけぇ!?」


「いやそれは……」


「帰ってきて同僚と呑みにでも行ってんのかって夜まで待っても来んけぇ心配になって来てみたらずっとここにおるって!ウチやアンタの家族がどんだけ心配したと思っとるんじゃ!?」


「悪いとは思ってます……」


「じゃあ今すぐ帰って来る!」


「でも風呂に入ってない……」


「家で入りゃあ良ぇけぇ、すぐ支度する!」


「は、はい……あの、親方には早退しますと」


「分かりました、伝えておきます」


「早よせぇ!」


「ちょっと待って……」


嗚呼、次の新作航空機の話に入れない……。


同日 昼 相坂家


今日の朝にすることを終え、昼食を作る。和食で何か嫌いなものがあるか聞いても、浜綴の普通の食事についてはあまり分からないというらしい。結構なとこの料理は父親の、軍の付き合いで食べることもあるらしいのだが、いつも食べる料理に於いては成会矛料理のみを食べているらしい。


取り敢えず、炊き込みご飯、骨が取りやすいように鮭を使った塩焼き、出汁巻卵、若竹煮、そして麩と若布と豆腐の昆布出汁の味噌汁にすることにした。


後でアイナとハモンドさんが見られていて緊張するな。


そんなに変か?


まあ貴族というものは料理を女中などに任せるので自らの手で作るというのは変なのか。


あと男が作っているのも宮廷料理人や、軍のことをよく知らない人たちには奇妙に見えるのか。


あと味噌汁や若布も向こうにはないのだったか。確か米料理自体は芦麻菜だったか掩盤羽だったかの料理にあるとか聞いたことがあるな。そっちは余り珍しくはないか。


三人分の食膳の用意ができたので、それらを持っていく。


ハモンドさんは先ほどの通り、別室に居て貰っている。


「~~~、amen」


「頂きます」


自分は箸で食べているが、アイナはまだ箸を上手く使えないようなので、ナイフとフォークを使っている。


これこそ普通の料理。とても良い、美味いとは言わないが、普通というのは十分なことだと思う。


普通というのを得るというのは、ある種の贅沢なのだろう。


少し食べたところでアイナの表情を伺うと、アイナは涙目になっている。


「ま、不味かったかい?えぇと……」


「イエ、トテモオイシイデス……」


「じゃあ何故……?」


「Seaanの料理ハ、他ノ国ノ人タチカラ美味シクナイと聞いてイマシタガ、ソレハ少し味が薄いトカ、ソーユー話だト、思ってイマシタ……。デモ、アナタノ料理ヲ頂いテ、ヨーヤクソノ意味が分かっタヨウな気がシマス……」


「いや、別に成会矛の料理も悪くないと思う……よ?」


「ワタシが作った料理モ、余り大きな声デハ言えマセンガ、Ms.Hammondガ作った料理モ、ソンナニ美味しソウニハ食べてナイ……デスヨネ?」


「いやぁ……ははは。別にそれは……」


どうにも隠しきれていないような……いや、鎌カケか?


「イツモ笑っテ、美味シイト言っテイマスガ、少し汗が多イデスヨネ。夏ノコロハ暑さノセイダト思っテイマシタガ、秋にナッテモ料理ノトキダケ、シンタローサン、トテモ汗、掻いてマス」


鎌カケではないらしい。


「シンタローサン!」


バンと机を叩き、立ち上がるアイナ。


「今日ノ夕食、ワタシに料理ヲ教えナガラ作ってモラッテモ良いデショウカ!?」


また何かややこしいことになりそうである。


で、その日の夕方。


献立は玄米入り白飯、大根や竹輪、蒟蒻やゆで卵、湯葉や生麩を入れた昆布出汁の田楽、冷奴、秋刀魚の蒲焼、金平牛蒡、そしてほうれん草の御浸しである。味噌汁が無いのは田楽で事足りると感じたためである。


正直、教えるには若干簡単すぎるかもしれないが、入門としては十分なものだろう。


玄米入りの白飯は米を炊く動作で事足りる。田楽は出汁を取り、食材を切って入れたりするだけである。冷奴は言わずもがな。秋刀魚の蒲焼はタレを作るのが多少考えることはあるだろうが結局計量でしかなく、その後は適当に塗りながら焼くだけである。副菜なので一尾のみを切って焼くだけである。そして金平牛蒡は牛蒡を笹がきにし、調味料を入れて炒める。ほうれん草の御浸しはほうれん草を茹で、切り、冷水で冷やし、絞り、田楽から取った出汁にごく少量の醤油を入れた物を掛ける。


蒲焼と金平牛蒡と御浸し以外はほぼ説明になっていないのではないだろうか。


しかし兎も角、もともとの筋は良かったのか、アイナにやらせてみてもおかしなことは起こらなかった。


……やはり成会矛料理が……いや、やめておこう。


そしてそれらが食卓に並ぶ。


「美味しそうだね」


「ハイ!トッテモ!」


そして頂く。


「~~~、amen」


「頂きます」


ふむ、こういう物が毎日ならなぁ……。


食べ終え、風呂に入る。今日は一人である。やはり一人だと気が休まるな。


そして風呂から上がり、寝支度をする。


寝室


「シンタローサン」


「何?」


「アナタにお料理作っテ貰エテ、トテモ嬉しカッタデス……」


「そうか」


「ワタシ、誕生日ノ時、一緒ニ居れナカッタノデ、今日ハソノ寂しサモ埋めラレタノデ、良かっタデス……」


……ん?誕生日?


「えぇと……今、誕生日って?」


「ハイ、ワタシノ誕生日ハ9月9日デスヨ?」


「……」


このことに関して、夜遅くにアイナに色々なことを暈しながら、7歳を超えた男女は風呂や寝るのは余り一緒にいるべきでないとか、それは婚約者でも同じだとか、そのようなことを説明する羽目になり、挙句の果てに、


「今日ダケ……今日ダケデ良いノデ、一緒ニ寝てクレマセンカ……?」


と、涙目に訴えかけられたため、今日だけということで承諾するまでになってしまった。


やはり何か、外堀を埋められに来ている気がする。

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