13話 戦闘機と爆撃機
明海二年 9月7日 空母飛鶴 飛行甲板
「今日の午前はいつも道理の航空射撃訓練、今日の午後は新たに爆撃機部隊と協力して実戦演習を行う」
「どのような演習でしたっけ?」
「爆撃機とその護衛の戦闘機が決まった航路を飛び、その間に抵抗する直掩役の戦闘機がどれほど爆撃機から出た射撃目標に当てられるかと言う訓練だ。これは爆撃機の回避の訓練、戦闘機による爆撃機護衛の訓練、艦隊防空の訓練になるという訳だ」
「すいません……分かりました」
「まずは航空射撃訓練だ」
航空射撃訓練とは、偵察機早風から出した射撃目標……吹き流しを射撃して、どれほど当たるかを鍛える訓練である。
因みに偵察機太刀風は訓練機として全て陸に降ろされたが、偵察機早風は今でもこの艦に四機のみ、そのままの用途で載せられている。
模擬戦闘は最初の一週間から二週間程度行われたが、射撃に於いても状況の対応に於いても中途半端であったため、射撃については射撃訓練に移行され、状況については今まで考え出されるまでやっていなかったのである。
今までその時間は戦闘機動訓練とされ、どれだけの激しい機動ができるかの訓練を行っていた。
話を戻すが、射撃訓練の目的は二つ。
射撃訓練とある通り、戦闘機乗りの射撃技術の向上のためが一つ。
そしてもう一つ、これは戦闘機乗りには関係ないが、早風乗員の、偵察した時にどれだけ飛行能力をもって逃げられるかの訓練でもある。
真後ろから撃っても意味は無いし、早風にも当たりかねないので、斜めから吹き流しに銃弾を当てる。
そのような訓練である。
空に上がり、操縦桿を傾け、発射鈕を押す。
バババババ……
吹き流しが少しだけ荒ぶる。
手応えはあったな。
そして、それを何度も繰り返す。
太陽は空高く昇る。
空母飛鶴 艦内食堂
「今日も飯が上手いな」
陸の“家”に帰っていた時には、この昼飯だけが上手い飯であったな。
今ではあの絶妙に不味い料理も多少懐かしいような……いや、別にそこまで食べたくはなかったな。
せめてもう少し元から美味い料理であるなら良かったのかもしれないが。
「よう相坂、前いいか?」
「応」
「聞いてくれよ相坂~、やっぱりあの信号弾五月蠅いんだよな~、あれいつか耳が壊れる」
相も変わらずの倉田であった。
「ほ~」
「絶対あれ改善する策あるよな」
それに対する俺の返しも、それすら気にせずしゃべり続ける倉田も随分と慣れたもんだ。
「でさ~、受信機は多少は何とかなっても、送信機がどうしても小型化にはかなり時間が掛かる訳よ。そこで、お前にいい案が……」
「ない」
「え~そこをなんとか~」
こいつは技術者の技の字もない自分に一体何を期待しているんだろうか。
「たまに使ってる奴から意外といい案があるもんよ。別口の問題がそれで改善するかも知れないしさ」
「たまにか」
「そこはしょうがない。いつも出たらこっちの立つ瀬がない」
「で、なんだっけ?信号弾?」
「その話は終わった。俺の話聞いてたか?」
「いや?」
「えぇ……まぁいいや。取り敢えず話を戻すと、無線機の小型化の話」
「それの受信機は兎も角、送信機の小型化が難しいって話か」
「なんだ聞いてたのか」
「最後の方だけな」
「で、だ。その改善案は無いかって話」
「もう別に俺らの飛行機には載せなくていいんじゃないか?」
「と、いうと?」
「それ用の飛行機を開発して……そうだな、桐山とかを改造して、それだけが送受信できるようにして、自分たちは命令司令を聞くだけ。それ用の飛行機は偵察も兼ねたらいい」
「でもなぁ……それだと燃費が悪いというか……偵察にそこまでしても、と言う感じがするが」
「馬鹿言え。偵察は重要だ。そいつらから来る情報がなければ俺たちは空でいつ敵が来るかも分からずに飛ばなきゃならん。それで少しでも反応が遅れれば、実戦ならすぐに落とされるということを意味する。その一つの仕事がなくなるだけでも勝てる確率が大幅に上がる」
「それもそうか……技廠に一応伝えておく。俺は偵察の重要性をある程度は理解したけど、上層部が理解するかは難しいからな。期待はするなよ」
「そうかよ。なんだったんだ今の」
「まあそう言うなって。いつかは理解できる奴らが増えるさ。飛行機乗り、戦闘機乗りが増えればな」
「その広報を担当するのは自分らじゃなくてあのお坊ちゃんたちだろ?どうにも上手くいく気がしないな」
「言ってやるなよ」
「広報の目玉のあいつらがヘマしたら自分たちの評判も下がることは必須だ。言いたくもなる」
「それは……ご愁傷さま」
「……もうそろそろ時間か?」
「いっけね!俺お前の機体視てくる!……プハァ!御馳走様でした!」
「きったねぇな!!おい、味噌汁飛ばすなよ!……行っちまったか。自分もそろそろ行くか」
そして再び空に往く。
今回の模擬戦闘演習は飛鶴唯一の爆撃大隊である、海軍第二三航空群 第二〇七飛行大隊の桐山四機も参加する。
戦闘機は、飛鶴に向け模擬爆撃を行う代替を護衛する先攻が第二〇五飛行隊、後攻であり、飛鶴の直掩機という設定の第二〇六飛行隊である。爆撃護衛隊である戦闘機天風は四機である為、桐山の護衛は一機に付き一機という護衛の少なさであるが、爆撃機にも自衛兵装の航空小銃を積んでいるため、それでも大丈夫であると判断された。
今回は45分を戦闘機の攻守を入れ替えての二回、計90分のみの演習である。
飛鶴の偵察機部隊である第二〇一飛行隊は戦闘の経過観察として飛び、飛鶴の全ての飛行隊が参加する今までに比べ大規模な模擬戦闘演習である。
基本的に判定は偵察機部隊の第二〇一飛行隊に一任しているが、個別の戦績の自覚にも繋がるようにと、射撃目標を爆撃機のみならず戦闘機にも付けている。
偵察機早風から信号弾が放たれ、模擬戦闘が始まった。
爆撃大隊と自分たち戦闘中隊は一旦、艦隊から離れ、大きく旋回、航路を確認し、再び艦隊へと向かう。
警戒している直掩機が艦隊の周りをうろついている。
すぐさま彼らと戦いたい衝動に駆られるが、今は編隊行動を続けなければならないため、その衝動を抑え、艦隊へと突き進む。
こちらに気付いたであろう二機が、こちらヘと向かってくる。
前衛である自分と小川は編隊全体の迎撃を三番機生機と四番機杉に任せ、直掩の戦闘機との尾追いを始める。
こちらも全力を尽くすが、どうにも相手の銃撃を防ぎきれていない気がする。
いつの間にか信号弾が上がっているのが見えた。
今度は自分たちが空母の直掩機として艦隊の護衛に当たり、爆撃機とその護衛の戦闘機の吹き流しに向けて撃つ。
しかし、後半戦の演習が開始されて半分も経たないうちに偵察機早風から終了の合図の信号弾が放たれた。
「なんだ?」
目を前方にいた戦闘機と爆撃機から放し、他の航空機に向ける。すると、爆撃機の内の一機が、尾翼あたりから黒煙を大量に噴き出していた。爆撃機桐山の燃料槽は機体前方下部と機体後部にある為、場合によっては爆散も有り得る危険な状況であった。それに、機体はどの機種に於いても消火装置の類は一切搭載していない為、一刻の猶予も許さない状況であることなのは明白であった。
空母含む多くの大型の軍艦には消火装置があり、飛行甲板にもそれらはある為、件の爆撃機はすぐさま着艦を始め、着艦後はすぐに消火作業に移った。
結局、この演習は一回のみで中止され、この後に再び演習されることは、安全性が確保されるまで行われないことになった。
空母飛鶴 飛行甲板
「暇だな相坂」
「そうだな」
俺の横にいるのは二番機の小川である。
倉田は今、発火したであろう爆撃機の調査などに駆り出されている。
「でだ、今回の戦闘、前半は結局どうなったんだ?俺聞いてないが」
「直掩機側だとよ。爆撃機も回避機動は取っていたようだが、それ自体の効果はあまりなかったみたいだな」
「やっぱり、爆撃機にはもっと多く護衛が必要だと思うな。実際、後半は途中までだったが、こちらも爆撃機の吹き流しにかなり当てることが出来たと思う。それに俺自身、前半も吹き流しに当てられた気がするし」
「小川、お前自分の吹き流しの被弾数数えたか?」
「いんや?」
「できれば数えとけよ。別に知らせなくても良いが、その為にやってんだし」
「はいよ」
「お前がその調子じゃあ、あの二人もやってないかも知れんな。後であの二人にも呼びかけとくか」
「お前本当にそういうの図太いよな」
「何がだ?」
「お前が隊の隊長だってことはよく分かっているが、それでもあの二人は先輩だぜ?言うのは怖くないのかよ?」
「別に。必要であったのなら言うことは言うし、必要がなければ言わない。たったそれだけだろう?」
「やっぱり隊長は図太いよ」
「そうか?」
「その上自覚無し。こりゃ俺が緩衝材にならいとな」
「そんなに問題を起こしている気はしないが。実際、殴り合いにまでなったことはないし、それはおろか、言い合いにすらなったことも稀なのに」
「そういう奴が一番危ないんだよ。いつかそれを不満に思ってる奴が爆発して問題になる。それも、結構大きな問題にな」
「流石悪運が強いだけはあるな」
「喧嘩売ってんのかお前」
「すまんすまん。今度長距離の航行があったらお前を上陸許可の推薦に挙げとく」
「そういう埋め合わせに気を遣えよ。特にあの二人の場合、やり方を間違えれば自尊心を深く傷つけることになる」
「気は付ける」
「それにしても、明日からこの時間、何の時間になんのかね~?」
「どうせ戦闘機動訓練だろ?」
「だろうな。俺が言っててなんだが」
小川の言っていた通り、帰港するまで午後の時間は戦闘機動訓練になった。
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