118話 因縁
明海二十三年 1月30日 フランドル 某所上空
浜綴の二機、墺利亜の機が三機。
非常に高度な戦いが繰り広げられている。
背後を取り合い、時たま期待から弾丸が撥ねる音が広い空に響かれる。
周りの機が彼らを討ち取ろうとするも、それらの弾をひらりと躱し、一切当たらない。
彼らは彼ら同士の弾にしか被弾していない。
その最中、静凪隊に入電。
『海眼より静凪隊。現在貴隊が護衛する浮蘭詩の爆撃部隊を護衛しながら帰投支援を行え』
「……どうした?」
戦いの緊張度が高まってきたところへ、水を差されるような命令。
ほんの少し気を悪くしながらも、その命令の真意を相坂が聞く。
『浮蘭詩の爆撃機の被弾が多く、任務を全うできそうにないらしい。成会矛の部隊はその任には問題が無いらしいのでそのまま任務を行わせるから、爆撃の規模自体縮小になるが、任務自体は続行されるため、心配することなく彼らを帰路に導いてくれ』
「了解した。小川、聞いたな」
「はいよ、了解」
数十分に亘る戦いを終え、浮蘭詩の爆撃機の前に着き、帰投するよう促す。
浮蘭詩の爆撃機は分かったかのように、旋回を開始し始め、彼らの帰投方位へその機首を向け、爆撃機の本来の護衛機はそれに追従した。
同空域
「逃げる気か……。そうはさせない!」
突如挙動が変わり、爆撃機のエスコートをし出した敵機。
それに追撃をしようとエンジンをフルスロットにし、敵機に追い付こうとする。
何発か機銃を撃ったが、その多くは躱され、当たった弾丸も先ほどと同じように、致命傷には至ることはない。
しかしその追撃も長く続くことはなかった。
「隊長!」
僚機の一人から、呼ばれてハッとする。
「なんだ!?」
「燃料がもうないです!帰投を!」
そう言われ、自分の機体の燃料メーターも確認してみると、帰投はできるがこれ以上の戦闘は出来そうにないほどに燃料が減っていた。
「そうだな……。追撃中止!帰投する!」
「「了解!」」
結局、彼らはその雌雄を決することはできず、それぞれ帰投することとなったのであった。
同日 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 第一会議室
「……まとめると、こちらの航空部隊は戦闘機数機の損耗で済み、多少の戦線の膠着の解消は行われたが成果は求めていた以下のものだった。今後も同盟国からの支援要請が行われる可能性は非常に高いだろう。次の作戦は未定だ。急遽支援要請が入る可能性もあるのであまり気を抜かずにいてくれ。以上で作戦後会議を終了する。解散」
皆、どこか疲れたような息を吐いて部屋を出て行った。
同日 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 飛行甲板
「はぁ、あ……」
微風を感じる。
夕闇に吞まれそうだ。
この空気。
何かを感じる。
この甲板の上に他の搭乗員もいる。
しかし、この”何か”を感じているのはどうやら自分だけらしい。
「ふぅ……ん……」
腕を伸ばしてみる。
変わらず左腕に力が入れにくいが、腕の痺れはない。
近いうちに、自らの何かが決まるのか、どうなのか。
こういう時、倉田か生機が話しかけてきたが、今回はそうではなかった。
これも、そういうことなのだろうか。
同年 2月3日 フランドル 某所上空
「そのとき」は、すぐにやって来た。
「また『青線』か……」
浮蘭詩からの支援要請が急遽届き、戦闘機部隊がすぐに駆り出された。
「相坂、気を抜くなよ」
「勿論」
気だるさを振り払うかのように小さく相槌を打ち、現れた機体に集中した。
同空域
「来た……」
敵の爆撃機が来ると聞いてから、奴らも来ると、どこかで感じていた。
自分たちと違う迎撃部隊が先に上がり、自分たちの部隊も増援として上がってみると、敵の爆撃機と出遭う前に、その護衛の増援であろう彼らと相見えた。
戦闘前の勘が当たった。
これはいい。
こういう時は、いい戦い方ができるときだ。
今日は機体の調子もいい。
エンジンストール寸前まで機体性能を引き出せば、敵殲滅はならずとも、何機かは撃破できるかもしれない。
敵戦闘機は「あの二機」の他に四機の計六機。
こちらは俺たち外国人・懲罰部隊の五機に加えて正規軍部隊を寄せ集め、更に五機が加わっており計十機だ。
今日の戦いで決する。
勘、機体、機数で押し通す。
自らの本能が、ここで奴らを墜とせば、戦況が変わると告げている。
「奴らを潰す!確実にだ!」
「「「了解!」」」
自ら声を張り上げ、部隊を鼓舞し、そして部隊もそれに応えた。
改めて、スロットルレバーに力を入れた。
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