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凪の中の突風  作者: NBCG
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116話 新年の変調

明海二十三年 1月6日 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 第一会議室


「良い知らせと悪い知らせがある」


そのように、どこかで聞いたような定型の文言を上官が述べた。


「まず、良い知らせだが、増援だ。北銀連邦が正式に参戦した」


その言葉に、室内が多少騒つく。


「今までは何処からも分からなかった義勇軍がポツポツ湧いて来るだけだったが、これで地上の進攻も円滑に行えるようになるだろう。ま、戦況が決まって勝ち馬に乗っただけだろうがな。それでも援軍は援軍だ。地上軍の援軍だけでなく、航空機もあるらしいが、質問は後にしてくれ。次に悪い知らせだ」


ここで室内の皆の背筋が伸びる。


「煤羅射が藩泥流と講和するになった」


部屋の皆は何となく納得のいった顔をしていた。


「煤羅射は去年の二月に起こった革命を始めとして、軍での混乱が続いてまともに戦闘が行える状態ではなかったらしい。まあこれは多くの人間が予想していたことだな。そしてこれで煤羅射の独立を目指していた国々がついに独立することになるだろうが、暫くは私たちに関係することではないだろうから今はその状況については割愛する」


そこで上官は息を継ぎ、再び話し始めた。


「北銀からの援軍もあるが、東部戦線が終結したことに伴い、我々が戦う西部戦線に藩泥流が注力することが予想され、さらに戦線が苛烈を極めることになるだろう。諸君らも気を付けるように」


この後、北銀の連邦軍の識別標を一通り確認した後、今日の任務である哨戒任務を行うのであった。


同月 16日 藩泥流 某所 上空


「今日も敵が多い……」


煤羅射……今はパーラメント連邦か……。


そいつらが藩泥流と講和をしたのがそろそろ響いて来た。


最初はそれほど敵の戦力に変わった様子はなかった。


しかし最近となっては敵の数が1.5倍から多いときは2倍ほどになって襲い掛かってきた。


改めて気合を入れ直さないと、敵の最新機に囲まれれば落ちてしまいかねない。


藩泥流の戦力が増えたのは、どうやら東部戦線が終結し、その戦力がこちらへ向かってきただけではないらしい。


煤羅射がパーラメント連邦になった際、その属国、属領がいくつか独立したらしい。


その中でも国力の無い国家はパーラメント連邦側か、それとも藩泥流側に付くかを選ぶことになる。


そして藩泥流側に付くことを選んだ国家はその姿勢を示す為、とても単純で短絡的な手段を用いたのだろう。


藩泥流への義勇兵派遣だ。


流石に独立した国家が直ぐに正式に軍を派兵することは難しい。


しかし、少数を義勇兵として派遣することはできる。


これを藩泥流側の支援とし、恭順の姿勢と見せるには十分だった。


敵の数は増えるが優秀な操縦士が増えるには時間が掛かる。


自分たちはそれまでにそうなり得る操縦士の乗る飛行機を落とすだけだ。


「敵部隊壊滅!撤退していく!」


『静凪隊、追撃は許可できない。帰投せよ』


「静凪隊、退くぞ」


「了解」


敵の数は多くなるが、やることは変わらない。


同日 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 飛行甲板


「倉田」


「どうした?」


「被弾か急旋回の所為か、帰投する途中に機体がまたおかしな動きを始めた。改めて点検を頼む」


「ああ……。最近多いな」


「敵も多くなってきている。出来るなら機体にあまり無理を掛けたくはないんだがな」


「俺達整備士は操縦士に機体に無理が出来るように弄ってんだ。気にすんな」


「そう言って貰えると有り難い」


「ま、この任務が終われば、何回かは飯と酒でも奢ってもらおうかな」


「さっきの『気にすんな』ってのは何だったんだ……」


「多少は奢ってくれても良いって話だ。互いに陸に仕事はあるし、それに、時間ができたらで良いけどな。別に高い食事処を要求するほど図々しくはないって」


「そうか……」


まあいいか……。


倉田、そして整備士達にはいつもの仕事の上、さらに仕事を増やしてしまい、かなりの負担を強いていることを考えれば、それもいいのだが。


同月 20日 浮蘭詩王国 王城


「拙いな……色々と拙い……」


国王は報告書を見て目元に手を当て、溜息を漏らした。


「ええ。只でさえ東部戦線が終結し、旧メラシア帝国と合い見えその方面で鍛え上げられた部隊が陸空問わずこちら側に来ているというのに、セイアンや雇われのヒンテイは十二分の戦果を挙げていますが、我々は……。それにヒンテイと合同作戦や演習を行ったロマーナも最近は戦果を挙げているようです。そして援軍のイギンダ……彼らに対しても目を瞑ってはいられませんね」


それに側近も苦い顔をしながら頷く。


「我々も急激に実用化された航空機能力を手に入れたは良いが、やはり一歩先を行くセイアンやヒンテイに劣る。それに敵のバンデルにもな……。ロマーナやイギンダも、航空機能力では場合によっては我々よりも能力が高い可能性もある。全く、バンデルに対して押されているのはわが国だけではないのか?敵新型機は能力が高く、完全に対処できているのはヒンテイのみ、対等なのはセイアン、距離からそこまで脅威になっていないロマーナ、イギンダ……。陸軍も、海を越えているというのに対等なセイアンに、山岳地帯を活用して凌いでいるロマーナ、援軍という関係上、殆ど関係の無いヒンテイとイギンダ……。我々だけが、空でも陸でも押されている……どうすればいい……?」


「……」


頭を抱える国王に、何も言えない側近であった。


「兵器や戦術の開発を待つしかないのか……」


自らを納得させるように、そうポツリ、呟いた浮蘭詩の国王であった。

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