114話 一時の休息とフランドル
明海二十二年 11月6日 北海 某所 上空
『これより演習を開始する』
今、自分たち大浜綴帝国海軍の飛行機乗り達は演習を行っている。
実戦に出ないだけ、休息とでも思っておくことにする。
本当の休息は例の敵戦略爆撃航空阻止作戦の後の数日程度だったが。
銃創を負った者は治療し、安静にするために、より多くの休息を得ているらしいが、自分たちは機体の修復が終わると同時に再び空で演習を行う日々である。
自分たちは比較的早期に修復が終わったので、今は機体の修復を終えた者を重きに置いて演習をしている。
銃創を負った者は、今は治療を終え、安静にしている。
自分たち雄州派遣艦隊の操縦士はあまり数が多くなく、操縦士の代えも利かないので、彼らが安静にし終わった後、訓練し実力が回復するまで、再び進攻作戦で駆り出されることはないだろう。
それまでは戦場に出なくても良いとでも考えておくとしよう。
同月 10日 雄州派遣艦隊 旗艦 角端 第一会議室
「皆、集まってくれたな。真龍の方はまで癒えない航空部隊の人間もいるようだが、取り敢えずはこの船の人間は全員飛べる程度には回復してよかった、と、言っておこう」
上官は何やら含みを持たせた言い方をした。
「これからの話だが、成会矛は今月の20日から浮蘭詩はフランドルにて、戦車を用いての大規模な攻勢に出るとのことだ。これにより、その大規模な戦車部隊を運ぶ輸送艦に付かせる飛行機の護衛の部隊が足りない、とのことで、我々に支援も求め出た……らしい。勿論の真龍は万全ではない為我々にその任務が回ってきてしまったらしい」
そこで上官は溜息を吐いた。
「今回は本艦を護衛する護衛の駆逐艦数隻と共に航空警戒任務に就くことになった。輸送であるので行きと帰りだけだ。……まぁ、頑張ってくれ」
上官は言うことが無いのか、適当に話を締めて終わらせた。
まあ、上官が溜息を吐いた理由は何となくではあるが、恐らく分かる。
自分たちは確かに派遣された部隊ではある。
だが、傭兵ではない。
あくまで正式な国家軍の部隊であり、それがたまたま雄州に派遣されているだけに過ぎない。
しかしながら、成会矛軍の内部の一部の軍人は、自分たちを傭兵くらいの程度で呼び出している気がしないでもない。
上官はそのあたりが不満であるのかもしれない。
もしそうであるなら、自分たちもその扱いは確かに不服である。
世界―――もとい雄州の国家らから大国と呼ばれてからあまり時は経ってはいないだろう。
しかし、それでも確かに大国の、それも優秀な者たちがなれると言われる部門の正規の軍人を傭兵が如く扱われるのは納得にはいかない。
勿論、戦力が足りないところに使える戦力があれば、使おうとするのは当たり前だろう。
しかしそれでも納得はできない。
その心の靄を、自分たちも改めて溜息と言う形で表すのであった。
同月 18日 北海 某所 上空
『海眼より舞武隊へ、時間だ、帰投せよ。静凪隊、変われ』
『舞武隊、了解。帰投する』
「静凪隊、了解。この地点からでよいか?」
『ああ、それでいい。では、その任務を果たしてくれ』
「静凪、了解」
自分たちはしっかりと任務を熟し、艦隊の周囲を哨戒する。
「Zzz……」
「はぁ……」
ガンッ!
自分の機体の翼端で、小川の機体の翼端を突いた。
「あぁ!……済まない」
「流石に寝るなよ……」
何のメリハリもない任務。
正直、眠くなってしまうのも頷ける。
殆ど何も起こりはしないが、それでも海と空を見続けなければならない。
危険すぎる任務は一番嫌だが、これほどまでに退屈な任務もそこそこ嫌なものである。
せめて、この任務が報われることを願おうか。
同年 12月5日 藩泥流 某所 上空
その願いは叶わず。
状況は膠着と言う形で終わってしまったらしい。
成会矛は「戦術的な成果は得られた」としたらしいが、どうやら戦略的な目的は達成できなかったらしい。
最初こそ快進撃とは言わずとも、そこそこの進撃は出来ていたらしいのだが、鹵獲されたり対応策が練られてしたりしてしまったため、反撃に遭い、結局この戦いでは戦線は殆ど動かなかったらしい。
この戦果から成会矛はあと三日ほどでこの作戦を完全に切り上げるらしい。
現状のままではただただ戦力を無暗に消費するのみであり、さらに、以前に成会矛が飛行船の船渠を攻撃する作戦が展開されていたが、一部の破壊は行ったが、それらの損害は成会矛本土への爆撃が止んだり少なくなったりするほどではなかった。
政治の方では講和の話などが上がってきているという話を聞くが、それは別に戦場に流れる弾丸が少なくなることを意味しなかった。
連合軍がより有利な状態で講和できるように、成会矛は再び藩泥流本土への攻撃を仕掛ける作戦を決意した。
しかしその勢いを保つため、一時的に戦線を縮めるらしく、更にその防衛に自分たち浜綴の航空部隊を航空阻止のために“使う”らしい。
どうやら今年中に帰ることは出来ない様だ。
向こう側―――所謂『同盟国』側の国家、特に藩泥流も力を蓄えているらしく、あの夜間爆撃阻止以来の大規模な戦闘はなかった。
しかし、こちらもそこまで手を抜いても居られない。
「この機……強いな」
目の前の機体は以前見かけた藩泥流の新型の機体。
成会矛の諜報活動から分かった名前はフォルケル D.Ⅶ。
馬力性能やそこまで洗練されていない機体では、やはり突風五型には劣る性能ではあるものの、気を抜いては戦ってはいられない機体である。
こちらの部隊の数と敵部隊の数の比率、そして向こう側の操縦士の練度によっては落されかねない。
藩泥流は浮蘭詩への戦線にも用いており、最近の浮蘭詩は押され気味である。
『海眼から作戦全機へ。各位、燃料を確認せよ。場合によっては帰投に支障が出てくる可能性もある機体があるはずだ。気を付けろ』
「あ……」
生機の声で気付く、燃料の消費量。
「隊長もか?」
「ああ、あの機体はよく見るが、練度が他と桁違いだな」
「またあの青の線が入った機体を逃したのか?」
「ああ」
「こちらは何とか一機落としたが、結構被弾してしまった」
「大丈夫か?」
「大体が主翼だな。主翼の燃料槽が燃えてないのが幸運だな。まあ燃えても消火剤で今までどうにかなっていたがな」
「それでも消火剤で何とかなっていたのもどうにも幸運だと思うけどな。兎も角、帰投だ」
「了解」
いつか見た気がする機動をする逃した敵機から目を離し、自らの帰路についた。
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